インタビュー:フジテレビジョン 映画事業局長 亀山千広
2009年04月21日
予想外のヒット作-鉱脈を見つける年に 2009年は16作品をラインナップ 50周年作品は「アマルフィ」等3つの柱フジテレビは開局50周年を迎える09年、大作「アマルフィ」はじめ16作品のラインナップを組んだ。前年「ザ・マジックアワー」「容疑者Xの献身」等の大ヒットで順調な成績を収めたものの、亀山千広局長は予想外のヒット作がなかったことを課題に上げた。今年はどんな戦略なのか、話を聞いた―。
――まずは08年を振り返ってどんな年でしたか。
亀山 基本的には予定どおりでした。「ザ・マジックアワー」(興収39・2億円)や「容疑者Xの献身」(同49・2億円)など、当てるべき作品がきっちりヒットしてくれた。08年(1ミ12月)は13本公開して総興収は約180億円でした。08年度(08年4月ミ09年3月)として利益も確保出来る見込みですので、その意味では良かったのではないかと思います。ただ、予想外にヒットした作品がなかった。そういうものがあると、「なるほど、そういう流れがあるのか」と発見出来て、今後自分たちがやっていく上である種目安になる。「ザ・マジックアワー」や「容疑者Xの献身」を軸にラインナップを組んで、それ以外の路線で思わぬ稼ぎがあるという方程式を作るよう組んではいるが、その点で言うと、チャレンジしている作品がある実績を残したという風には中々ならなかった。事業計画としては順調なんでしょうが、どうしてもプラスαが求められる。それがあると非常に読み込みが楽になるので、そこを伸ばせばいいわけですから。そこが自分たちのラインナップになかったのが今後の課題ですね。
目標は毎年200億円――09年は16作品のラインナップを組んだ。まずは「誰も守ってくれない」、そして「ヘブンズ・ドア」がスタートしました。
亀山 「誰も守ってくれない」が興収で2ケタいってくれると、今後の作りようにメリハリがあっていいけれど、お客さんの動向としてワッーと観てくれるような映画ではないので、そう簡単ではないでしょうね。不景気なので賑やかな作品、楽しい作品に流れちゃうのかもしれませんが、映画の一つとして当然あるべき作品なので、ある種、自分たちの新しいジャンルを開拓する狙いもあって作った。この手の路線が消えていくもの嫌なので。もちろん、そうした作品がビジネスのフィールドとして成り立っていくのか、よく吟味していきますが、こうしたチャレンジは去年からやっていて、けっこう勝負をかけて意欲的に取り組んでいる。いろんなジャンルに挑戦していますし、今年もそういうラインナップを組んでいる。ラインナップはもしかしたら、もう1本増えるかもしれません。総興収は毎年200億円を目標にしている。
50周年作品は3つの柱で――フジテレビは今年開局50周年を迎える。記念作品として「アマルフィ」「HACHI 約束の犬」「ホッタラケの島」の3本を組んだ。
亀山 オリジナル邦画、洋画、アニメと、〝映画〟をつかさどる3つの柱を1本ずつ揃えた。これは計画的に進めた。まず、邦画はオリジナルでいこうと。テレビでも原作ものでもなくてオリジナルにこだわって、それで「アマルフィ」では真保裕一さんと3年前からサスペンス大作を作れないかと話し合ってきた。バリバリのCG作品ではなくて、むしろサスペンスとしての映画をきっちり作ろうと。先に映画のプロットから作り、それから原作をという仕組みを作って進めた。映画のための書き下ろし企画です。これも挑戦と言えば挑戦で、全編イタリアロケで製作している。洋画は「HACHI」がいい形で入ってきた。「ホッタラケの島」はクオリティが保てるのならばやってみようということで、実際クオリティよく上がりつつあります。それで、この3本を夏に集中させたいと思っていたところ、配給会社さんのご協力もあって夏に公開できることになった。これで〝開局50周年フジテレビ映画の夏〟というような格好で売り出すことが出来る。イベントもあり、地上戦、空中戦などいろいろな展開でPRしていきます。本当は「踊る大捜査線3」を持ってくると呼び込めると思うけど、あえてそうしたくなかったので。
――「アマルフィ」は予算をオーバーしたように聞きましたが。亀山 実際イタリアに行ってみて、いろんなことをやってみると、どうしてもかかりますよね。日本にいては想定できない所があるので。でも、かかった費用の分はちゃんと画に出てますので。それに予算オーバーと言っても大盤振る舞いしているわけではないし、もともと設定した予算に、ちゃんと予備費を付けていますから、その許容の範囲で作っている。フジの今年のラインナップの中では一番製作費をかけています。でも、いくらかけたかというよりは、利益がどれぐらいになるかが大事。つまり出資比率が大事。うちの50周年記念作品なので100%近い出資をしています。
――豊田皓社長は「HACHI」を観て泣かれたそうですね。亀山 はい(笑)。感動的な作品ですし、映画自体も日本をリスペクトしてくれるような作り方をしてくれているので手応えを感じています。それ以外の作品では、以前からセカンドライン風な作り方が出来ないかと考えていて、それで映画ファンの裾野を広げていこうと。それで今年生誕100年ということで太宰治作品「ヴィヨンの妻」の映画化を企画した。こうした作品は今までフジのラインナップになかったと思う。いまの時代の役者さんが演じる太宰ワールドが見所ですね。「劒岳」は監督を務める木村大作さんと前から話があって、映画化の際は最初に声をかけて下さいと話していた。地図を作るために登山のプロが山に登るのなら、そう胸を打たないでしょうけど、登山家でもない人たちが厳しい登山に挑む話なので、地道な作業を黙々と続けるプロフェッショナルな生き様は丁度いまの日本にピッタリはまっている作品かなと。いい意味でパブリシティもしやすい。これもフジが得意でなかったジャンルで、大作になっているので楽しみですね。
米国進出はあるか――05年米アカデミー賞脚色賞を受賞した、20世紀FOX映画のヒット作「サイドウェイ」を、日本版「サイドウェイズ」としてリメイクしますね。米メジャーと組むことになった。
亀山 ワーナーと組んでアニメの「ブレイブ ストーリー」を製作しましたが、実写映画で米メジャーと組むのは初めてです。かつFOXが、邦画を製作・配給するローカルプロダクション事業に本格的に取り組む作品でもある。洋画のような日本映画を作りたくて、米国のスタッフで、全編米国で撮影、日本からは俳優4人が行くという、チャレンジングな作り方をしている。
――なぜ、この企画でしかも米国にこだわったのですか。亀山 僕らの路線として、ファミリームービーには自信があるけれど、40代以上の高い年齢層向けの作品が得意でない。そのカテゴリーの人たちにアピールしてみたいという思いがあって、「サイドウェイズ」は40代の話なので、俗にいうアラフォーですよね(笑)。作品を観た時にやってみたい!と思った。FOXから話があった時に、原作としてのシナリオを翻案する許可を得て実現した。内容も、無理に日本のお酒巡りをする男女4人のストーリーにするよりは、ハリウッド版と同じくワイン巡りで、米国で撮影しようということにした。現地スタッフにお願いしたのも、例えば、日本人と米国人のカメラマンでは、なぜか同じニューヨークの切り取り方が違いますよね。当たり前の話で、米国人は自分の土地を観光映画みたく撮らない。逆に、米国人が日本に来て映画を撮ると、どうしても〝THIS IS JAPAN〟みたいな画を撮る。単純にそういうことで、現地スタッフにお願いした。いい仕上がりになっていて、米スタジオサイドにも喜んで頂けているので、ちょっと安心しました。
――これを機に米国進出は?亀山 いえ、進出というようなことはないです。ただ、今回上手くいけば、こういうケースがまた出来るかもしれませんね。それに今回、直接スタジオ側のクリエイターたちとも話しのやりとりが出来て、作業がスピーディーにいったんです。通常はクリエイティブ以前の作業が大変で、弁護士が間に入ったり、分厚い契約書が出来て、細かい部分で修正しようとしても相当に時間がかかってしまう。でも今回はスムーズに出来た。お互いのメリットが共通して満足のいく仕事が出来たのではと思うし、パイプが出来たのは財産。モノを作る段取りで非常に大きなステップになった。
※全文は文化通信ジャーナル3月号に掲載