【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.115】
「脳男」、生田斗真の興行的安定感は特筆すべき
2013年02月14日
「脳男」に主演している生田斗真は、ジャニーズ事務所の所属俳優のなかで、その映画主演作がここ1、2年では抜きん出た興行の安定感を見せている。ちなみに「脳男」は、2月9~11日まででは、全国動員22万7345人・興収3億0057万7800円を記録した(302スクリーン)。期待度が高かったので、目標はもう少し上であったが、まずは順調なスタートになったと言っていい。
2012年から13年にかけて、ジャニーズ事務所の俳優の主演作で興収10億円を超えたのは、「映画 怪物くん」(31億3千万円)。「僕等がいた 前篇」(25億2千万円)、「僕等がいた 後篇」(17億2千万円)、「源氏物語 千年の謎」(14億8千万円)、「映画 妖怪人間ベム」(推定12~13億円)、「エイトレンジャー」(12億円)の6本。
このうち、生田は3本の作品で主演。新作の「脳男」も、10億円突破は確実なので、これを加えれば、4本が10億円超えということになる。事務所所属の他の俳優より本数が多いということもあるが、その安定感は特筆すべきものだ。近年、テレビドラマやバラエティなどで派手な活動をしているわけではないが、映画を中心にした俳優業が、確実に花開いている結果だと言えよう。
彼の主演作が俄然脚光を浴びたのは、「人間失格」(興収6億円)。太宰治の代表作の映画化で、幾人もの女の間を経めぐる青年の一種地獄めぐりという難しい役柄を、見事に演じて見せた。
おそらく、この「人間失格」での演技が、彼の俳優人生にとって大きな転機をもたらしたのだろう、以降、映画では、「ハナミズキ」(28億3千万円)の大ヒットをはさんだ形で、“青春映画”と文芸作(古典)の2つのラインを大きな軸に、活躍を続けてきた。
新作の「脳男」では、特殊な能力をもち、犯罪者に鉄槌を下す“脳男”と呼ばれる青年を演じている。これまでの2つの演技のラインとは全く違って、彼にとっては初めての役柄である。感情の生起がうかがえず、無機質的で不気味な役柄のなか、一筋の希望とも言える温かな人間性への目覚めに近づいていくという非常に難しい演技に挑み、それが見事な成果を見せている。
アイドル的な人気と質の高い演技力の両面をもっているのが、彼の大きな強みだろう。興行もまた、そのあたりに敏感で、年代を超えた幅の広い観客の集客を果たしているのが特徴的だ。今の邦画のなかで、得難い俳優の一人だと言えよう。
(大高宏雄)