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第3回新潟国際アニメーション映画祭レポート、コンペは前回を大きく上回る客入り

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第3回新潟国際アニメーション映画祭レポート、コンペは前回を大きく上回る客入り

2025年04月21日
 第3回新潟国際アニメーション映画祭(企画制作:ユーロスペース+ジェンコ)が、新潟市内の4会場を中心に3月15~20日の6日間開催された。本紙が取材した初日と2日目を中心にレポートする。(この記事は文化通信速報【映画版】2025年3月28日付で掲載したものです)

 世界的に短編作品のコンペティションが中心のアニメーション業界において、長編作品のコンペに特化する形で2023年に誕生した新潟国際アニメーション映画祭。年々応募数が増えており、今年は28か国・地域から69作品の応募があった。その中から厳選された12作品がラインナップ。『ルックバック』、『化け猫あんずちゃん』の日本勢をはじめ、イタリア、ブラジル、チェコ、オーストラリア、ドミニカ、米国、ハンガリー、韓国、アメリカ、スペイン(ほか合作)と、非常に多様な製作国の作品が集結した。

 国籍だけでなく、その表現方法も実に多様だった。伝統的な手描き作品はもとより、2DタッチによるCG作品、先に実写を撮影してからアニメに落とし込む「ロトスコープ」を活用した作品、ストップモーションによる作品、切り絵を動かして描く作品など、昨年開催の取材記事(本紙24年3月22日付)でも記したとおり、「実写以外の全ての映像」の表現がここに集まっていると言えそうだ。


井上氏(左)と審査員の3氏.jpg
左からフェスティバル・ディレクターの井上伸一郎氏、コンペ審査員のマヌエル・クリストバル、クリスティン・パヌシュカ、松本紀子の各氏


 本紙が現地で鑑賞したコンペ作品は3本。そのうち、最も実験性が高かったのはイタリアの『バレンティス』(ジョヴァンニ・コロンブ監督)。1940年に実際に起きた事件を全編モノクロで描く作品だが、エアブラシも活用したという画は非常に抽象的で、登場人物たちの顔の様子もほとんどわからない。汽車も「車輪のみ」で描くといった具合で、鑑賞者の想像力による補填に大きな部分を委ね、その事件の悲劇さを際立たせる。実はジョヴァンニ監督は全くアニメ制作の知識がなかったものの、知人からアニメとして描くことを薦められて同作に挑戦。ただ、細やかな描写では手間がかかり過ぎることもあり、こういった個性的な手法を選んだのだという。

 その一方で、監督のアニメマニアぶりを窺わせた作品が、南アフリカ出身でカナダに移住したデンバー・ジャクソン監督の『ワールズ・ディバイド』。ハリウッドの『デューン』や『スター・ウォーズ』のような世界観でありながら、その映像や演出方法は90年代の日本のアニメーションからの影響を色濃く感じさせ、メカも満載の作品。監督の「好き」を詰め込んだ幕の内弁当のような内容で、迫力あるエンタメだった。名のあるスタジオの作品かと思いきや、実はジャクソン監督がほぼ一人で制作したというのが驚きだった。

 本紙が鑑賞した作品の中で、圧倒的に客席の反応が良かったのがハンガリー発の『ペリカン・ブルー』(ラースロ・チャキ監督)だ。エンドロール終了後は迷いのない大きな拍手が起こり、会場の熱量も明らかに高かった。1990年代のハンガリーを舞台に、国際列車切符の偽造を図った3人の若者を描く作品で、米国の風刺アニメのようなキャラクターデザインによるシュールな笑いとスリリングな展開が大きな魅力。日本での興行にもチャンスを感じさせる1本だった。実話がベースのため、実在の人物を守るためにアニメーションで描くことを選択した作品。これはアフガニスタンから脱出した実在の人物を描いた『FLEE フリー』(22年公開)と同じスタイル。今年のコンペの『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』も実際に起きた事件をアニメ化したもので、“ドキュメンタリーアニメーション”のジャンルが増えているようだ。

 なお、20日に行われた授賞式では、グランプリを『ルックバック』(日本、押山清高監督)が獲得した。

『ペリカン・ブルー』の上映トークイベント.jpg
『ペリカン・ブルー』の上映後トークは熱気に満ちていた


中国も人材不足、トークイベントではAIの話題も

 様々なトークイベントや講義を取材する中で浮かび上がってきたのは、やはりアニメーション業界の慢性的な人材不足と、その状況に対応すべく行われている工夫の数々だ。

 東京国際映画祭にも出品経験のある中国のヤン・チェンプロデューサーが来日し、若手クリエイター育成企画(新潟アニメーションキャンプ)で行った講義では、中国でクリエイター不足が問題になっていることが語られた。『ナタ 魔童の大暴れ』の150億人民元(約3000億円)突破が話題になっているように、中国のアニメ市場は活況を呈しているものの、人材育成機関の不足、ゲーム業界との人材の獲り合いなどが起きており、制作力が追いつかず、需要と供給がマッチしていないのだという。このあたりの事情は日本が抱えている問題と同じと言えるだろう。ヤン・チェンプロデューサーは、中国国内の状況を鑑み、今後は中国企業主体による国際共同製作プロジェクトが増え、中国作品に日本のクリエイターが参画するケースも出てくると予測した。

ヤン・チェンP(左).jpg
中国のアニメ市場について説明するヤン・チェンP(左)


 そんな人手不足を補う手段の一つとして、いまは「AI」が最もホットな話題だ。残念ながら映画祭期間中に行われたAIのプレゼンやシンポジウムの取材は叶わなかったが、それ以外のトークイベントの場でもAIは度々話題に上がった。『イノセンス』のトークショーの場では、プロダクション・アイジーの石川光久代表取締役会長が「2~3分の映像(『イノセンス』パイロット版)に3000枚の背景を描いている。いまのAIの技術があれば、あのローテクと物凄く労力がかけたものが、手間をかけずにできる。そこはAIを使うべき点。ただしあの当時のアニメーターが描いている美術はAIに置き換わることはない。そこはやはりアニメーターが必要」とコメント。荒牧伸志と前田真宏の両監督によるトークイベントの中でも、荒牧監督は次回作について「AIをうまく制作フローに入れられないかとテストしていて、良い仲間も出来た。いまは自動的に(AIで)アニメが全部出来ちゃうといった話題になってしまっているが、どちらかと言えば、もとのCGアニメのワークフローを使いながら、うまくAIを(使う)。物語は自分で作りながら、最後の画の部分をAIでコントロールできないかなというのが今の取り組み」、前田監督も「デザイナーの画やイラストが(AIを使って)破綻なく動く。今までは人間の力でやるしかなかったが、もうちょっとワークフローに乗る形で(活用する)」と、クリエイターの作業をサポートする形でAIを取り入れる試みが、実際にすでに始動している様子が語られた。

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井上伸一郎氏とIGの石川光久氏

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荒牧伸志監督と前田真宏監督


 また、コンペ部門に出品された前出のイタリア発作品『バレンティス』の抽象的な表現は、アニメーションが非常に手間のかかるジャンルがゆえに生まれた実験的な手法だった。振り返れば、昨年の同映画祭に参加したキアラ・マルタ、セバスチャン・ローデンバック両監督も『リンダはチキンがたべたい!』の制作時に、コストを抑えるために描線を減らし、人間のキャラクターを単色で塗ることを選択したと発言している。美麗な作画を求められる日本のアニメ業界に馴染みそうな手法ではないものの、世界的に長編アニメーション映画の本数が急増しているなかで、引き算のアイデアで長編作りに挑むクリエイターが続々と頭角を現しているのは心強い。


来年は2月に日程拡大し開催、文化庁の助成金も

 映画祭自体の盛り上がりという点では、コンペ部門の作品上映時の客入りが、前回(2024年)開催よりも明らかに多かった。T・ジョイ新潟万代で上映された『ワールズ・ディバイド』は、スクリーン5(114席)が8割以上埋まっていた。新潟市民プラザのホールで上映された『バレンティス』、『ペリカン・ブルー』も盛況で、特に後者は目視ながら200人以上は集客していた。映画祭のジェネラル・プロデューサーを務めた真木太郎氏(ジェンコ 代表取締役社長)は、クロージングセレモニーの場で「コンペティションの観客の多さにはビックリしました」とコメントしている。イベント上映は言わずもがなで、オープニング上映の『イノセンス』は新潟市民プラザのホール(定員442席)が満席の大盛況だった。映画祭の新潟事務局の担当者は「継続して開催してきたことで、市民に浸透してきた印象です。コンペのチョイスも良かったと思います」と動員増の理由を分析する。主催者発表によると、期間中の動員数(関連イベント含む)は前回比約3千人増の2万7044人だった。

 一方で、市や県からのさらなる支援は、同映画祭を継続していく上で不可欠のようだ。15日に行われたシンポジウムの中で、映画祭実行委員会委員長の堀越謙三氏が「常に『何人来るの?』という中で仕事をするのは大変つらい」と話し、市民の参加数だけではなく、海外からの知名度を高めることによる市民プライド(誇り)に評価の指標を置くべきと訴える様子は、自治体からの支援拡大が一筋縄では行かないことも窺わせた。

 次回の第4回新潟国際アニメーション映画祭は、運営主体の構成に一部変更がありそうだが、開幕日は2026年2月20日(金)に決まり、日程は1週間に拡大する。新たな部門の設立も予定している。新潟事務局の担当者によると、県・市との連携を深めていくことで話が進んでいる模様。また、文化庁による助成金交付も決定した。どのような形で映画祭をさらに発展させていくのか引き続き注目だ。

取材・文 平池由典

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