【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.89】
「ダークナイト~」、大ヒットに一抹の不安も
2012年08月01日
昨日の映画宣伝をめぐる映画シンポジウム(外配協、外通協共同主催、イイノホール)で、司会を担当した私は、最後をこう締めくくった。「おとといの月曜日に、丸の内ピカデリーで『ダークナイト ライジング』を観た。こういう作品の宣伝を担当できる配給会社の人たちは、本当に羨ましい。これこそ、洋画宣伝の醍醐味である」と。
その「ダークナイト ライジング」が、大ヒットである。こんなうれしいことがあろうか。洋画低迷の一要因である米映画の画一的な作品が続くなか、“真打ち”「ダークナイト~」が登場した。「アベンジャーズ」でなくても、「日本よ、これが映画だ」と言いたくなる。
スタート成績は、7月27日の先行上映を入れた3日間(27~29日)では、全国動員33万1668人・興収4億5518万0800円を記録。28、29日の2日間では、26万9170人・3億7202万4700円だった。スクリーンは546である。
さて、この初発の成績がどの程度かといえば、同じ監督の作品である「インセプション」(最終35億円)の92%キープ(興収)だそうだ。不調ぶりが話題になった前作「ダークナイト」(最終16億円)は、当然上回るとみられ、30億円の大台も視野に入るという。
ただ、一抹の心配もある。大都市のシェアが高く、完全な都会型の興行になっていることだ。さらに、全体的に観客の年齢が高いことも、心配材料だ。また、今後の口コミはどうなるか。客層などのちょっとした偏りが、興行の限界につながるだろうことも、十分に考えられるのだ。
そうは言いつつ、スタート時は健闘したのは間違いない。これは、本作が最近よくある無味乾燥なハリウッドの娯楽大作と、明らかに一線を画す内容だったからだろう。これが、潜在的な映画関心派の気持ちを強くとらえたのかもしれない。ただ今後、若い人たちへの広がりが限定的だとなると、洋画興行の問題の根はさらに深いということになる。
冒頭の話に戻る。配給会社の面々が、「ダークナイト~」のような作品に行きあたる“栄誉”は、ひょっとして数十年に1度か2度くらいかもしれない。その羨ましい限りの栄誉と興奮が、どれほど自身が携わる映画宣伝において、プラスになったのだろうか。一度、聞いてみたいと思う。
(大高宏雄)