TBS火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(22時)は、「録画(または見逃し配信)で何回も見ている」という視聴者の声が多く、“繰り返し見たくなる”作品としての魅力も、『逃げ恥』旋風を巻き起こしている要因だ。
それを示す正確なデータはないが、それを伺えるのが、関東地区で10月から始まったタイムシフト視聴率・総合視聴率だ。同ドラマのタイムシフト視聴率(放送から7日内の録画再生視聴率)が他の作品と比べ高いのだ。
タイムシフト視聴率は放送から9日後に集計される。最新の数値がわかる12月6日放送の第9話(15分拡大)をみると、リアルタイム視聴率は16・9%(第8話16・1%)、タイムシフト視聴率は17・5%(同16・3%)で、総合視聴率はついに30・0%(同28・2%)と大台に乗った。いずれも番組最高を更新した。タイムシフト視聴率は、複数回視聴してもカウントされないので、何回見られたかはわからない。
しかし、タイムシフトが17%台というのは全番組の中でトップであり群を抜いて高数字。さらに注目すべきは、毎回のように、タイムシフトがリアルタイムを上回っているのだ。他作品ではほとんど見られない傾向だ。
単にタイムシフト視聴(録画再生視聴)が多いとも言えるが、“リピートして見たい”というニーズがあれば、録画は必須であるため、その分、タイムシフト視聴率が高くなるとも言える。
また、リアルタイムと録画の両方を視聴する世帯が多い傾向が伺える。総合視聴率は、「リアルタイムでも視聴し、タイムシフトでも視聴した場合」は1カウント(複数回視聴としてカウントしない)として集計される。つまり、「リアルタイム視聴率とタイムシフト視聴率を合算した数値」から「総合視聴率」を引いた差(重複)が、両方を視聴した数値に匹敵すると考えられる。『逃げ恥』はその重複の分が他の作品と比べ高いのだ。第9話でみると、合算34・4%(リアルT16・9+タイムS17・5)-総合30・0%=重複4・4%。第8話では重複4・2%になる。他ドラマでは1~2%前後がほとんどのため、その違いがわかる。ただ、1世帯の中で、例えば親がリアルで見て子供は録画で、というケースも含まれるだろうが、同一人物が両方視聴していることも少なくないと推測される。
BBS(電子掲示板)などネット上の書き込みでは、「何回もリピ(ート)してる」「OA見て、すぐに録画見た」「次の1週間まで、また第1話から見直す」など、繰り返し見ている人が目立つ。10回以上見たという人も少なくない。そうした視聴者の声が多く見られる。
一方、無料見逃し配信は、第7話(11月22日放送分)までの合計再生回数1000万再生を突破した(TBS FREE、TVer、GYAO!の合計再生回数)。「見逃し配信で、また見た」という声も多く散見され、これだけの驚異的な数字に寄与しているとも言える。
『逃げ恥』のストーリーは、新垣結衣演じる「みくり」が、星野源演じる恋愛経験なしのサラリーマン「平匡(ひらまさ)」に妻として雇われ、「契約結婚」するという社会派ラブコメディ。
ヒットの要因は“ムズキュン”“胸キュン”と言われるほどの内容にあって、それが「何度も見たくなる」ことに繋がっている。2人の恋の行方に注目が集まるとともに、そのキャラクター、仕草、表情の可愛さにハマる人が続出しているからだ。その演技だけでなく「声」にも好感度が高い。2人のセリフも丁寧な言葉づかいで大人ウケもする。よくある劇的な恋愛ものと装いが違い、“ほっこり”とも表現され、不快さがなく、心地よさも魅力のようだ。単なる恋愛ものとしてだけでなく、仕事や夫婦、人間関係などの価値観など考えさせる内容も加味している。それをさらりと見せて、押し付けていないところが、視聴者は自身に身を置き換えやすいのかもしれない。
それらはすべて出発点である海野つなみ原作のおもしろさにある。そして、野木亜紀子脚本が好評だ。原作を映像化する際には、シーンを入れ替えたり、セリフのチョイス、さらりとした場面をあえてクローズアップしたりするが、その手腕にセンスが感じられている。演出もキャストの魅力を引き出し、小ネタを交えながらの丁寧な作りに好感度が高い。バーン!とむやみに音楽を流したりしない。第6話のラストの電車内の2人のシーン、第9話のラスト、2人が互いの気持ちを知るシーンなどは、2人の演技をじっくり見せて、視聴者の心に残る名シーンの一つとして挙げられている。仕掛けた「恋ダンス」もヒットに拍車をかけた。12月16日にはテレビユー山形、テレビ高知が加わり、系列のJNN全28局の「恋ダンス」が出揃う。
プロデュース力、総合力が結実し、TVドラマならではの完成度が高いと言える。新垣結衣、星野源の人気はさらに上がり、相乗効果は計り知れないドラマとなっている。
ゆえに、WEBなど各メディアで毎日のように数多く取り上げられている。この数年では『半沢直樹』や『あまちゃん』がそうだったが、『逃げ恥』はそれらとは一線を画しているように見える。過去にもリピートして見たという作品は他にも数知れずあるだろう。ただ、「何度も見たくなる」という“好きの嵐”を視聴者に吹かせ、深夜遅くまで録画を見たり、ドラマのことを考えて仕事や家事が手につかない、なんて現象も少なくないようで、作品への愛着度が高く、そのパッションの熱さが、少し違っているような印象を受ける。それが『逃げ恥』旋風を巻き起こしていると。
12月13日放送「第10話」(15分拡大)のリアルタイム視聴率は17・1%(前回16・9%)とさらに番組最高を更新。初回から下がることはなく、毎回上昇の勢いは止まらない。第10話放送中にはTwitterのトレンドワードトップ10のうち9つが「逃げ恥」関連のワードになった瞬間もあったほどだ。
地方局も好調で、毎週調査の11地区のうち、過去最高の8局で20%を超えた。とくに、北海道放と新潟放送では25%台を超えた。
▽札幌地区 北海道放送 25・5%
▽新潟地区 新潟放送 25・1%
▽静岡地区 静岡放送 24・7%
▽名古屋地区 CBCテレビ 24・0%
▽関西地区 毎日放送 21・7%
▽岡山・香川地区 山陽放送 22・0%
▽広島地区 中国放送 23・6%
▽北部九州地区 RKB毎日放送22・1%
いよいよ12月20日に最終回(15分拡大)を迎える。関東ではリアルタイム視聴率の大台超えが期待される。当日は『逃げ恥』一色の電波ジャックもあるという。終着駅に向かうドラマに、「永遠につかなければいい」なんてジレンマに願うファンもいるだろう。前回のショッキングなラストからどういう展開になるのか。そして、これで本当に最後なのか。ファンは今いろんな“妄想”を巡らしている。
※当コラムに久しぶりの投稿。この作品の旋風ゆえです。
(戎 正治)