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落語家 三遊亭 小遊三 . 私がこの業界に入った時に、その当時の幹部の師匠に「世の中にねえ、あってもなくてもいい商売ってのはあるけれど、噺家ってのは、なくてもなくてもいい商売だからね」といきなり脅かされまして、えらいところに入っちゃったなと、思ったんでございますが、でもまあ私演芸人として、例えば、歌舞伎、それから演劇、邦楽、洋楽、様々な芸能がございます。こういうものを見たり聞いたりさせていただいておりますが、これはもう私の芸の肥しにもなりますし、また、潤いというものが、非常に生活に出てくるものでございます。
したがってまあ、演芸も多少は皆様方に、そういった潤いを与えているかなあと、そういうわずかな自信はあるわけでございます。落語に限って申し上げますと、200年ちょっとというところでございますか、ちょんまげを結った時代から寄席というものがございます。これはもちろん当時から民間でございまして、お客様から木戸銭を頂きまして、それを楽屋で分けると、このシステムをずっと続けております。そりゃ、決して楽なもんじゃございません。
でもまあ、平成11年に、文化芸術振興基本法が施行されまして、おかげさまでアーツプランというものを頂き、寄席だけの活動にも少し潤いが出て参りましたのと同時に、地方振興ですとか、海外公演という、これはもう昔の師匠たちがびっくりするんじゃないかと思います。もっともあの、戦争中満洲へ行ったって話もありますけど、そうじゃなくて、アメリカですとか・・・。この間(桂)歌丸(落語芸術協会)会長がインドへ行きましてですね、インドで落語というのはびっくりしましたですね。そういう活動もさせて頂いております。ありがたい限りでございます。
そこへもってきて、今度「Culture First」というキャッチフレーズができまして、なんとなくいいですね。やっぱり文化ありきという、健康の次に文化でございます。手前どもも、この「Culture First」を旗印に、まあ、多少なりとも、社会に貢献できればと、思っております。
作曲家 都倉 俊一 . デジタル技術というのはやはり画期的な技術で、これがないとやはり今はもう音楽業界はやっていけないわけですね。しかし他方、デジタルという技術は、ある種「パンドラの箱」を空けてしまったようなもの。この技術によって私的録音録画、海賊版のもとになっている不法録音録画が堂々として売られている。こういう技術を提供してしまったことも事実です。
私は、技術とCultureというものは、やはりどうしても共存しなければならない運命にあると思っています。技術と環境の問題でも、例えば車が発明された時代に、あるいは日本が車社会になっていく過程で、世界的になった日本の車メーカーが「環境との共存」ということを果たしてあの当時考えていたでしょうか。僕は考えていなかったと思います。しかし今、これだけエコロジーが叫ばれている中で「環境と車」というものを考えない自動車業界というのは僕は考えられなくなってきていると思うんですね。
それと同じように、デジタル技術という素晴らしい技術を開発した企業並びにマーケットが著作権や文化を大切にしようという認識、そして、この技術によって、もし万が一にでも、文化が侵されるようなことがあってはいけない、という認識をやはり企業側が持つべきだと僕は思います。
そして初めて、文化が花開き、そしてデジタル技術という素晴らしい技術によって、作品がCultureが、世界中に広まっていく、こういう共存を私は心から願っております。
作曲家 船村 徹 . 作曲をはじめてずっと音楽漬けの人生を過ごしてきてしまったわけですけれども、やはり音楽というのは、涙や笑いや、いろいろ一緒になって人生を歌っていくわけです。中にはそんなことで、一つの作品が生涯の皆様の友になってしまうというようなこともあるような気がします。
そういう仕事をやってこられた今、音楽というのは空気みたいなもので、それが本当の「文化」ではないだろうかと私は思うのです。
文明の利器がいろいろ発達しまして、いろんな機械が出てまいります。しかし、機械文明優先で良いのでしょうか。昔、あのチャップリンが、機械文明に人間が振り回されてしまう、というようなことを映画でよくおっしゃっていましたが、そんなことも考えられる昨今であるような気がします。
何といっても、それこそ「Culture First~はじめに文化ありき~」です。「Culture First」「Culture First」と私は本当に何べんも何べんも自分に言い聞かせたり、世間にまた言って歩きたいと思っております。それこそ「Culture First」です。
そういうことで、「Culture First」で日本の社会をつくっていきたいと、本当に心から念じております。
和泉流狂言師 初世 野村 萬 . 私は古典芸能を生業にいたしておりますので、いささか古い例えを申し上げて恐縮でございますが、私ども実演家が、日々研鑽を積み重ねております無形の芸というものと、それを支えてくださる有形のものとが、お互いに約束事というものをしっかり守って切磋琢磨をしながら、何百年という伝承がなされてきたわけでございます。
おりから、私的録音録画補償金制度のあり方をめぐって、メーカーの方々と権利者との間で、色々とご議論が積み重ねられていると伺っておりますが、それもただいま申したように、約束事、公正なルールというものをお互いの信頼感の上に立って守っていくことが、なんとしても文化振興のための原点として大切ではなかろうかと、愚考いたします。脳という芸能を大成しました世阿弥という人が、600年前に「衆人愛敬」という言葉を残しております。芸能というものはすべからく、多くの人に愛されなければならないという意味でありますが、私どもの無形の芸を固定されたものによって流通をし、それをより多くの人々に豊かに広く享受していただく、これがすなわち世阿弥のいう「衆人愛敬」という言葉だろうと思っております。
我が国がこれから、文化大国というものを目指していく以上、この度の「Culture First」というご提案を本当に力強く、大事にしていかなければならないと思っております。よろしくお願いをいたします。
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