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“提案型”のビデオレンタル店、六本木のTSUTAYAが革新的なリニューアル

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“提案型”のビデオレンタル店、六本木のTSUTAYAが革新的なリニューアル

2013年12月26日

ツタヤ六本木.jpg


 東京都・六本木の「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」が、10月に革新的なリニューアルを遂げて再オープンした。

 「利便性」が重視されてきた従来型の店舗とは一線を画し、同店は「提案」に重きを置いた店舗へと変貌。ユニークな切り口で商品を陳列し、知識の豊富なコンシェルジュを常駐させることで、来店した客は、これまで「知らなかった」「興味のなかった」映画や音楽に出会うことができる。

 果たしてどのような工夫がなされているのか。そして、ビデオレンタル店の新たなモデルと成りえるのか。12月某日に取材した。




居心地の良さ

2階フロア.jpg 「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」(以下、六本木店)は、六本木のけやき坂通りを下った交差点に位置する大型店。2003年4月にオープンし、2013年で営業開始から10年が経った。運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブは同店を、チャレンジ性あふれる「オンリーワン」の店舗として位置づけており、常に先を見据えた店づくりを試みている。現在、蔦屋書店でよく見られる「ブック&カフェ」スタイルも、ここが発祥の地である。

 10月にリニューアルしたのは、映像・音楽の販売とレンタルを行っている2階部分(1階のブック&カフェは通常営業)。9月17日から約1ヵ月間改装工事を行い、10月11日に再オープンした。

 2階に上がってまず気づくのは、その見通しの良さだ。手前の「販売用DVD」スペースの棚はすべて140cm以下のものが使用され、従来のビデオレンタル店にありがちな、そびえ立つ棚群による圧迫感がなく、人の動きや外の様子を見渡すことができる。さらに店内の壁、床、柱、棚は木目とレンガ調に統一、照明も抑えめに設定されているため、リラックスできる雰囲気が漂う。棚と棚の間も広く、何よりも「居心地の良さ」を徹底した店舗を目指したことが窺える。


斬新なテーマ分け

 店内には大きく分けて「販売用DVD」「販売用CD」「レンタルDVD」の3区画がある。(当記事ではブルーレイも含めて“DVD”とする)

4テーマ.jpg まずは奥にある「レンタルDVD」コーナーを見てみよう。一般の店舗では、利用者がお目当てのタイトルを探しやすいように、「邦画」「洋画」「韓流」「アニメ」などに大きく分けられ、そこから「アクション」「SF」「ホラー」などに細分化、五十音順で並んでいるのがスタンダートだ。ところが、六本木店の「レンタルDVD」コーナーの入口でまず目に飛び込んでくる棚は、「愛」「人生」「時」「男と女」という、斬新なテーマで分けられている(=右画像)。“人の関心が高いもの”として、この4つのテーマを売りにしているようだ。そして、これらのテーマの中でも細かくジャンル分けされているのが面白い。例えば「愛」の棚では、さらに「不倫」「殉愛」「出会わなければよかったの?」「夫婦の関係」などに分類され、1つのジャンルに十数作品が並べられている。「出会わなければよかったの?」コーナーには、『別離』『ブルーバレンタイン』『悪人』『アメリカン・ビューティー』『浮気な家族』、「夫婦の関係」コーナーには、『ツレがうつになりまして。』『ウィスキー』『今度は愛妻家』『ゲゲゲの女房』といった具合だ。並べ方は五十音順ではなくランダム。洋画と邦画の隔たりもない。六本木店独自の視点と切り口で作品が並べられているのがポイントだ。

出会わなければよかったの?.jpg また、「愛」の棚の後方にある「時」の棚は、年代別に分類されているのが特徴。古くは1960年代から並べられ、1990年代まで網羅されている。例えば「1987年」コーナーには、『フルメタル・ジャケット』『アンタッチャブル』『プレデター』『マルサの女』『私をスキーに連れてって』などが揃っている。「1987年」と書かれたディスプレイにはその年に起きた主な出来事も記されており、棚の前でその時代に想いを馳せる人も多くいることだろう。そのほか、「男と女」の棚は100名の俳優・監督の作品が並び、「人生」の棚は「ジャーナリストの信念」「東京」「紐育」「東へ西へ」「誰だってひとりじゃない」などに分類。「誰だってひとりじゃない」コーナーには、『アバウト・ア・ボーイ』『陰日向に咲く』『シングルマン』『百万円と苦虫女』などが陳列されている。

 これら4テーマの棚からさらに奥に進むと、一見普通に棚が並んでいる。ところが、やはりここも細かく、ユニークにジャンル分けされ、例えばTVドラマの棚では「アイドル!」「先生」「胸キュン」「イケメンパラダイス」といったようにコーナーが作られている。


提案型に振り切った店舗

山下氏&飯泉氏.jpg しかし、ここまで徹底して独自視点で細かく分類する店舗に振り切った理由は何なのか。リニューアルを担当した店長の山下和樹氏(=写真左)と、コンシェルジュの飯泉宏之氏(=写真右)に話を聞いた。

 山下店長は「TSUTAYAは今年創業30周年。これまでは合理性を求めて商品の陳列を工夫してきたわけですが、時代が変わり、新しい分類にチャレンジする必要性を感じていました。便利なだけなら、今はネットでもレンタルできますし、どんな方法でも映画を観ることができます。そんな中で、リアル店舗の価値を何に見出すのか。その1つは、『空間』の価値だと思います。居心地の良さ。そしてもう1つは、お客さんの知っていることや、興味の範囲を広げられること。これらを追及した結果が、『提案型』に振り切った六本木店です」と説明する。ちょうど店舗オープンから10年が経ち、当時は斬新だった内装も今ではスタンダードになりつつあることから、ここで一新する決断を下したのだという。

 また、今回のリニューアルは全社挙げてのビッグプロジェクトだったことも明かす。「企画については昨年から進んでおり、増田(宗昭)社長をはじめ経営陣からもアドバイスをもらい、議論を深めていきました。そして今年の8月には渋谷の本社の1フロアを借り切って、この売場を再現したのです。六本木店とほぼ同じ5万タイトルを集め、100名を超える社員が作品を並べ、意見を出し合いました」という。

 このように、TSUTAYAの「新たな指針」とも言える六本木店だが、果たして利便性に不安はないのか。五十音順で並んでいないだけに、観たいタイトルを探す手間が考えられる。この疑問について、山下店長は「確かに賛否両論あります。従来型の店舗を使い慣れたお客さんからは、『探しづらい』とお叱りを受けることもあります。ただ、コンシェルジュが常駐し、店内に6台の検索機を設置しているので、それらを利用してお求めのタイトルを探して頂ければ」と説明する。

 返却されたDVDをスタッフが棚に戻す際も、五十音順でなければ苦労するように思うが、「実は、全てのDVDのケースにシールを張り、すぐジャンルがわかるようになっています。すると、細かくジャンル分けされている方がかえってわかりやすく、以前よりもスムーズに棚に戻すことができるようになったのです」と、思わぬ効果があったことも明かす。

 六本木店の工夫は陳列だけではない。コンシェルジュの飯泉氏は、「基本的に、お客さんにはお声がけしています。通常のTSUTAYAで店員に声をかけられるなんてことはないですから、ビックリされることも多いのですが、人と人とのコミュニケーションの場になるのがリアル店舗の良さ。店員から勧められた作品を観て、それが面白かったら、そこで信頼関係が生まれると思うのです。デパートでは店員とお客さんはコミュニケーションがあるのですから、エンターテイメントを扱う店でもそれがあってもおかしくないでしょう」と、人との交流がポイントであることも挙げる。「提案」「居心地の良さ」「人とのコミュニケーション」。これがTSUTAYAが導き出した次世代型リアル店舗の在り方というわけだ。


死んでいる作品がない

面陳.jpg では、店舗の内容に話を戻そう。次は、「販売用DVD」のコーナーだ。ここは全ての棚が140cm以下に設定されているほかに、ひと目で面陳(表面を向けて陳列)や平積みのDVDが多いことがわかる。従来の販売店では、新作・注目作こそ面陳されているが、それも発売から数週間で背差しに変わってしまう。しかし、六本木店は新・旧タイトル問わず、面陳・平積みされている作品が圧倒的に多いのだ。さらにDVDの隣には関連するグッズや書籍も置かれ、その棚で1つの世界観が生まれていることがわかる。飯泉氏は、「スタッフそれぞれに担当している棚があり、1人1人の色が出ていると思います。例えば、「クリスマスを目前としたそれぞれの愛のかたち」と題したコーナーでは、『ラブ・アクチュアリー』『シザーハンズ』『ユー・ガット・メール』『ホリデイ』などが並び、コーナー周りにはリボンもあしらわれています。ここは20代の女性スタッフが担当しており、同年代の女性客から非常に人気の高い場所。(50代の)私は近づかないようにしています(笑)」という。

 記者が気になったコーナー「コテコテ・デラックス」は、黒人文化に関連する映画が多く並ぶ場所。その1本である『ノトーリアスB.I.G』は劇場未公開作品だが、コーナーの最初に面陳され、よく売れるのだという。このように、1つ1つのタイトルの個性が生かされ、1本も「死んでいる作品」が無い印象を受ける。低い棚を使い、面陳しているだけに、在庫タイトル数には限りがあるが、飯泉氏は「例えば、先日亡くなった俳優のピーター・オトゥール。彼が出演した映画を全て並べようと考えるのが従来の店舗ですが、六本木店は、彼が出演した映画の中でも『特に見るべき3本』をお客さんに提案するのが特徴。売れなくても置いておかなければいけない、という概念を捨て、いかに死んでいる作品を作らないかを意識しています」と語る。今後はさらに作品数を絞っていく考えだという。

オーディオ売り場.jpg 「販売用CD」のコーナーも同様に様々な工夫がなされ、特にオーディオ売場が併設されている点が心憎い(=右画像)。壁面には年代別でCDが並べられ、「1975年」のコーナーにはクイーンやパティ・スミスと同じ列に「およげ!たいやきくん」が置かれている。

 リニューアルから約2ヵ月。山下店長は「当初は戸惑ったという男性のお客さんが、何度か来店するうちにこの店舗の楽しさがわかったと、わざわざ言いに来てくださったこともあります。ある女性のお客さんも、自分の関心が広がっていく棚の並び方、と喜んでくださいました」と、利用者の好反応から手応えを掴み始めている様子だ。記者も約2時間の取材の中で、すっかり六本木店に魅了されてしまった。

 現状、同様のスタイルを取り入れた店舗はなく、まずは六本木店の状況を見た上で、他店での導入も検討していくようだ。縮小傾向が続くビデオレンタル・販売市場の中で、新たな可能性を示した画期的な店舗と言えるだけに、今後の動向を注視したい。

(下に店内の写真を掲載中)



取材/文・構成 平池 由典

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