映像産業振興機構(VIPO)が企画・実施する「ndjc 2010:若手映画作家育成プロジェクト」で製作された短編映画5作品が、一般公開に先駆けて、このほど東京と大阪で行われた合評上映会でお披露目された。製作開始から約半年を経て完成した力作ばかり。5人の若手監督は、緊張と期待を胸に観客の反応を見守った。
合評上映会は、2月21日に東京の新宿バルト9、同28日に大阪のシネ・ヌーヴォで開催された。映画界の未来を担う才能たちの作品に対する関心は高く、バルト9には業界関係者や一般モニター延べ300名が来場。シネ・ヌーヴォには約60名が集まった。
「ndjc」は、優れた若手映画作家をワークショップや製作実地研修などによって発掘・育成するもの。文化庁委託事業として2006年度より毎年行われている。バルト9で挨拶に立った小松弥生・文化庁文化部長は「このプロジェクトを巣立った作家が、すぐに花開いてくれればもちろん嬉しいですが、歳をとってから大輪の花を咲かせてくれるケースもあってもいい。いずれにせよ、これをステップにして大きく花開いて欲しい」と若手監督たちにエールを送った。
上映された5作品は、高橋康進監督「曇天クラッシュ」、藤村享平監督「逆転のシンデレラ」、松永大司監督「おとこのこ」、三宅伸行監督「RAFT」、森英人監督「動物の狩り方」。いずれも35ミリフィルムで撮影・編集された約30分の短編。
5人の監督は、東京と大阪両方で舞台挨拶に立ち、それぞれ自作を熱っぽくアピール。上映会後の名刺交換会では、業界関係者へ積極的に売り込みを図った。バルト9では、指導に当たったスーパーバイザーの桝井省志プロデューサー(アルタミラピクチャーズ代表)が「厳しい感想をビシビシ言ってあげてください。そんなことで、へこたれることはありませんから」と来場者に呼びかけた。
合評上映会は今後も予定されており、3月15日には東京・シネマメディアージュ、同17日には沖縄県立博物館・美術館で開催される。両会場の一般モニターは現在募集中。いち早く若い才能を発見してみてはいかがだろうか。詳細は公式ホームページで。
(追記)3月11日に発生した東日本大震災の影響により3月15日に予定されていた東京・シネマメディアージュでの合評上映会は中止になりました。
▼東京・新宿バルト9(2/21)での各監督の挨拶
高橋康進監督
「全ての方のおかげで、ここに立つことができました!」
――作品のねらいは?
“曇天”というのは僕の出身地・新潟を一番象徴する言葉です。そこから僕は出て来た人間ですけれど、そこに留まってたくましく生きている人というのが、最終的には人間的に一番強いんじゃないかなと最近思うんです。(テーマになった)自動車保険詐欺というのは、軽微なものであれば無数に起きていて、見過されてしまっていることに問題意識を感じます。そういった部分に少しでも意識が向いてくれればとこの題材を描きました。
――今後の抱負を
新潟を舞台にした長編のスリラーを少し前から考えています。その一部の設定は今回の作品に持ってきました。いつかその長編を実現できたらいいなと思っています。
藤村享平監督
「これだけの環境で映画を作れて本当に幸せでした!」
――作品のねらいは?
まず高校生の話を作りたかったんです。僕も27歳になり高校時代がもう10年前になります。これ以上時間が経ってしまうと、ちゃんとした高校生が描けなくなるんじゃないだろうか、描いたとしても嘘くさい高校生になっちゃうんじゃないかなと思ったんです。こだわったのは、あえてアナログな手法を使ったところです。いかにして手作りで顔をブサイクに変えていくかということに苦心しました。
――今後の抱負を
あまり先のことは考えない主義なので(笑)。とにかく、今できることをまずは普通にやっていこうと思っています。
松永大司監督
「若手監督の作品を見に来ていただきありがとうございます!」
――作品のねらいは?
観る人にとって、ひとつ前に進もうというきっかけになってほしかったんです。すごく些細なことでも次の日の景色が変わるんだということを描きました。僕はもともと役者として映画の世界に入ったんですが、中でも「ウォーターボーイズ」に出演して、演技じゃなく“実際にやった”という経験が大きかったんです。だから今回も、台本がある中でドキュメントな瞬間をどれだけ出せるかというところにすごく気を配りました。
――今後の抱負は
3月26日から監督したドキュメンタリー「ピュ~ぴる」が公開になります。フィクションとドキュメンタリーを両方見てもらって、松永っていうのはこういうことを描きたいんだなということをわかってもらいたいです。
三宅伸行監督
「こんなに大きな劇場で上映してもらえた嬉しさでいっぱいです!」
――作品のねらいは?
少年がイカダで海を漂っているというイメージが先にあって、そこからスタートした企画です。だから、イカダを海に浮かべるというシーンにはこだわりました。また、短編をどうとらえるかというのが自分の中で課題でした。撮る環境は充実していましたから、あとはできるだけ丁寧に作るということを意識して、主人公2人の人生がゆっくり動きだす瞬間を描ければ短編として成立するんじゃないかという気持ちで作りました。
――今後の抱負を
長編の商業作品が作りたいです。僕の準備はできていますので、どうぞよろしくお願いします。
森英人監督
「大勢の方に見ていただけて…感謝の気持ちでいっぱいです!」
――作品のねらいは?
口下手なのでどこまで伝わるかわかりませんが、まず命について描きたいと思ったんです。人間や動物って意外と簡単に死んでしまうもので、それを知っている人こそが、命を大事に扱えるんだと思っているんです。例えばホームレスを襲って殺しちゃうような人はそのことを知らないのだと思うんです。人間や動物って本当に簡単に死んでしまうんだよということを、実際にスクリーン上で動物を殺してみせるということによって伝えたいと思いました。
――今後の抱負を
今回こういう作品を撮らせていただいて、自分なりにもっとこうしたいああしたいという思いがあります。同じテーマで2時間なりの長編を撮ってみたいと思っています。
(了)