「真っ暗な中でプレイヤーたちがそこにある何かを探り当てるゲーム」―そんなバラエティ番組をフジテレビが制作、10月30日(土)深夜2時5分から放送する。タイトルは「トータル・ブラックアウト」。通常の深夜放送の実験的試みとは赴きを異にする。フジにとって海外番販の突破口を担う深い意味を持つのだ。
海外番販事業は、放送外収入拡大を図るテレビ局にとって今後需要拡大が期待できる分野で、各局とも注力する。もっとも、このところの世界不況もあって海外番販は苦戦、減収の傾向が見られる。とくにアジアでは海賊版の横行と韓流コンテンツの躍進が影響し打撃を受けている。だが、環境が今より整えば、企画・制作力の高い日本のコンテンツは世界に十分通用するはず。関係者はそう口を揃える。
この数年、行政によるコンテンツの海外流通促進に向けた動きが活発化してきた。海外に目を向けて市場拡大を図ろうと唱える。がしかし、放送局からすれば、ずっと以前から取り組んでいる。20数年前からは海外番販実務者の会合を重ね、テレビ局同士の連携も図るほか、権利関係等についても話し合いを進めている。むしろ行政の対応が遅れていると指摘する声がある。これまでの外交的役割が疑問視されているのだ。担当者もよく変わるため十分な引き継ぎが出来ていないらしい。総務省、経済産業省共催で開催中の「国際ドラマフェスティバル in TOKYO」(10月25日~28日)はまさに海外マーケット拡大を図るのが目的だが、過去3回の開催で実利的に目立った実績を得ていないと云われる。もちろん立ち上げの苦労もあった。成果がないわけではないが、十分趣旨に沿った内容になっていないという。そうした反省も踏まえ、今回第4回目は見直されての開催となったようだ。
TBSは1960年代以降40年以上にわたり海外番販に積極的に取り組んでいる。特にフォーマット番販の分野では世界的にも草分け的存在。これまでに世界約100ヵ国で200種類近く、数千話におよぶフォーマット番販によるTBS番組の各国版制作を実現。「SASUKE」はその代表例。「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ:面白ビデオコーナー」のアメリカ版は今秋放送21年目に突入、米ABCのエンターテインメント番組史上最長寿番組と記録を更新中だ。ドラマやアニメなど全ジャンルの番組や映画も販売しており、累計販売実績は世界5大陸100ヵ国以上、数百タイトル、数万話におよぶ。昨秋には、同局が手掛けたバラエティ番組「新型芸人オークション キリウリ」のフォーマットの全世界配給契約を世界最大手の番組制作会社である英フリーマントルメディア社(FM社)と締結するなど積極的に活動している。
FM社は世界50カ国以上でバラエティ、リアリティーショー、ドラマ、ドキュメンタリーなどエンターテイメントを展開する。22ヶ国に事業拠点を持ち、独自に企画開発制作をするとともに、テレビ番組フォーマットを各国・地域に合う形にローカライズして多くの放送事業者に提供している。
フジの「トータル・ブラックアウト」はそのFM社と共同企画で誕生した。両社は今春、人材相互交流提携した。世界市場に向けた番組を一から共同企画・制作するのが狙いだ。「ネプリーグ」や「エチカの鏡」等を手掛けた第一線で活躍するバラエティ制作センターの藤沼聡氏がFM北米支社に渡り、FM社のプロデューサーとともにこれを企画した。パイロット版を制作し、先頃仏カンヌで開催された国際テレビ番組見本市「MIPCOM」(10月4日~8日)に出品、番組フォーマットのセールスを展開する。既に北欧3カ国(デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)で成立するなど、多数のオファーが殺到しているという。
FM社のネットワークは海外番販戦略において大きな強み。フジのバラエティ系フォーマット番販では「料理の鉄人」「脳カベ」が海外で大ヒットしているが、新たな需要を掘り起こすべく「トータル・ブラックアウト」に期待を寄せる。その一環として、日本バージョン60分番組を制作した。
フジでは次にFM社の別の担当者が11月頃日本に滞在、さらに次なる人物の滞在も予定され、両社は続々と企画開発を進める。今回のバラエティ企画のように、鉱脈を“探り当てる”ことが出来るか、注目される。
(戎正治)