もの作りが継続できる環境作り
――就任式の時にも仰っていましたが、上海でも日本のコンテンツに対し、中国の方が非常に興味を示していたということで、やはり日本のコンテンツは海外にもっと出していける、強力なものになっていけるとお考えですか。
松谷 そのために、僕はもう1本柱を作ろうかと思っています。もう一つ、もの作りができる環境作り――それが一番重要なのではないかなと。というのは、例えば僕の分野で言えば、マンガやアニメが世界中でもてはやされていますが、しかしこれは過去の戦後60年間で、先輩たちが作ってきたからなのですよ。散々苦労をしてね。
でも、今後10年、20年、30年先を考えた時に、やはりいつも原点に戻って、今年も、今日も作っていかなくてはいけない。そういうもの作りができない環境になってはいけないわけですよ。環境としては、いま「ゲゲゲの女房」を見ていたらわかるように、水木(しげる)先生は確かに戦争体験もあってデビューが遅れたけれども、石ノ森(章太郎)先生だとかトキワ荘グループはみんな10代から20代前半でデビューしているのですけれども、あの当時の苦労の仕方、経済的な苦労の仕方というのは、凄いでしょう。ですから、今と比べたら、今の方がよっぽどいいわけですよ。
――恵まれていますよね。
松谷 ですから、贅沢を言ってはいけないのですが、今そういう環境の中で来てしまったのだから、今の段階でものがなんとか作れるような環境作り、作り続ける環境作りというのが必要なのだと思うのです。そのためにどうしたらいいか。ですからイベントも、なにかそういうものにつながるような取り組みをね。あとは、作品に対する評価というのも必要ですね。アカデミー賞のようなものも必要ですけれども、僕はむしろ企画に賞をあげるべきではないかと考えています。
――最初のアイデアのところですか。
松谷 よい企画に対して、極端な言い方をすると、VIPOがスポンサーを連れて来て、ものが完成するまで面倒を見るとか。そういうことも、一つ方法としてはあるかもしれません。というのは、企画を募集すれば、映画だって音楽だって何の分野でもそうですけれど、素晴らしいものがたくさん来ると思うのです。それで専門家を連れて来て、吟味して、これは絶対いいぞというものは、僕らの力でなんとか世に出してあげる。そのために映画業界もあるし、テレビ業界もあるし、海外とのコンタクトを持っているような所もあるし、スポンサーになってくれるような人、あるいは出資してくれるような人――出資しやすい環境作りも必要なのです。
出資というのは、映画作りの場合は特に、あるいは小説でも雑誌でも何でもそうですけれども、まったく儲からないということもあるのですよ。これは絶対面白いな、いいなと思って作っても、ゼロの可能性があるわけですね。ですから、出資した時に、もうそれは経費として落とせると。そうすれば、儲かっている会社の人で映画にすごく興味があるとか、こういう分野にものすごく興味がある、せっかく儲かっているのだから、利益をそういうところに出資してみたいと。
それが仮に1年経って利益が出れば、いずれにせよ所得税は払うわけですから、1年遅れになるだけの話なのですよ。ところがわずか1年遅れで、3億で申告して、「ああ、3億のうちこれだけ取られちゃうな。もったいないな。こっちに使っちゃいたいな」という人が、けっこういると思うのです(笑)。特にプロダクションなどはそうでしょう。今までマイナスの計算ばかりしてきたのが、ようやくプラスになったと。しかし「このプラスが単純に税金の対象になってはもったいない。これを制作費に使いたいな」という所もあるでしょう。そういうことで何か方法があるのだったら、税法だけではなく、何か考えると、これもまたもの作りの継続する一つの材料にもなります。そういうことを具体的にたくさん考えていく。そういう環境作りですね。もの作りが継続できる環境作りというのを、考えた方がいいかなと。
――但し、企画を考えた人、クリエイターの才能をいかに活かして、ものを作れるかどうかが重要になってくると思います。
松谷 一つその若い人がそれでデビューできて、かなりの評価を受ければ、その人はそれなりにそのあとずっと「VIPOのお陰です」と(笑)。もちろん、ある程度の賞金とか、あるいは確実にできるのであれば、「きみの企画を実現します!」というようなタイトルで、いろいろな分野で募集する。賞金を100万円あげますというようなことよりも、企画を実現しますというようなことの方が、人材育成にもつながるのではないかと思いますね。
10年、20年のスタンスでものを考える
――行政に対してどういうことを要望していくか、ということもあると思うのですが。政権もいま不安定なところですし。
松谷 非常に難しいですけどね。僕も、「こんなことに金使わないで、こうしよう!」というような意見は、コンテンツ行政以外にもいっぱいありますけれども(笑)。今ようやくソフト産業に目を向けてくれていて、僕は大変ありがたいことだと思います。特に文科省が我々の業界では近いわけで、文科省あたりが一生懸命やってくださって、応援もしていただいています。経産省も総務省も、各省庁が目を向けてくださっているというのは、大変ありがたいことなので、ぜひ短期で終わることなくずっと継続して、その代わりに僕らは中身をもっともっと充実させていきますので、ぜひ継続していただきたいです。明日なくなってしまうかもしれない、突然ハシゴをはずされてしまうと、せっかくこうやって10年後まで考えていたものが、突然なくなってしまうというようなことのないようにしていただきたいなと思います。それに応えられるようなイベント、行動、活動をしていきたいと思っています。
――そこが大事ですよね。ある程度長期的に、安心して行動できるのかどうかで。
松谷 せっかくVIPOができたのですから、VIPOというのは素晴らしいなと誰にも言ってもらえるように活動はしていきます。その代わりに、いま支援を受けていますが、継続してずっと、突然なくなってしまうというようなことのないようにしていただきたいなと。私どもは10年、20年のスタンスでものを考えるようにしますから。
――業界の方々に向けて、どう協力を求めていくかということも、非常に重要になってくると思います。
松谷 最初に申しましたように、100の会員社、企業や協会だとか団体があると、全方位でというのは非常に難しいですよ。どの会員もすべて満足できるというようなことは、なかなかできないかもしれませんけれども、それは1年スタンスだとそうかもしれませんが、長い目で見ていただければ、みんなが参加してよかったというようなVIPOになり得るのではないかと思います。ですから、ぜひ継続して、「なんだ、入っててもしょうがないな」とか思わないように(笑)。そして、思われないような活動をしなければいけないのですけれども、是非我慢強く支援していただきたいなと思いますね。いつか返って来ますので。
――松谷さんとしても、5年はまずご自分でやると(笑)。
松谷 まだそこまでは(笑)。まず1期ですね。1期2年でしたか。まあ、やりたい方もたくさんおられると思います、そんなに長居はしてはいけないので。だからといって、2年経ったら辞めるとかいって、今をおろそかにはしません。きちっと盤石な体制を作りたいなと思います。
――一歩一歩、松谷さんカラーというのもこれから出していきたいと。
松谷 僕のカラーではなく、みんなのカラーですよ。VIPOカラーですね。
――ありがとうございました。新たなVIPOの展開を期待しております。(了)
(インタビュー/文・構成:和田隆)
【松谷新理事長の略歴】
松谷 孝征(まつたに・たかゆき)
1944年9月24日横浜生まれ。
1967年3月中央大学法学部卒業。
漫画雑誌編集者時代(実業之日本社)に手塚治虫の担当編集者を経験後、
1973年4月手塚治虫のマネージャーとして、株式会社手塚プロダクションへ入社。
1985年4月同社代表取締役社長になり、現在に至る。
カラー版「鉄腕アトム」・「ブラック・ジャック」等数多くのTVシリーズや「火の鳥」・「ジャングル大帝」等、
手塚治虫原作の劇場版アニメーション映画のプロデューサー。
2003年5月現一般社団法人日本動画協会理事長就任、2009年5月から同協会名誉理事。