東宝の配給作品が、「映画 ホタルノヒカリ」(6月9日公開)から、1本もない。少し前まで、東宝配給作品はほぼ毎週登場していたのが、嘘のような状態である。これは、他の配給会社にとっては、大チャンスだと言っていい。日本語には、 “鬼のいぬ間の洗濯” といういい言葉がある。
ではと、この数週間の興行全体のありようを見てみれば、とたんに停滞の度合いが増した。洗濯が、できていないのである。残念なことではあるが、この事実は、東宝の存在が映画界にとっていかに大きいかを、改めて知らしめたと言える。洗濯ができない理由は、いくつかが考えられる。その一つが、単純に作品がないということであろう。
7月7日から、「崖っぷちの男」が公開された。丸の内ルーブルをメインに、全国305スクリーンでの堂々たる公開である。その “堂々たる” 作品の興行成績は、7、8日の2日間で全国動員5万7714人・興収7078万2800円であった。厳しいスタートだと言えようか。
邦題、サスペンス調の中身、主演俳優などのありようから判断して、かつてなら、丸の内ルーブル “系” に入るような作品ではない。まあ、ほどほどの緊迫感はもっているが、一般的にはほとんど無名の俳優が主演するB級サスペンスの域を出ないからだ。
もちろん、B級サスペンスが悪いというのではない。その中身にふさわしい劇場マーケットに編成されればいいのだが、そんなことはここで説明しなくても、関係者は誰もが知っている。ただ今の時代、それができない理由がおそらくあるのだろう。作品が、ないからである。だから、こうした作品が “格上げ” 公開されることになる。
米メジャー系が配給し、「崖っぷちの男」よりさらに低い成績となった日本のアニメ「グスコーブドリの伝記」も、同じことである。洋画のめぼしい作品がない。邦画が配給され、 “格上げ” 公開される。厳しい成績となる。
この悪循環を、どこかで断ち切らないと、いけない。というより、この現実の認識を、どれほどの関係者がもっているか。それも疑問なのだが、私の立場としたら、ともかくも、こうした場で一つ一つ、指摘していくしかない。それが、どこまで伝わるか。各方面からのリアクションを期待するとしよう。
(大高宏雄)