産業振興という視点を変える
――そういった意味でも、現在開催中のコ・フェスタの展開で、まずどう国内にアピールしていけるかということもあります。コ・フェスタに対する松谷さんなりの期待や、どういう風になっていけばいいとお考えですか。
松谷 ビジネスとしてイベントをやるというのは、一つ大切なことだと思うのです。今やネットで、すぐその企業のあり方だとか、何を商品にしているかというのは、調べればすぐにわかるわけです。しかし、そればかりやっていると、刺激がないのですよね。例えば、ギフトショーは日本で最大の市場なのですけれど、これは基本的にB to Bのイベントです。これに皆が参加するのはなぜかと言えば、やはりフェイス・トゥ・フェイスでお話をする、それで刺激し合うと何かが出て来る。
僕は最近携帯でメールをやるようになったのですが、話が終わらないのですよ、メールでやっていると。よっぽど話した方が早いじゃないかと。あるいは、会えばそれですぐすむわけです。相手がこの言葉を投げかけた時にどんな顔をするのか、興味をそそるのか、そうじゃないのかというのは、やはり会ってわかることが多々あると思います。そういう意味でB to Bというのは、人と人との触れ合いが生じるし、大変いいことだと思うのですが、プラス、それぞれの業種によって違うでしょうけれども、最終的な消費者に対するサービスといったものも入れると、イベント自体が楽しくなるのではないかなと思うのです。ですから、B to Cをできるだけ強化させていければいいですね。
――ただ、それをやろうとすると大変な面もあるわけですよね。
松谷 そうですね。東京国際アニメフェアなどは、最初の2日間B to Bで、後の2日間は一般向けに開放しています。そうすると、沢山の親子連れが来ますね。それはとてもいいことで、集まる所があるから、そういうものを見ていれば、今後どんなものを作っていったらいいかという参考にもなります。それから、みんなが喜んでくれる。みんなが来てくれて、「アニメ、面白いね」と言って帰ってくれて、それでTVのチャンネルをアニメに合わせるとか、劇場へ見に来てくれるとか、そういうところを大切にする。と同時に、やはりそこで親子の会話が弾んだりと、そういうことも大切ではないかなと思います。「B to Bだけでいいんだ」という業種もあるでしょうけれども、是非そういう風にしていきたいですね。
――そこは先ほどおっしゃった人材育成という意味でも、子供の時期にその場に触れているか触れていないかで、まったく変わってきますからね。
松谷 ええ、それも遊びでね。遊びでいいのですよ。マンガで言えば、パラパラマンガなどをやったり、それから今は時代が時代ですから、自分で画を描いて、その上をカメラがローラーで撮っていくと、そこに自分が描いた画が動いて見えるとかね、そんな遊びをするとか。すみません、アニメやマンガの話ばかりで。そっちが専門分野なもので(笑)。
でも、他にもいくらでもあると思うのです。模擬ドライブができるとか。要するに、子供たちにとって、大人の世界が身近になるようにする。キッザニアなどは、それらを混ぜ合わせて“商売”にしているということですからね。ああいうことを子供の時代から体験すると、自分が何の職業につきたいかというのは、子供心に少しわかってくるという。興味を持ってくれるというのが一番大切なのですよね。
――まず興味を持つ、憧れを持つという出発点が、早いに越したことはないですからね。
松谷 それがその業種全体の発展に、必ずつながるのではないかなと考えています。せっかく僕がVIPOの理事長をやるのだったら、産業振興という視点を変える、面白い、楽しい、そんなもので何か振興につながればいいなと思うのです。
――あまり目先のB to B、ビジネスだけに目がいってしまうと限界があって、やはり目先を変え、子供に目線を向けたりすると、結果的にそれがビジネスに返ってくると。
松谷 10年サイクルで見れば、10歳の子は20歳になるのですし、車の免許も取れるのですから。コ・フェスタでも最終消費者と触れ合うというのが、非常に大切なのではないかと。そして、触れ合うのに、来てもらうためには面白くなければ駄目なのですよ。フジテレビではないですけれども、「面白くてためになる」と(笑)。
――連れて行く親としても、楽しいだけではなく、ある程度ためにならないと。
松谷 そんなことを感じられるようなポスターを作るとか、もう少し一般にまで広げるような告知をするとか。今は業界内でしょう、コ・フェスタというと。もっとまとめて、VIPOからすべてのイベントを配信するとか、マスコミに書いていただくとか。ですから、子供の目に触れる所にこういうものがあったっていい。少年誌に告知するとか、1ページ割いてもらうとか。女性の雑誌だとか、お母さんが子供を連れて行きたいなと思うように、そういう雑誌に告知をするとか、広告を打つとかね。
――しかし、ようやくこのように各業界団体が集まって、力を合わせて、海外に向けてもアピールしていこうという形ができたわけですよね。
松谷 やはり日本の文化産業というのは強いぞ、素晴らしいぞというのをアピールしなければいけないので、海外でのイベントは大切だと思います。今はどちらかというとマンガ、アニメが中心になろうかと思いますが、他のジャンルも含めて一緒にやっていけばよいと思います。
――いまの経済状況もあると思いますが、松谷さんからご覧になった現在の日本のコンテンツの現状をどのように捉えていらっしゃいますか。
松谷 今ある財団のベンチャー・ビジネス支援の審査員をやっているのですが、そこに来るのは20代、30代の人たちで、必死になってものを考えて発表するのですよ。あれを見ていると、必死になって考えればまだまだ素晴らしいものがあるなと気付かされます。
子供たちに夢を与えることが大切
――まだまだ新しい、いいものが発信できると。
松谷 そう、充分期待できるのではないかと思うのですけれども、その刺激を与える大人たち――我々が、子供、若者に刺激を与えてあげなければいけない。ですから、僕らが元気でなければどうしようもないのです。大人が子供に対して、学校の先生に任せているだけではなくて、一般企業に入ろうと何しようと、やはり大人は子供たちに、それも自分の子供だけではなくあらゆる子供に対して、「まんざら捨てたものじゃないぞ、日本も。こんなこともいっぱいやってるんだよ」というのを、子供たちに見せてあげなくてはいけないのではないか、それが大人の責任だろうと。子供たちに夢を与えることが大切。
情報ばっかり、それも暗い情報ばかりが入って来て、新聞でも何でもそうなのですけれど、悪い事件ほど取り上げる頻度が高いわけですよ。そんなことよりも、いいことをいっぱい書きなさいよと。見て、ほんわかするような記事がもっとあったら――それはいっぱいあるはずなのです。でも、これだとあまり話題にならないだとか、そういうような視点ではなくて、子供たちに伝えたいなというものがあれば、それをどんどん表に出していく姿勢も必要なのではないかと思います。これはマスコミ批判ではないですよ。僕はマスコミ大好きですから (笑)。
――改めて、今の大人たちが子供たちに向けてそういうものを伝えていこうと。
松谷 今は子供もみんな共有してしまう時代。昔は、10歳ぐらいの子供はなかなか新聞なんか読まないでしょう。ですから、何があってもわからない。今は本当に子供が何だって拾って、情報が耳から入って来てしまうわけですよね。下手すれば、携帯ですぐ出て来ちゃう。そういう時代だからこそ、そういったところにいいお話を、あるいは子供たちが夢を持てるような事柄があれば、どんどん満載にしていってあげるというような。これは大人しかできないことで、子供ができるわけではないですから。
――そうしますと、コンテンツももっと夢を与えられるものを生み出していくべきだと。
松谷 本来はそうですけどね。ただ、実際の商売が絡んでくると、なかなか思うようにいかないということもありますが…。
――理想だけでは難しい…。
松谷 しかし、それはそれで、別にいいもの、悪いものという単純な区分けというのがおかしな話なのですけれども、必死になってものを作っていれば、伝わるものは絶対にあるはずです。もの作りの姿勢ですよね。テーマだけが問題ではないと思います。