座談会参加者
記者A アラフォー映画記者。ミニシアター系映画を愛する偏屈者。
記者B 30代後半。最近映画を見て涙を流すことが増えた。特に親子ものに弱い。
記者C 30代前半。SF映画大好きで『インデペンデンス・デイ』続編を待ち続ける。
『風立ちぬ』、地震のシーンは宮崎駿監督の真骨頂
記者C 7月に入り毎週のように大作映画が公開されていますが、その中でも最大の注目はジブリの新作
『風立ちぬ』。やはり、最初はこの作品からいきたいと思います。A記者はどうでしたか?
記者A 素晴らしい作品。思った以上に大人向けな映画だったね。もうちょっとファンタジーかと思ったけどそういう面は抑えて、主人公・堀越二郎という人間の夢と愛を真正面から描いていた。それを関東大震災から世界恐慌、失業、貧困と結核、革命とファシズム、言論弾圧と戦争といううねりの中で表現していたね。ただ、戦争については声高には言ってなくて、あくまで主人公の夢に徹して描いていた。
記者C 地震のシーンは印象的な描き方でした。
記者A あれは宮崎駿監督の真骨頂だね。『崖の上のポニョ』の波の描き方も凄かったけど、今回も大地が生きているようだった。効果音を人の声で表現しているのも変なリアリティがあったな。
記者C 宮崎監督の飛行機好きが全面に出た映画だと思いました。それについていけるか、置いていかれるかで評価が分かれそうな気が。僕は後者でした。
記者B 主人公の声を庵野秀明さんが担当しているけど、それはどうだったの?
記者C 終始庵野監督の顔が浮かんでしまいました。
記者A そう? 思った以上に合っているなと思ったけど。
記者C 個人的には健気なヒロインが良かったです。二郎が疲れて菜穂子の横で眠ってしまうシーンで、菜穂子が添い寝するのですが、あれは胸がキュンとなりました。家に帰って奥さんに同じことを求めたら拒否されました(笑)
記者A 興行的には、『ポニョ』よりは客層が絞られそうな印象。小さい子にどこまで訴求できるかな。
記者B 息子は飛行機が好きなので「観たい」と言っているのですが、さて公開したらどうなるでしょうね。
『終戦のエンペラー』はエンターテイメントとしても秀作記者C では、あとは公開順にどんどん話していきましょう。すでに公開して大ヒット中の
『真夏の方程式』ですが。
記者A 前作『容疑者Xの献身』も観たけど、今回の方が好きだね。少年との交流が主人公・湯川学の人間的な魅力を引き出していた。実はもっと大ヒットスタートすると思っていたんだけど、前作の86%くらいのスタートだったね。夏休みに入ってどこまで巻き返せるのか注目したい。
記者C 『ハングオーバー!!!最後の反省会』はどうですか。
記者B 今までは目を覚ましたところからスタートだったけど、今回はそういう展開ではないんだよね。それは新鮮だった。
記者C キリンの首が飛ぶシーンは笑いましたね。
記者B 父親の葬儀でアランが歌う場面も面白かった(笑)。アランが最後に重大な決断をするのも意外で良かったね。
記者C でも、一番笑ったのは実はエンディングでした(笑)
記者B 『モンスターズ・ユニバーシティ』はどうかな?
記者C ピクサー映画は鉄板ですね。マイクとサリーの出会いと友情が描かれますが、今回も感動あり、ハラハラドキドキありで楽しかったです。個人的には、シンプルに「努力をすれば誰でも活躍できる!」という展開に持っていってほしかったですが、そうならずにもうひと波乱あったのは意外。そうじゃないと『モンスターズ・インク』の怖がらせ屋・サリーとそのアシスタント・マイクの関係に繋がらないので、納得でしたが。
記者A 『ワイルド・スピード EURO MISSION』は観たの?
記者C 今回も面白かったですよ~。第4弾までは、どちらかと言えばスポーツカーのお披露目映画的な印象で、車に興味のない自分はそんなに面白いとは思わなかったんですが、第5弾の前作から急変して凄く楽しくなりました。前作は巨大金庫を引っ張りながら、次々と車を吹っ飛ばしていくアクションでしたが、今回は戦車と航空機でこれでもかこれでもかと車をぶっ潰していき超爽快です。映画館で観なきゃ損です。
記者B 『終戦のエンペラー』はどうかな。
記者C 個人的にはこの夏1番オススメの映画です。戦争責任について、天皇の無罪を証明するべく奔走したマッカーサーの秘書官を描く物語です。こんな事実があったのかと興味深く観ることができる一方、堅いだけじゃなく、非常に緊張感のあるサスペンスとして仕上がっています。秘書官と日本人女性の恋愛も描き、エンターテイメントとしても優れた作品。ジブリやピクサー映画がある中、「夏の大穴」と考えています。試写会では賛否両論だそうで、これは観て判断してほしいですね。
『スター・トレック~』は悪役カンバーバッチが良い
記者C 8月の映画に入りますが
『映画 謎解きはディナーのあとで』はどうでしたか。
記者A 豪華客船で撮影して、製作費をかけ、豪華な俳優を使って、映画ならではのスケールでTVドラマを描いていたね。
記者B ある配給会社の人に聞くと、鑑賞意欲度、認知度調査ともこの映画は非常に高いようで、たぶん大ヒットするんじゃないかな。
記者C ロボット大作
『パシフィック・リム』ですが。
記者B 良くも悪くもB級映画。アクション好きの人は楽しめると思う。特撮で有名なレイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐというクレジットが出るんだけど、確かにキャラクター造型は影響を受けていると思う。菊地凜子が準主役的な位置づけで大活躍してるんだよね。日本人がこんなに大きな映画に出演していて感慨深いな~。試写会ではけっこう笑いも起きていて、何も考えずにスカッと楽しめる作品だと思う。
記者A 『少年H』はどうかな。
記者B 非常に良かったです。昭和初期の神戸が舞台で、外国人向けの洋服の仕立てを仕事とする父親と、その息子である少年Hの話です。戦争が始まると、外国人と付き合いのあったその家族は周りから白い目で見られ、辛い思いをするんです。でも彼らは気高く生きている。世の中の流れに乗らず、自分の信念を曲げずに生きた少年に感動します。8月10日公開なので、時期的にも注目を集めるのではないでしょうか。
記者A ブラッド・ピット主演の
『ワールド・ウォー Z』も注目作だが。
記者C 映画史上最大スケールの「ゾンビ映画」です。とにかくゾンビの動きが早く、バンバン飛びかかってきます。ブラピが行く先々で凄まじい数のゾンビから間一髪で逃げ出す、『28日後…』と『2012』を足して2で割ったようなパニック大作です。面白かったですよ。ゾンビが「音に反応する」という設定なのが怖くて良かったです。
記者B ローランド・エメリッヒ監督の新作
『ホワイトハウス・ダウン』はどうですか。
記者A よく作ってるね。まあ、同じような題材の『エンド・オブ・ホワイトハウス』という映画を先に観ちゃったから、どうしても新鮮味はなかったんだけど、同監督らしくブっ壊してたな~。『エンド・オブ~』の方は、特に敵がホワイトハウスを占拠するシーンの迫力が凄かった。その場面で製作費のほとんどを使っちゃったんじゃないの?ってぐらい(笑)
記者C 前作が傑作だった
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』はどうでしょう。
記者B 面白い。映像も前作よりグレードアップしているし、悪役のベネディクト・カンバーバッチが良いね。最初見た時は浮いている感じがしたんだけど、だんだん魅力的になってきて。彼の正体が物語の肝になってくるんだけど、別に難しい話じゃないし、前作を観てなくても十分楽しめる内容だと思う。自分を犠牲にして助けるものがあるという「愛」も日本人は好きなんじゃないかな。
記者C 我々が観た作品は今のところこれだけですが、別表にある全国公開作品も要注目ですね。あと最後に、インディーズ作品でオススメのものがあればどうぞ。
『夏の終り』は満島ひかりの代表作に
記者A 『シャニダールの花』は素晴らしい映画。女性の身体に花が咲くっていう設定だけで映画を感じてしまう。あと
『夏の終り』も見応えがあった。満島ひかりの代表作になるのでは。そういえば2作品ともいま注目の綾野剛が出演しているね。それから韓国映画の
『悪いやつら』も良かった。韓国映画の底力を改めて感じさせられた。去年の『サニー 永遠の仲間たち』や先日まで上映していた『10人の泥棒たち』を観ても、韓国映画が熱くなっているなと思う。
記者B 僕は
『25年目の弦楽四重奏』が良質な映画で良かったね。世界的に有名な弦楽四重奏のメンバーの一人、クリストファー・ウォーケン演じる主人公がパーキンソン病にかかったことをきっかけに、これまで表に出なかったメンバーの過去が明らかになっていき、大変な事態に…。感情をぶつけ合う俳優の演技合戦も凄かった。
記者C 個人的には
『ペーパーボーイ 真夏の引力』が、人間の性と臭い、うだるような暑さをジメジメと感じる印象的な映画でした。全く知らない世界を描く
『マジック・マイク』も楽しい作品で、両作品に出ているマシュー・マコノヒーがとにかく凄い。あと、今ヒット中の
『台湾アイデンティティー』も、日本統治下の台湾を知る現地の人の複雑な心情を見ることができて興味深いです。(了)
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「スター・トレック イントゥ・ダークネス」 (C)2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.