人材育成キーマンに聞く! ndjcスーパーバイザー桝井省志氏
2010年10月26日
若者はもっと尖っていなくちゃ!
――今後を担う彼らの“感覚”はやはり新鮮ですか?
桝井 いやそれがね、唯一の不満なんです。若さをバリバリ感じるかと言うと……あんまり感じないんですよね。これが今の世の中が抱えている根本的な問題だと、そう言っちゃあ元も子もないんですけれどね。不安があるとすればそこです。もっと弾けている人がいてくれていいと思うんですが、そこを求めること自体が違うのかもしれませんけれど。
――桝井さんがこれまで一緒にやってこられた周防正行監督、矢口史靖監督の若い頃はもっと尖がっていたと?
桝井 そうですね。これは商業映画としては無理なんじゃないのって思うくらいの鋭敏な感覚があって、ある意味で危険性を感じるようなところがありました。もちろん今は2人ともウェルメイドでプロフェッショナルな作品を撮るけれど、根本的にはやっぱりそういうエネルギーを持っているんです。今回選ばれた中からも、そんな映画作家として突出した人が1人でも出てくれればいいなというのが本音ですね。合格点をとれる監督はいると思うんです。でも、それをもうひとつ乗り越えられるような、もっと強い作家性を持っている方がいてほしいんです。
今こそ映画作家を!
――作家性が薄いという指摘、これは人材育成面だけでなく業界全体に通じる課題でもありますよね。
桝井 そうです。でも、最近の商業映画は良い意味でも悪い意味でもプロデューサー主導になってるわけで、極端に言うと誰が監督なのかもわからないというような映画が量産されている時代です。映画作家の才能を評価するというような次元では、もうなくなっているような気がしますね。でも、今こそ映画作家を作っていかないといけないんです。北野武さんみたいな突出した人を1人でも多く出して、映画作家はまだ存在するんだということを示していかないといけません。それが一番思っていることです。ndjcからも、そういった映画作家が生まれてくれたらいいと思っています。
――そのような業界にあって、桝井さんとしてはどう動いていかれようと考えていますか?
桝井 映画作家がちゃんと映画を撮れる場を提供しないといけないし、映画作家を育てていかないといけません。でも今の時代、黒澤明、溝口健二、小津安二郎が必要とされていない、周防も矢口も世間からは求められていないかもしれない、そういう危機感をひしひしと感じています。だからもう一度、映画作家というのは存在するんだよということを、私たちプロデューサーが言っていかないといけませんね。私は「プロデューサーが映画を作るんだ」とか「プロデューサーの時代だ」とか、そう思っているわけではありません。やっぱり作家がいてナンボですよ。私たちの作る作品で、観客に対して映画作家の存在意義を具体的に提示していかないといけません。
だからndjcに全力投球する!
――そうすると、改めてndjcの活動に意味がありますね。
桝井 本来、ndjcのようなことは映画会社がやらなければいけないんだろうし、かつては映画会社が人材育成をしていた古き良き時代があったわけですね。それが無くなった今、映画作家を支えて育てていくという環境がないわけです。そういう意味では、とても希少な機会ですし、文化庁がこういった形で主導して進めるというのは正しいことだと思います。今の日本の映画業界がやれていないことを肩代わりしてくれているのです。非常に意味のあることだと思います。
――良い映画作家が生まれる感触がありますか?
桝井 私たちの作る商業映画でもそうなんですが、結果良い悪いなんていうのはたまたまそうなっただけなんです。それより、選ばれた方々には全力投球していただいて、「やったぞ」と満足してくれたら嬉しいですね。というより全力投球してもらわないと困るんです。だから、そういう環境にはしてあげたいですね。
――もちろん、桝井さんも全力投球ですよね?
桝井 はい!微力ながらですが(笑)。
――こちらも今後の進展を順次取材させていただきますので、よろしくお願いします。(了)