【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.90】
“映画興行、これほどひどくなっているとは”
2012年08月08日
ある興行会社の役員の方と雑談していた。その人は、久ぶりに“映画畑“の仕事に復帰したのだが、開口一番、「これほど、映画興行がひどくなっているとは思わなかった」と、嘆息したのである。「とくに、洋画の悪さは半端じゃないね。興収2000億円回復どころか、今年の年間成績は、昨年を下回ることだってあり得るんじゃないか」。
これが、まぎれもない映画興行の現実である。映画館の閉館(来年込み)も相次いでいる。中映が運営する浅草の5館に、上野東急の2館。銀座シネパトスの3館に、銀座テアトルシネマ。これに、今は劇場名が言えない都内・ミニシアターも加えていい。
名画座、ミニシアター、既存のRS館。何でもあり、である。地方の状況は、もっと悪い。いよいよシネコンの閉館も、来年以降、加速するのではないかとの見通しもある。興行の停滞に、映画館の閉館が重なる。これから、いったいどうなっていくのか。八方塞がりの映画興行、映画界なのである。
さて、夏興行のど真ん中。「マダガスカル3」がまずまずの出足で、8月1~5日の5日間で、全国動員30万9146人・興収3億8311万7450円を記録。週末2日間では、「ポケモン」や「NARUTO」の興収を上回った。
「仮面ライダーフォーゼ」「特命戦隊ゴ―バスターズ」は、4、5日の2日間で、21万7655人・2億5417万2750円。ただ、昨年の「仮面ライダー オーズ~」(3D、17億6千万円)よりは低いスタートだった。安定はしているが、突出はしていない。
「アナザー」は、厳しかった。4、5日の2日間で、6万1471人・8051万1000円。今年の東宝配給作品としては、「日本列島 いきものたちの物語」「逆転裁判」「ガール」と同じく、10億円にとどかない作品の1本となるだろう。名誉のために言っておけば、「ガール」は9億円近い興収を上げており、10億円にあと一歩であったが。
さあ、これから夏興行後半戦である。洋画の真価は今後、「トータル・リコール」「アベンジャーズ」「プロメテウス」などに委ねられる。
冒頭の“映画畑“久しぶりの人は、「洋画はどれもこれも、みな同じように見える」と、皮肉を言って、私の前を去って行った。もちろん違うのだが、久しぶりの人には、そう見えた。これは、重要な指摘である。それは、一般の人たちの感覚に、非常に近いのではないか。洋画”畑“の人たちに、問いたい。その差別化を、今後いったいどうしていくのかと。
(大高宏雄)