興行のことではないが、洋画が充実しているのではないか。「ウルフ・オブ・ウォールストリート」と「アメリカン・ハッスル」が、1月31日からスタート。「ラッシュ/プライドと友情」が、2月7日から公開された。この3本を立て続けに見ると、邦画ではなかなか超えられない大きな “壁” を感じる。その壁云々の前に、当欄のお約束である興行成績をまず羅列しておこう。
▽「ウルフ~」(1月31~2月2日)=動員18万0390人・興収2億0964万6000円
▽「アメリカン~」(1月31~2月2日)=6万5085人・6951万4700円
▽「ラッシュ~」(2月7~9日)=8万9947人・1億1529万5700円
「ウルフ~」は、スタートとしては健闘だろう。〈R18+〉指定の作品で、10億円に乗せるのは並大抵のことではないが、本作はそこを超えてくる可能性が高い。「アメリカン~」「ラッシュ~」は少し足りないだろう。この2作の興行を、これまで数々の話題作を送り出してきたスコセッシ=ディカプリオコンビ作の最新作と比較するのは酷だが、それでも一点突破できなかったことは問題ありであり、残念であった。
充実の根拠は、それらの作品がアカデミー賞の季節に合せて公開されているとはいえ、中身の異色性と突出性において、やはり米映画の底力を大いに感じさせたからに他ならない。驚いたのが、いずれも1970年代から80年代にかけての話であったことだ。それを、「ALWAYS 三丁目の夕日」的なノスタルジーにしていない。というより、その時代への視点なり描写がそのまま、現代への強烈な違和感、異議申し立てにつながっていることに、私としては感動せざるをえなかったのである。
「ウルフ~」のバカ騒ぎを、面白く感じたりする人がいるようだが、本作はそんな甘っちょろい作品ではない。スコセッシの不気味な “大衆” への視線を見よ。ディカプリオのデクノ坊的主人公像を見よ。ディカプリオは、役をうまく演じたのではない。デクノ坊として、リアルとバカ騒ぎ演技の皮膜を漂い続けたのだ。これはこれで、素晴らしいことであった。
「アメリカン~」の、空間がねじれたような描写の素晴らしさよ。「ラッシュ~」のまっとうな話の展開にある主人公たちの特権階級のようなうさん臭さよ。それらは、否定されるべきものではない。そこにあるのは、人間の愚かさではないのだ。それが人間だと知るべきだ。そのことに、素直に感動できる人たちが、この国からどんどん減っているのではないか。無念なり、である。
(大高宏雄)