映画館における「バリアフリー上映」とは、視覚障がい者の人に向けて音声ガイドを流したり、聴覚障がい者の人に向けて字幕付き映像を上映することです。
正直なところ、当事者になってみないと興味が沸きにくい分野でしょう。かくいう私も、つい最近まで「ああ、(邦画の)字幕付き上映やってるな…」ぐらいの認識でした。ただ、この夏から何度か取材する機会があり、もうすぐ映画館にバリアフリー上映が本格導入されようとしていることを知りました。健常者の人でも、知っていて損はない情報だと思います。
現状、音声ガイドにしても、字幕付き上映にしても、映画を楽しむためには色々な制限があります。例えば、音声ガイドはラジオにイヤホンを挿して映画を観る(聴く)ものですが、それを実現するためには、上映日に、FM電波を送信する機器を持ったスタッフが上映館に出向く必要があります。作品も日時も制限されてしまうわけです。
一方、(日本映画の)字幕付き上映は、大手映画会社が少しずつ実践し始めているものの、素材は少なく、全国の映画館で順に回している状況です。やはり、観たい人は日時も作品も選ぶことはできず、聴覚障がい者の人が観る作品は必然的に(字幕がもともと付いている)外国映画が中心になります。
でも、ここ数年で開発された「電子透かし技術」を使うことで、これらの問題が「劇的に改善されるポテンシャルがある」(映連・華頂事務局長)ということです。
電子透かし技術は、本編の音声に信号を含ませてしまうというもの。制作の段階で入れ込んでしまうので、映画館ではいつも通り上映するだけでいいのです。そして、音声ガイドを利用したい人は、iPhoneなどの携帯端末に専用のアプリをインストールしておけば、どの上映回に行っても音声ガイドを聴くことができます。字幕付き上映は、スクリーンに映し出すのではなく、レンズに字幕を表示できるメガネを使用します。音声ガイドと同様に、どの上映回でも楽しむことができます。
私も実際に体験してみましたが、音声ガイドはほぼ問題がありません。すごくクリアに音が聴こえますし、目をつぶっていても、ボンヤリと画面に映っている状況が把握できます。展開の激しいアクション映画は難しい印象ですが、テンポが落ちついた映画であれば、十分楽しめると思いました。
字幕表示メガネも非常に便利です。頭を動かす度に字幕が動いてしまうことや、スクリーンにピッタリはまる席と、そうでない席の差が大きいことこと、ずっと装着していると重たくなるなど課題はありますが、観やすい席を固定し、鑑賞する側もメガネに慣れれば、さほど違和感なく楽しめるのではないかと思います。
映画会社の負担の問題や、携帯端末の利用のルール決め、高価なメガネを映画館で用意するのか?など、まだ解決しなければいけない要素は多そうですが、来年1年間で実際に映画館に試験導入してみて、ガイドラインを策定していくようです。先日、『舞妓はレディ』のバリアフリー上映&シンポジウムに参加してきたので、詳しくは記事をご覧ください。
http://www.bunkatsushin.com/varieties/article.aspx?id=2937
今は目も耳も健康な人でも、年をとれば衰えも出てくるでしょう。映画を好きな人なら、全く関係ない話ではないと思います。シンポジウムの中で、ユニバーサルデザインアドバイザーの松森さんが「映画を諦めることのないように」と話していたのはとても印象的で、映画業界全体でこの取り組みを浸透させていく流れができることを期待しています。