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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.170】
ポケGOの影消えた「ONE PIECE」

特別編集委員コラム

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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.170】
ポケGOの影消えた「ONE PIECE」

2016年07月29日
 忘れた頃にやって来る「興行戦線異状なし」である。7月24日、渋谷TOEIに、「ONE PIECE FILM GOLD」を観に行ったときのことだ。午前11時台の回を観ようと思って、同館にたどり着くと、ロビーでポケモンGOをやっている若者に遭遇した。何と、このロビーにポケモンが出没しているのであった。悪い予感がした。

 ひょっとして、館内にもポケモンがいるのではないか。いれば、映画どころではなくなる観客が、きっといるに違いない。妙な緊張をかかえて、館内で映画の開始を待っていると、ポケモンの“匂い”がいつの間にか消えていた。さすがは、「ONE PIECE」である。まさに「ONE PIECE」一直線といったファンの熱気がひしひしと感じられるなか、粛々と映画が始まってくれた。ポケモンが館内にいるとかいないとかに関係なく、映画への没入度が極めて高いことが、その熱気からうかがえたのだった。

 映画は、素晴らしい出来栄えであった。サービスカット風の「ルパン三世 カリオストロの城」のような描写が全然嫌味にならず、ほぼ全編にみなぎる躍動感あふれる活劇場面からは、描写の熱量と相反しない心地よい涼風が館内に吹いてくるような印象さえあった。映画で、めったにあることではない。紙面の関係もあるので、素晴らしい出来栄えの理由として、今後の興行にも関係があると思われる2つの要素を挙げておこう。

 まずは、話の“作り”だ。ゴールド満際の巨大船に、海賊たちを送り込み、その限られた空間性のなかで、オリジナルの話を進めていく作劇術に大いに感心した。これだとわかりやすく、実に手際よく一つの話として完結しているので、「ONE PIECE」の世界にそれほどなじみのない人でも、存分に楽しめることができる。これは、厖大にいるファンだけではなく、さらに不特定多数の観客層の取り込みにつながるのだ。

 2つ目は、お宝探しの古典的な話のテンポの良さと、描写の華々しさ、賑々しさ(圧倒的な情報量)だ。一例を挙げれば冒頭、ゆったりスタッフ名が刻まれていくタイトル・ロールのぎらぎらした演奏シーンから、ルフィたちの乗った車が、巨船内に位置する下町からゴールドまみれのメインストリートに赴くあたりのワクワクするような描写の疾走ぶりまで、まさに驚きの連続でハラハラドキドキのしっぱなしと相成る。

 この勢いが、ほぼラストまで一気呵成に連続していくのだから恐れ入る。映画のこの怒涛のような流れに乗ることができると、本作の価値が、とてつもないもののように感じられてくる。テンポのいい話の展開と、華麗な描写の巨大なうねりのような重なり合いは、これもまた、ファンではなくても存分に堪能できるようになっているのである。

 本作は、公開4日間(23~26日)で、動員108万8166人・興収15億1645万0600円を記録した。「ファインディング・ドリー」の100万人突破が、スタートから5日かかったことを考慮すれば、前作には届いていないが、大健闘と言っていいのではないか。

 これから、学生、子どもたちの本格的な夏休みが続く。さきの2つの要素を見てみれば。今回は一定層のファンの枠を超え、リピーターの存在もあるとの認識に立ち、さらなる数字の伸びが期待できるというのが、私の今の見解である。

 冒頭に戻れば、ポケモンGOが劇場ロビーだけで、映画開始後、ポケモンの影が微塵も感じられなくなったことのなかに、本作「ONE PIECE FILM GOLD」が描く映画=虚構世界の強靭さを、強く感じた次第である。

(大高宏雄・特別編集委員)

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