「文化通信.com」オリジナル・トップインタビュー
今こそエンタメ産業が元気にならなければいけない!
NPO法人映像産業振興機構(VIPO)は今年6月16日、平成22年度通常総会及び理事会を開催し、新理事長として松谷孝征氏(一般社団法人日本動画協会名誉理事、㈱手塚プロダクション代表取締役社長)、副理事長として早河洋氏(㈱テレビ朝日代表取締役社長)を選任、迫本淳一前理事長(松竹㈱代表取締役社長)は名誉理事に就任した。
VIPOのミッションは、日本の映画、放送、アニメーション、ゲーム、音楽などのコンテンツ産業を国際競争力あるものとし、さらに日本経済の活性化に寄与することとして、特にこれまで「教育機関と連携した人材育成」と「内外の市場開拓」に注力してきた。
2004年12月にNPO法人として設立以来、5年半にわたって理事長を務めた迫本氏からバトンを託された松谷新理事長。(株)手塚プロダクションの社長でもある松谷氏に、改めて就任を決意した思いや、VIPOの新たな取り組みなどについて聞いた―。
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VIPOは業界の活性化を図っていく!
――理事長に就任されて3ヵ月が過ぎました。この間を振り返った感想を伺えればと思います。
松谷 もう大変ですよ(笑)。ずっとこの5年間、迫本(淳一・現名誉理事)さんが理事長をやられてきて、凄かったなと思います。迫本さんは松竹の社長さんということと、弁護士さんというご経験もありますから、こういった仕事に対しては非常に適任者だったんじゃないかなと思います。
ある時、迫本さんが会いたいというので約束したら、東宝社長の高井(英幸)さん、ギャガ社長の依田(巽)さんとで、ドドドッと皆さんが来られて、それで「頼みます!」と言われたら、断り切れないじゃないですか(笑)。はじめは、高井さんがやればいいと言ったんです。我々みたいな小さい企業がやったってしょうがないので、やるんだったらテレビ局か映画会社か、大手の企業さんがおやりになった方が、パワーとして、対政府官に対しても少しはプレッシャーになるのではないかというようなお話をしたのです。
ただ、皆さん他にも肩書きをお持ちなのですよ。先日、高井さんにお会いした際、「ほら、見て」と名刺の裏側を見せて、「これだけやってるんだから」と(笑)。僕もちょうど6年間務めた日本動画協会の理事長職を終えたばかりで、ほっとしていた途端にまたこれでしょう。特にこの3ヵ月はコ・フェスタ(JAPAN国際コンテンツフェスティバル)もありますし、その他、秋はどこの国も多数イベントをやるわけですよ。
――日本だけにいるわけにもいきませんね。
松谷 そうそう。海外だけで、コ・フェスタの関係でブラジルのサンパウロに行きましたし、上海万博の中でコ・フェスタの宣伝のイベントをするし、パリでのJAPAN EXPO出展など、そういうものに行かなくてはいけないわけです。その他もたくさんあります。就任からこの3ヵ月は凄く大変でした。今後も大変でしょうけれども(笑)。
ただ、確かにいま世の中全体が右肩下がりになって、社会的にも不況というだけでなく不安定な時期に来ているし、そんな時に映像産業というは本来一番活躍しなければいけない時期なのではないかと思うのです。映像産業だけに限らず、いろいろな業界があるのですよね、うちの会員は。たくさんの業界が入って。今は、本当に楽しいエンターテインメントの送り手が、元気でなければいけない時期で、本来いま頑張らなければいけないのだけれど、景気の影響は大きいですね。全体の流れに流されてしまっている。もちろん、頑張っている企業さんもたくさんある訳ですが。
だから今、政府は経産省にしても文化庁にしても総務省にしても、みんな応援はしてくれているのですが、そういった応援を取りつけて、より有効な形でVIPOはこの業界の活性化を図っていかなくてはいけないな、という風に考えています。ますます時代が時代だけに重荷を背負っていると。「養生訓」ではないですが、「人生とは重き荷を背負う」という、そんな感じですが、元気にやっていかなければと考えています。
――やはりそういう思いが、引き受けられた一番のポイントですか。
松谷 はい。文化・コンテンツ産業の皆さまからのご推薦ですから。そうですね、業界への恩返しというか、もう長い間この業界でやってきましたので。この時期だからこそ、僕でお役に立てるのだったら、もうちょっと頑張ってみようかということで、お受けしました。
日本文化の素晴らしさを子供たちに伝えたい
――迫本さんが5年やられてきたことから、何を引き継いで、新しく松谷さんなりに何をしていこうと考えているのでしょうか。
松谷 迫本さんの5年間で、VIPOはそれなりの役目をずっと果たし、継続してきたと思うのです。今後のVIPOのあり方というのはどういうものだろうということを、いま必死になって模索しています。これまで、受託事業中心でやってきたVIPOですが、今後、VIPO独自の活動をどんな風にやっていったらいいのかというのを考えていく。今いる人数で、今の事業の遂行だけでも目一杯なのですけれど、でも今後国の受託事業だとかそういう様なものだけでやっていっていいのか。それだけでなく、せっかく映像産業振興機構というのができたのですから、独自で我々ができることというのを模索して、やっていきたいですね。
しかしながら、いま会員社は100ほどあるのですが、いろいろな業種の方々が集まってくれている、その業種の皆さんに満足いただけるようなVIPOの活動というのは、非常に難しいと思うのです。時には利益が相対する場合もありますしね。こちらによければ、こちらに悪いというようなこともあるでしょうし。でも、そういうものを超えて、なにかVIPOがやれることというのがあるのではなかろうかと思っています。いま少し考えているのは、今までVIPOが人材育成と内外市場の開拓という2本の柱でずっとやってきて、それはそれなりに継続していけばいいと思うのですけれど、もっといろいろな方法を考えられるのではないかということを、具体的に検討しているところです。
会員さんが、みんな「これならいいな」と思われるようなこと、例えば地球規模で考える環境の問題であるとか、それから世界との交流によって国と国との相互理解――こんなことは時間のかかることでしょうけれども、世界平和への貢献ですとかね。それともう一つ、人材育成、平和につなげる交流というのは、要はそれをやっていけば、日本の文化的なものの見方が理解されるし、相手方も「ああ、日本っていい国だな」と。これがとても素敵なことではないかなと思うのですよ。少しでもVIPOが、世界各国との文化交流によって、文化国家として高く評価されるような行動が取れればいいのではないかと思うのですよね。
そういうものをやるために、具体的にどうしていくか――今でもやっているわけですけれども、ただ単にソフト産業の売り込みというようなことだけではなくて、それと共に、例えば海外に行ったら、海外の子供たちのために何かしてあげるとかね。人材育成というのは、子供が一番大切だと思うのです。例えば手塚治虫がありますよね。手塚治虫がいて、戦後すぐにストーリー漫画を開発して、小さい子供たちが、手塚治虫の漫画を見て「ああ、漫画って凄いな!」と。これだけ自己表現できるようなものが、紙と鉛筆さえあればできるし、画が描ける。本当は映画界に行きたかったとしても。トキワ荘のグループの人たちに聞けば、みんなあの当時は映画業界に行きたかった人ばかりですよ。それが、一つ漫画があることによって、そちらにドドッと流れたのです。そんなように、日本の文化というのは素晴らしいなと。
今、マンガやアニメはどこの国に行っても、日本のマンガ、日本のアニメみたいなものになってしまっていますけれど、いい悪いは別にして、みんなに憧れるような日本であるということをアピールしていく。そのためにはやはり海外の子供たちにもアピールしていく。さらに日本の子供たちに、日本のコンテンツ産業というのはこういう種類のものがあって、みんな魅力的なんだよというのを、小さいうちから感じてもらう。そうするとその業界に人材が流れて来る。ゲームなどもそうなのですけれども、ゲームに凄いヒット作品があると、今まで映画やマンガやアニメに行こうとしていた人たちが、みんなゲームの業界に流れたりしますよね。
――実際、流れたような印象がありますよね。
松谷 そういうことで、子供の時代にいいものを見せてあげる、あるいは、ただ単に見せるとか教育としてやるのではなくて、遊びとして、あるいはイベントとして――せっかくソフト産業なのですから、エンターテインメント性が非常に深い、面白い、「あそこに行くと楽しいね!」というような感じで、子供たちと我々の業種が一緒になって遊ぶ。―「遊ぶ」というのは語弊がありますけれど、僕は遊びでいいと思うのです。そうすると、みんな魅力的だなというので、こちらの産業に才能のある人間が流れて来るという可能性があるのです。
――それは大事だと思います。
松谷 人材育成だからといって、特別に新たに学科を作ってものを教えたりとか、授業としてとか、そういうことで教えるのではなく、小さい頃から遊びを通して身近に感じられるような、コンテンツ業界であるための、何かいろいろな方法を考えたらいいのではないかと思います。