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【ndjc 2011特集】谷本佳織監督、知的障がい者テーマ「次は長編で」

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【ndjc 2011特集】谷本佳織監督、知的障がい者テーマ「次は長編で」

2012年02月17日

谷本監督.jpg 5人の気鋭監督が35ミリフィルムで短編を完成させた文化庁委託事業「ndjc 2011:若手映画作家育成プロジェクト」。谷本佳織監督は、作品を通じて自身の半生に向き合った。知的障がい者の妹との実体験をベースにした『あかり』。メッセージ性の強い題材を、ほんわかした関西の空気に乗せ優しくも繊細に切り取って見せる。

 谷本監督は、2006年から東映で芸術職研修生として働いている。これまでに東映京都撮影所、同東京撮影所で勤務。今回の作品も東映京都撮影所が制作プロダクションとしてかかわるなど、日本映画の歴史で脈々と受け継がれてきた東映の遺伝子を次代に継承するひとりとしても期待される。

 今回の経験を生かし、次は同じテーマで長編に挑むという。「長編では短編で描ききれなかった深い部分にまで迫る」と意気込み、「今回の短編を気に入ってもらい、長編を撮るのに力を貸していただける方がいらっしゃれば嬉しい限り」とアピールする。


>>谷本佳織監督のプロフィール


―作品の企画意図を教えてください。

 私の妹が知的障がい者で、そういった方々を描いた作品を撮りたいと活動してきました。彼女たちは誤解されたり、差別される存在であるけれど、もちろん良いところがある。一方で、メディアにとり上げられるのは逆に良いところばかり。もっとリアルな部分を映画に込めてみなさんに見て欲しかったんです。

 映画で描いた物語は、基本的に実体験がもとになっています。そのとき実際に自分が感じた気持ち、発した言葉などを織り込みながらフィクションに仕立てました。


ndjcバナー文中用.gif



―制作にあたって最も力を入れたのはどこですか?

 結婚を控えた姉と知的障がい者の妹というメイン2人だけのシーンが全体の3分の2近くを占めますから、撮影期間が4日間と短い中で、2人が家族、姉妹としてずっと一緒に生きてきたんだという空気感をしっかり出せるかどうかが、大きな課題でした。

 ですから、クランクインまでにリハーサルは念入りにやりました。それこそ反射的にセリフがでてくるようになるまでです。撮影の合間にもアドリブで演じてもらうようにしたりして、2人にできるだけ親密な感じが出るよう工夫を凝らしました。

 ただ、後半のホテルのシーンだけはあえてほとんどリハーサルをせずに本番までとっておいたんです。初めてホテルに入った姉妹がどう反応するか、その表情をカメラに収めました。


―自信があるところ、見てほしいところは?


 念入りなリハーサルで、姉妹と家族の自然なやりとりが引き出せたのではないかと思っています。そこに、ずっと一緒に暮らしてきた家族だからこその安心感を感じとってもらえたらと思います。

 関西が舞台というのもこだわったところです。関西での撮影に加え、キャストもみなさん関西の方にお願いしました。ですから、リアルな関西の家庭が実現できたと思います。関西風味の味付けを楽しんでいただければ幸いです。


逆に反省するところは?

 まだまだ脚本を書く力が足りないですね。脚本が甘いと、後になって響いてくることを実感しました。後から良くなるよう手を加えても、アラを隠す作業にしかなりません。もちろん完璧な脚本なんて無理なわけですが、それでも完璧を目指してもっと詰めるべきでした。


あかり大.jpg―35ミリでの撮影・編集もポイントだったと思います。

 自分の制作スタイルにとって、良いところもありましたし、悪いところもあったというのが正直なところです。大変だったのは、デジタルに比べて、セッティング等にとにかく時間をとられたことです。ですが、それを上回る1ショットの重みも実感したもの確かです。1ショット1ショットにスタッフ全員が一丸となる、こうした現場はデジタルでは味わえないものでした。

 フィルム編集は、デジタルと違って全体尺の感覚がつかめなくて苦労しました。おおよそこれくらいだろうというのは感覚でわかるのですが、実際に映写するまでどうなっているかわかりませんから。なんどもなんどもやり直しましたね。


―これまでのキャリアについてあらためて教えてください。

 子どもの頃から大好きな映画の仕事に就きたい、映画監督になりたいと思っていて、ロサンゼルスに留学して勉強をしました。帰国して、2006年に東映で芸術職研修生の募集があり、応募したところ運よく入ることができました。

 東映に所属して、最初の2年間は東映京都撮影所で助監督をやりました。時代劇、2時間ミステリー、映画も数本やりました。2008年に東京撮影所に異動になり、そこでまた違う系統の作品に携わりました。テレビ特番用の再現ドラマ、教育映画、仮面ライダーの映画などです。1年前からは、もうちょっと違う角度で映画作りが見てみたいと思い、映画「はやぶさ 遥かなる帰還」にアシスタントプロデューサーとして携わりました。


―今度の作品も制作プロダクションは東映京都撮影所です。

 東映京都撮影所の皆さんは随分一緒にお仕事した方ばかりでしたから、コミュニケーションは本当にとりやすかったですね。ですが、いかに仕事に厳しい人たちかもよく知っていましたから同時に怖くもありました。皆さん大好きなので、ここでもし何かやらかしてしまって、次がなくなったら……なんて考えもしました。

 でもいざ現場に入ると、私のそんな小さな悩みなんてどうでもよいことでした。皆さんプロの方なので、しっかりと監督として立ててくれましたし、私のことをむこうもよく知っているので、足りないところは助けてくれるし、本当によくサポートしてくれました。


―「ndjc」に参加したきっかけは?

 東映東京撮影所に今回の募集のポスターが貼りだされていたんです。それに加えて、上司が会議で話を聞いてきて、参加してみたらどうかと勧められました。

 「ndjc」の存在は、それ以前から知ってはいたんです。ですが、どこかの映画祭で賞をとっていないと応募できないものなんだと勘違いしていたんですよ。実際はそうではないのですよね。


ndjc2011谷本現場.JPG―プロジェクトを通じてどんなことが学べましたが?

 大きかったのは脚本指導です。これまでも脚本を書いてきましたが、その道のプロの方の意見を聞いて直していくという作業なんて経験したことがありませんでしたから。それは苦しいことでもありましたけれど、得たものの大きさは計り知れません。これは、確実に次に生きてくると思います。

 とにかく、自分がやりたいことに対して誰かが意見してくれて、そして形にしてくれるのがこんなに楽しいものだったなんて。監督を経験できたことで、映画作りに対する姿勢そのものが変わりました。それはそれは貴重な体験をさせてもらいました。本当に素晴らしいプロジェクトだと思います。


―今後の目標を聞かせてください。

 もちろん、商業映画でメガホンをとるのが目標です。今回の『あかり』も姉妹の話ですが、これまでもこれからも女性を撮っていきたいですね。女性って複雑ではありますが、その中に確かにある綺麗な瞬間、強さみたいなものを女性の視点から切り取れる監督になりたいと思います。

 具体的に意識している監督は特別にはいません。ほかの女性監督については、もちろん気にはなりますが、だからといって真似たりすることはありません。


―最後に自由にアピールを。

 『あかり』は、元々は長編用に温めていたものを短編に構成し直したものです。次回作では、その長編化に挑みたいと思っています。長編では「ndjc」で学んだ経験を生かして、短編で描ききれなかった深い部分に迫りますので、期待してください。

 それが実現できるよう、今から動いています。今回の短編を気にいってくれて、長編を撮るのに力を貸していただける方がいらっしゃれば嬉しい限りです。


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「ndjc 2011」一般向け特別興行
日程:2012年2月25日(土)~3月2日(金)
場所:ユナイテッド・シネマ豊洲
時間:2月25日/18時10分~21時30分 ※5作品上映後に監督5名によるティーチ・インを実施
         2月26日~3月2日/18時40分~21時30分 ※上映前に監督による舞台挨拶を実施
入場料金:1000円均一
「ndjc」公式サイトで詳細のほか、お得なチケット情報などを順次掲載



(C)2012 VIPO



※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。


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