【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.88】
「おおかみこども~」、ジブリが“大注視”だろう
2012年07月25日
「おおかみこどもの雨と雪」が、大ヒットである。すでに各方面で報道されているとおりだが、学生たちの夏休みに入った平日も、順調な成績を続けている。おさらいになるが、7月21、22日のスタート2日間では全国動員27万6326人・興収3億6514万9000円を記録した。スクリーン数は381だった。
配給の東宝は、他作品との比較を一切していない。ただ、こちらがもっているデータでは、昨年の邦画興収でトップとなった「コクリコ坂から」(最終44億6千万円)と、遜色のないスタートであった。だから東宝は、「40億円が狙える」との見込み数字を出したのだろうと推測する。
ネットも、この大ヒットに大騒ぎだが、こんな記述を見つけた。かいつまんで言うと、「『映画けいおん!』と変わらないではないか。一スクリーンのアベレージからすれば、「けいおん」のほうが断然いい」。確かに「けいおん」は、137スクリーンで、スタート2日間では3億1631万0450円を記録している。
少し説明しておくなら、この2日間だけの成績を見れば、そのとおりである。だが、映画興行というものは、スタート成績が、最終的な興行を決定づけはしない。最終的な興行を“形作る”が、全体の興行は決定しないのである。では、同じく3億円台でスタートした「けいおん」は最終19億円。「おおかみこども~」は、最終で40億円を“狙える”となる違いは何か。
公開の時期と、客層の違いである。正月と夏では、休みの長さで歴然とした違いがあり、興行では後者が圧倒的に有利である。「けいおん」の客層が、いわゆる「けいおん」ファンを中心にしたところから形成されているのに対して、「おおかみこども~」は、アニメファンだけではない広範囲な客層となっている。つまり、前者は公開の早い時期に熱狂的な観客=ファンが殺到するが、後者は幅広い客層を視野に入れているため、これからさらに動員が伸びる可能性がある。
もちろん「けいおん」は、限定的なアニメファンという枠を大きく広げた面も確かにある。そうでなければ、19億円などという数字が出るわけがない。ここも、しっかりと押さえておきたいところだ。
だから、今後注目されるのは、「おおかみこども~」の客層の広がり、あるいは動員の広がりが、どの程度のものなのかということになる。ジブリ作品と違って、ファミリー層が幾分少ない興行になるだろうから、その点も興行に微妙な影響を与えてくるかもしれない。
以上述べたようなことから、「おおかみこども~」の興行にもっとも注視しているのは、スタジオジブリということになろう。
(大高宏雄)