インタビュー:森岡利行監督「女の子ものがたり」
2009年08月19日
「今立ち止まっている人、スランプの人に観てもらいたい」
人気漫画家・西原理恵子の自叙伝的作品を、深津絵里主演で映画化した『女の子ものがたり』(配給:IMJエンタテインメント、エイベックス・エンタテインメント)が8月29日(土)より全国公開される。スランプに陥ってしまった女性漫画家が、夢に向かって歩み始めた頃の自分を思い出し、前向きな気持ちを取り戻していく姿を描く感動作だ。
本作の脚本・監督を務めたのが、『子猫の涙』で2007年東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門特別賞を受賞した森岡利行。以前から西原作品のファンだったという森岡監督は、『女の子ものがたり』を「自分のルーツを思い起こすことができる作品」と語る。思い入れの深いその原作を映画化するに至った経緯や、作品にかける思いを聞いた―。
自分の人生と似ている―公開が直前に迫っていますが、今の率直な気持ちを聞かせてください。森岡利行監督(左写真/以下敬称略) これまでの作品でもそうですが、あまりプレッシャーは感じていなかったんです。でも、一緒にキャンペーンで回っていた西原さんに「(公開初週の)土日が重要だからね!」と言われて、今になって緊張し始めています(笑)。西原さんは『いけちゃんとぼく』も今年映画化されていますし、そのへんもよくご存じなんです。
―プレッシャーですね(笑) まずは映画化の経緯について伺いたいのですが。森岡 プロデューサーの西口典子さんと出会う機会がありまして、良い企画があれば映画を撮ろうという話を頂いたんです。せっかく女性のプロデューサーと組ませてもらうのだから、僕がこれまでにやってきたものとは違う映画を作りたいなと考えていました。そこで、西原さん原作の作品を映画化したいと思い、その中でも『女の子ものがたり』を選びました。
―西原さんの作品を映画化したいと思われたキッカケは何ですか。
(C) 2009西原理恵子・小学館/「女の子ものがたり」製作委員会 |
森岡 西原さんの原作は以前から好きだったんですよ。例えば『上京ものがたり』。あの作品は田舎から東京に出てきた女の子が漫画家になるまでを描いた話なんですが、その過程が、大阪から出てきてシナリオライターになった自分の人生とよく似ているんです。
―スランプに陥った女性漫画家を描く『女の子ものがたり』は、その『上京ものがたり』の続編的なストーリーですよね。森岡 僕自身、シナリオライターを何十年もやっていると、スランプになったり、立ち止まったりすることがあります。気合を入れてやった作品が全然ウケなかったりすると、今流行っているものは何かとか、何をやったらヒットするのかとか、そういうことばかりを探している自分に気づくんですね。そんな自分が嫌で、もう一度原点に戻るにはどうするべきかと考えることがよくあります。そんな時に『女の子ものがたり』を読むと、自分のルーツを思い起こすことができるんです。「あれがあったから今の自分があるんだ」とか、「自分の生まれてきた環境に感謝しなきゃ」と改めて感じることができます。
―映画を観終わった後、地元の友人を懐かしく思える物語でした。森岡 実は、僕自身はちょっと地元に帰りづらい理由があるんです。昔、友人とあることで大ゲンカしてしまい、学校に行かなくなってしまったんですよ。すると父親にも「出ていけ!」と言われてしまって、それ以来ずっと東京で仕事をしています。でも、帰る場所が無かったからこそ、こちらで挫折しても頑張ることができました。仮に地元の居心地が良かったら、辛いことがあった時に帰ってしまったかもしれません。今から思えば、父親なりに背中を押してくれていたんだと思いますし、とても感謝しています。『女の子ものがたり』の中でも、主人公が友達と大ゲンカしてしまい、仲直りしないまま地元を離れ、上京していますよね。その友達が実は背中を押してくれていたんだと想像すると、とてもいい映画が作れるのではないかと思ったんです。この経験は男女関係無いですしね。
―西原さんの作品の中でも特に本作に共感されたわけですね。ところで、監督が前回手掛けた『子猫の涙』と『女の子ものがたり』は、愛すべきダメ人間が主人公という共通点があると思うのですが、何かこだわりがあるのですか。森岡 自分がダメ人間だからですかね(笑)でも、人間はみんなどこかダメなところがあると思うんです。そういうところを掘り下げて見ていった方が面白いんじゃないでしょうか。スーパーマンばかりじゃかえって退屈ですよ。僕は、人間味の感じられるキャラクターの方が魅力的だと思いますね。キャラクターだけじゃなくて、物語にも同じことが言えると思います。全部完璧に理屈通りにやってしまうと面白くないんです。
―具体的には。
(C) 2009西原理恵子・小学館/「女の子ものがたり」製作委員会 |
森岡 理屈で語れない魅力ですね。例えば、劇中に出てくる壁画(右写真)。あれは西原さんにオリジナルで描いてもらったものですが、パッと見るとわけがわかりませんよね。地球を亀が支えていたり、オレンジや黄色の山があったり、女の子の立っている道がどこまでも続いていたり…。理屈では説明できません。それなのに、受け手によって色々な想像が浮かんできて、とても魅力的に感じるんです。西原さんにそんな絵を描いてもらったので、僕も最後に、ウサギを追いかけるというエピソードを台詞に加えたんです。あの意味だってわけがわからないのですが、映画を観た人はみんなそのウサギを希望や夢のように感じてくれています。理屈抜きで、映画をご覧になった方がそれぞれに感じてくれたらいいですね。