続・六本木のTSUTAYAが革新的なリニューアル
2014年03月19日
「旅する」「食べる」など6つのエリアに区分け
スターバックス
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TSUTAYA TOKYO ROPPONGI(以下、六本木店)の中央入口から入ると、まず目に飛び込んでくるのは、店内の中心に設置されたスターバックスの店舗だ。六本木店は、最近の蔦屋書店に次々と導入されている「ブック&カフェ」スタイルを初めて取り入れた店舗であり、以前からスターバックスが入居していたが、カウンターは奥の壁際に設置されていた。しかし、新しい六本木店では中央にあるスターバックスを取り囲むように書籍棚が配置されている。360度オープンカウンターを採用するなど、座席数も大幅に増えており、「コーヒーを飲みながらゆったりと本を読んでほしい」というメッセージがこれまで以上に強く伝わってくる。
店内は、2階と同じく木目とレンガ調に統一され、照明も抑えめに設定されており、通路も広々。やはり「居心地のよさ」にこだわっていることが窺える。
書籍販売部分は、6つのエリアに区分けされている。通常の書店では「文庫」「新書」「ビジネス書」「文芸書」などの分け方が一般的だが、六本木店では「旅する」「働く」「装う」「食べる」「暮らす」「遊ぶ」という、人間の行動でテーマ分けしてあるのが特徴だ。
「旅する」エリア
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リニューアルの前も「アート」「建築」「デザイン」「ビジネス」「旅行」「食」というユニークな区分けを導入していたが、今回は動詞で分けることで、新しい解釈を加えた形だ。
それが端的に表れているのは「旅する」エリアだろう。もともとは「旅行」のコーナーであり、国別で旅行本などが置かれていた。ところが今回の「旅する」エリアには、宇宙に関する本や、昭和を振り返る本、ヌードに関するアート本まで陳列されている。そこには、単なる国内外の旅行だけでなく、時間軸での旅や、SF・アートなど未知との出会いという意図も込められている。コーナー名の英題が「Travel」ではなく「Trip」となっているのも納得だ。
1冊1冊に意図あり 他のエリアにも様々なこだわりが見られる。例えば「食べる」のエリアだ。「和食」や「洋食」などで分けるのが一般的だが、六本木店では「料理人目線」に着目。料理人はどのように料理本を選んでいるのかをリサーチし、コース料理をなぞるように、「起承転結」のコーナーを設置。「起」の棚にはオードブルやサラダのレシピ本、「承」の棚にはパスタやスープの本、「転」の棚には肉や魚料理の本、「結」の棚にはデザートの本を置くなどの工夫がされている。
「食べる」エリア
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各エリアには、そのコーナーの仕入れなどを担当するコンシェルジュが常駐し、その人のニーズや興味に合った本を提案してくれる。驚くのは、本の1冊1冊に意図がある点だ。「新作だからとりあえず入荷する」という考えは一切なく、全てこだわった上で棚に陳列されている。例えば「遊ぶ」エリアを取材中に、フェラーリの250GTOの本が置かれているところに注目したところ、山下和樹店長が「フェラーリのファンの中でも250GTOは特に人気があるために置いています」と即答する一幕もあり、記者を驚かせた。
今回の1階部分リニューアルも、入念なシミュレーションを重ねて実施されたという。厚木の倉庫を借り切り、六本木店を再現。全ての本をそこに移送し、約1ヶ月かけて陳列の方法を考えたという。六本木店は1階を1月27日に閉鎖、1ヵ月ほどで改装を完了し、今回のオープンを迎えた。実は従来から在庫数は2割ほど減らし、約5万冊に絞ってある。代官山蔦屋書店の13万冊に比べれば物足りないようにも感じるが、1冊1冊にこれだけこだわり、「価値の高いものを置くようにした」(山下店長)というだけに、来店客は冊数の多さとは別の満足感を得られることだろう。
モノがモノ以上の価値を生む
ベビーカー置き場
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また、書籍以外のサービスや商品にも注目したい。「暮らす」コーナーの育児本が多く並ぶ箇所には、ベビーカーを置けるスペースが設けられている。2階部分をリニューアルした後、その使いやすさから乳児連れの母親の来店が増加したことを受けて、今回新たに設置したのだという。入口にも自動ドアを設け、ベビーカーで手軽に入れる心遣いが感じられる。
店舗の左奥に目を向けると、文具の販売も行っている。例えば、独自の染色スタイルで人気のブランド「YUHAKU」の名刺入れや財布だ。実際に山下店長が工場を訪れ、手染めしている現場を見学し、その品質の高さを確認し、ユハクから了承を得て入荷を決めた。
航空機のパーツを製造していた職人が生み出したブランド「エアロコンセプト」の鞄も、埼玉の工場を訪れて商品が生まれた経緯を聞き、六本木店のコンセプトを理解してもらった上で店頭での販売が決まった。これらのエピソードはコンシェルジュからも聞くことができる。「お客様に、作り手の意図や考え、その商品が出来た経緯などのストーリーを伝えることで、モノがモノ以上の価値を生む」という考えのもとに商品が並んでおり、どれをとっても興味深いバックグラウンドを知ることができるだろう。
山下店長
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以上のような店舗に変貌した六本木店だが、運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブは今後どのようにこのスタイルを全国に広げていくのだろうか。まずは六本木店の結果次第というところだろうが、「提案」や「コンシェルジュ」という軸はそのままに、その地域に適した店作りが行われそうだ。山下店長によれば、「六本木店は、六本木に務めるビジネスマンやクリエイター、六本木に住む方や、外国人の来店が多く、その客層に受け入れられるような店舗を目指しています。ただ、全く同じものをその他の店舗に導入するのではなく、その地域に住む人のニーズを考え、その地域ならではのTSUTAYAができていくと思います」という。代官山蔦屋書店と並び、六本木店も今後のTSUTAYAブランドの方向性を占う重要な位置づけにあり、機会があれば必ずチェックしておきたい店舗だ。 了
(下に店内の写真を掲載中)
取材・文/構成: 平池 由典