ここ最近、テレビCMが話題にのぼっている。テレビCMや番組の音量を来秋同じ基準で揃えることが決まったことや、テレビ朝日がカタログハウス「通販生活」秋冬号(巻頭特集「原発国民投票」)のCM放送を断ったこと、CM動画のポータルサイト「CMerTV」が10月にオープンしたこと等々。また、中国ではドラマ中のCMを禁止するとの動きが報じられたりもした。
だが、そんなニュースの一方で、気になった事が別にある。香里奈が出演するスズキのアルト エコのCMだ。11月25日頃からOAされ、CMを見た&聴いた瞬間、「おっ」と唸った。楽曲が大滝詠一の「君は天然色」だったからである。この歌は今から30年も前に誕生した名曲。81年3月21日発売の名盤「A LONG VACATION」の1曲目に収録されている。CMに起用されたのは今回だけではない。昨年8月頃にアサヒのチューハイ「すらっと」、04年夏にキリン「生茶」で起用された。時を経ながらもライバル同士の飲料メーカーで起用されたのは珍しい気がする。ちなみに「生茶」CMには、いま高視聴率で話題の日テレ「家政婦のミタ」の松嶋菜々子が登場していた。さらに、この歌が誕生した30年前、ロート製薬の目薬のCMにも起用されている。今回のスズキで4回目か。
懐かしい曲が何度かCMに起用されることはそう珍しくなく、ほかにももっとあるだろう。ただ、往々にして、誰か別のアーティストがカバーしたり、アレンジが変わって登場している。その点、この「君は天然色」はいずれも原曲のまま使われている。こういうケースはそう多くないような、注目に値してもいいのではないかと…。
業界関係者に大滝詠一ファンは少なくなく、それがCM起用に繋がっている。「君は天然色」以外の楽曲も数多い。とりわけ「A LONG VACATION」収録曲がよく使われ、05年冬には「恋するカレン」がトヨタ・アリオンのCMで、「スピーチバルーン」がソニーハンディカムのCMでそれぞれ登場した。名アルバムと云われる所以でもある。もっとも大滝とCMは縁が深い。「出前一丁」や「三ツ矢サイダー」など古くからCMソングを手掛け、CM作品集のアルバムもある。今年8月にはパナソニックのドコモスマートフォンP‐07CのCMで流れた “ワンハンドスイスイ♪” という歌が、大滝の曲調や声が似ていてコアファンの間で話題になったこともあった(今も誰の歌なのか不明なままですが…)。
大滝ソングは色褪せないとの定評で、だから数十年経っても多くのアーティストがカバーしCMにも登場する。「A LONG VACATION」に心酔し、今も聴き続けるファンは多い。当の本人はほぼ隠居?しているのか、もう何年も新曲がない。アルバムならば84年3月21日発売の「EACH TIME」以来、新作をリリースしていない。旬なアーティストでないにもかかわらず、広告業界で取り上げられることもまた、一目置かれるところ。今度はどの楽曲がどんなCMに起用されるのか、楽しみだ。
(戎 正治)