5人の気鋭監督が35ミリフィルムで短編を完成させた文化庁委託事業「ndjc 2011:若手映画作家育成プロジェクト」。藤澤浩和監督は、誰よりもエンターテインメント性に富んだ作品に仕上げた。『嘘々実実』で、就職活動をテーマにこれでもかと笑わせてくれる。
藤澤監督は、大学卒業後に上京し助監督として映画制作の現場を走り回ってきた。井筒和幸監督、崔洋一監督、金子修介監督、矢口史靖監督ら日本を代表する娯楽映画の担い手に学んできただけに、今回も「国の事業からできた作品ではありますが、あくまで誰もが楽しめる作品にしました」という。
助監督から監督へ。まずは短編でもメガホンをとるという目標を達成。その面白さと難しさを体感し、次は長編をと意気込む。「井筒監督のいう“おもろうてやがて悲しき”な映画を撮る監督になりたい。笑かすことにはこだわっていきたい」とアピールする。
>>藤澤浩和監督のプロフィール
―作品の企画意図について教えてください。
就職活動をテーマにした背景には、僕自身が就活のときに40社以上落ちまくった過去があります。日本の就職活動は、22歳や23歳の若者に対して何十年か先の決断を迫りますが、それってなんだか気持ち悪いと感じませんか。そんな歪な就職活動について風刺したいなと。
就職活動は、これからする方にとっては不安なものであるでしょうし、年配のかたにとってはそのときの決断あって今があるわけで、そういう意味で、この題材なら普遍的なものが描けるのではと思いました。
―コメディ・タッチで描いたのはなぜですか?
僕が基本的に真面目な人間じゃないから(笑)というのもありますが、助監督として師事してきた井筒和幸監督がよくおっしゃる「おもろうてやがて悲しき」な作品が好きなので、そういうところに落とし込みたいと思いました。
―自信があるところ、見てほしいところは? 主人公は就職活動を通じて嘘をたくさんつき、嘘をごまかすためあらゆる努力をしていきます。その過程をファンタジーチックにバカバカしく描きました。バカなことを一生懸命やっているなと思いながら見てもらえたら嬉しいですね。
就職活動を控えた学生向きな作品ですが、さにあらずな内容ですから、いろんな人にみてもらえれば。国の事業からできた作品ではありますが、あくまで誰もが楽しめる作品にしましたから。
―制作上で苦労したところはどこですか?
助監督を7年くらいやってきて、これまで現場で脚本を読んであれやこれやと言ってきたくせに、いざ自分で書くと全然駄目で……。脚本指導を受けるたびにつまんない、つまんないといわれて。でも、これまで脚本は映画の設計図だと教えられてきて、脚本で面白くないものを現場で面白くしようがないことはよくわかっていますから、叩いてもらって助かりました。
現場では、いわゆるプロのキャストやスタッフを使って演出するのは初めてでした。こういう(若手映画作家育成事業の)作品だったので、皆さんに甘えながらやったところもありますが、自分が逆の立場だったときに監督が決めてくれないと腹立つのもわかるわけで、直感を信じて良いものは良い悪いものは悪いと判断しました。
―35ミリでの撮影・編集はどうでしたか?
実のところ、35ミリだからといって現場で大きな違いがあったかというとそうでもないんですよ。
これまで助監督として35ミリの現場も経験してきましたし、演出もあくまで芝居をきちんと収めるということで、フィルムだからといって特別に変えてはいません。ただ、映画の現場も最近はデジタルが多かったですから、やっぱり初めにあの“ぼやけ”を見たときは感動しました。ちゃんと細部まで映るなあと。アナログでの編集も特別なものでした。
―これまでのキャリアについてあらためて教えてください。
エスカレーターで進学したので、勉強もせずに、とにかく映画ばっかり見ていた暗い学生時代だったんです。漠然と映画監督になりたいと思っていたんですが、美大や映画学校に進学するほどの勇気はなく、自主映画を撮っても本気じゃなく、4年生のときは普通に就職活動をしましたがこれが全然で。どうしようもなくて、とにかく映画の制作現場に転がり込もうかなと考えていたときに、井筒監督の「パッチギ!」の現場を手伝わないかと誘われて、東京に来て助監督になりました。
助監督は楽しいんですが、楽しさにかまけているといけないなと思っています。あくまで、助監督も監督のひとりだと思っていないといけないんですよね。僕は段取り屋の側面が強すぎて、あまり良い助監督じゃない(笑)。現場ごとに反省しきりです。
―現在の助監督をめぐる環境について教えてください。
「パッチギ!」の現場を手伝ったときに、これから助監督になっても監督にはまずなれないよと言われたんですよ。監督になるなら、自主映画とかCMだとかの異業種からの方が近道だよと。その状況は現在まで変わっていないと思います。ただ、助監督側も自分が撮るんだ!という強い意識を持っていない部分もあると思うんです。今回のような企画もあるし、自分がという意識を持たないといけません。そうすれば、道は開けるんじゃないかなと。助監督はみんな「ndjc」に参加した方がいいですよ。
―「ndjc」に参加したきっかけは?
振り返れば、29歳になったときに将来について焦ったんですよね。このまま助監督を続けたところでどうなるものなのかと。それで脚本を書いてみて脚本賞に応募してみたりしたんですが、まあ押し並べて駄目で。他になにかないかなとチャンスを探していたところ、こういうものがあると知ったんです。2回目の応募で短編を撮ることができました。
こうしてチャンスがあるということは、僕らのような助監督にとってすごく糧になります。やはり、みんな監督になりたいわけですから、僕のまわりの助監督にも、僕の話を聞いて来年は参加したいという人がたくさんいます。それにデジタル化が進む中、年末に35ミリの現場があるということは、技術部にとっても糧になっているようです。すごく意味のあるプロジェクトだと思います。
―プロジェクトを通じて学んだことは? 映画で伝えるということについてもう一度考える良い機会になりました。動きと台詞だけで人に狙いを伝えるのがこうも難しいものだったかと。
それから、設計図としての脚本の重要性を再認識させられました。自分で書いた脚本のはずなのに現場になって戸惑うこともありましたし。想像力をちゃんと持たないといけません。とにかく、1本監督をさせていただいてわかったことはたくさんありました。
―今後の目標を聞かせてください。
「おもろうてやがて悲しき」な映画を作る監督になりたいですね。ジャンルとしては、やはり笑かすということにはこだわっていきたいと思います。
理想とする井筒監督に限らず、崔監督、金子監督、矢口監督も皆さん歪ながらもそれぞれ確固たる部分がありますよね。僕もそういう特徴を出していかないといけません。やや見えてきているのは、今回の作品に少し現れているような、すねた感じであるとか、妬みだとか、いわゆる陰の部分がそうなのかなと。
作品に登場する男の子にも通じますが、やってみないとなにも始まりませんから、企画書や脚本を書いていろんなプロデューサーの方のところへ持っていき、見てもらいたいと思っています。
―最後に自由にアピールを。
最近痛感しているのは、これまで助監督として映画を作る場だけで終わらせてしまっていたということです。やはり観客まで届かないと意味がないわけで、今回の「嘘々実実」がちゃんと届き、良かったにせよ悪かったにせよ話題にしてもらえれば幸いです。もちろん面白かったねと言ってもらえるのが一番良いですが、それに関しては内容次第なので。
スタジオシステム崩壊後、助監督から監督にはなりにくいのは確かです。でも、だからといってプロデューサーが怠慢になっているわけじゃないとも思います。助監督の努力が足りない部分あるはずです。双方が擦り寄って監督になる機会が増えれば嬉しいです。
「ndjc 2011」一般向け特別興行日程:2012年2月25日(土)~3月2日(金)
場所:ユナイテッド・シネマ豊洲
時間:2月25日/18時10分~21時30分 ※5作品上映後に監督5名によるティーチ・インを実施
2月26日~3月2日/18時40分~21時30分 ※上映前に監督による舞台挨拶を実施
入場料金:1000円均一
「ndjc」公式サイトで詳細のほか、お得なチケット情報などを順次掲載
(C)2012 VIPO
※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。