【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.112】
「テッド」、女性たちの“渇望”に火をつけた
2013年01月23日
年初から、興行の地殻変動が起きている。「テッド」が、大ヒットのスタートを切ったのである。1月18日からTOHOシネマズスカラ座をメインに、全国134館(253スクリーン)で公開された。まず、具体的な興行データを記す。
▽1月18日=動員5万7669人・興収7779万7700円
▽ 19日= 10万8832人・1億5461万3500円
▽ 20日= 12万0749人・1億7153万7500円
配給の東宝東和は、20億円を見込むとの見解だが、これは全く異色の大ヒットだった。10代から30代の女性中心に、カップルや友人同士が多いという。〈R15+〉指定の下ネタ連発、下品な中年のテディベアに、女性たちが関心をもったのである。
ベテラン興行マンが、私に「『エマニエル夫人』を思い出した」と、とんでもないことを言った。小きれいなソフトポルノとはいえ、当時としてはいささか過激にも見えた性描写に興味をもった20代から30代中心の女性で劇場が溢れかえった「エマニエル夫人」。下ネタ満載の動くぬいぐるみに関心をもって、10代以降の女性が劇場に詰めかけた「テッド」。全くシチュエーションは違うが、“エロ”に心をひかれたのは共通している。だから、「思い出しても」何ら不思議はない。
鍵は、「テルマエ・ロマエ」ではないか。一瞬芸とでも言うべき「テルマエ~」の予告編が圧倒的に面白かったように、「テッド」もまた、予告編でのベアが非常に面白く、劇場での観客の“引き”に、大きなものがあったのである。この予告編の下品さを身にまとったバカバカしい作品コンセプトが、映画全体を象徴して、関心度が増したと見える。
生身のオヤジが、同じことをしたら、若い女性たちは顔色を変えて、避けまくるのだろうが、ここは汚らしくても、あくまで、何のわだかまりもなく笑えるぬいぐるみ。女性たちの内面にある下品さへのちょっとした“渇望“は、ぬいぐるみのなかに、哄笑とともに溶解し、めでたし、めでたしというわけだ。
何度でも言うが、生身のオヤジは、「テッド」を見て、真似をしないように。誰も真似をしないと思うが、もしやるのなら、笑いを徹底的に勉強すべし。今回、おかしな方向にいってしまった。だが、そうしたバカ話を思い起こさせる作品でもあるのだ。
(大高宏雄)