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愛知県名古屋市の新たな国際アニメ映画祭「ANIAFF(アニャフ)」の展望聞く

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愛知県名古屋市の新たな国際アニメ映画祭「ANIAFF(アニャフ)」の展望聞く

2025年11月06日
 新たな国際アニメーション映画祭「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」(略称:ANIAFF〈アニャフ〉)が、愛知県名古屋市で12月12日(金)から17日(水)まで開催される。ミッドランドスクエアシネマや109シネマズ名古屋などを会場とし、長編アニメーション映画の国際コンペティション部門を核にさまざまなプログラムが用意されている。アニメの本場である日本で始まる同映画祭は、今後世界でどのような位置づけになっていくのか。ジェネラル・プロデューサーを務める真木太郎氏、フェスティバル・ディレクターの井上伸一郎氏に開催の経緯や展望を聞いた――。
※この記事は日刊文化通信速報【映画版】2025年10月3日付で掲載したものです。


アートに前向き、新天地の名古屋で開催

 ANIAFFの成り立ちを語るうえで、まずは2023年に始まった新潟国際アニメーション映画祭の存在に触れないわけにはいかない。両氏とも新潟の立ち上げ時から尽力、第3回(2025年3月)開催までの発展に寄与した。井上氏は「当初はコンペも(作品募集を)苦労しながらでしたが、3回目ともなると認知が拡がり、作品もクオリティの高いものが集まるようになりました。上映後に、監督を観客が囲み、自然とQ&Aが起こるシチュエーションも映画祭ならではで良い光景でした」と振り返る。真木氏も「コンペの作品はまだあまり知られていない海外の作品が集まるわけで、通常はなかなか(動員の)ハードルが高いはずですが、3回目は地元の映画好きの方が多くいらっしゃって、ビックリするほど集客しました。やはり地元に浸透するには3年はかかるんだと思いましたね。コンペでは日本では絶対に作られないような珍しい作品が多数上映され、刺激や勇気をもらったクリエイターも多いんじゃないでしょうか」と開催を継続してきた成果を語る。実際、第3回には28か国から69作品もの長編アニメ映画の応募があり、コンペに選出された作品から配給会社が買い付け、日本公開が決まるケースも増えてきた。期間中の動員数(関連イベント含む)も年々増え、第3回は2万7千人を集めた(主催者発表)。

 一方、映画祭は民間による運営には限りがあり、継続するためには自治体や地元企業・団体による後押しが必要不可欠となる。真木氏は、より強力な支援を求めて新天地での開催の可能性を探り、このほど愛知県名古屋市での映画祭実現に結びつけた。「昨年12月に愛知県の大村(秀章)知事に初めてお会いしましたが、文化的な背景にも、アニメーションのことにも理解が深く、早い段階から意気投合しました」という。12月と言えば、翌年度(2025年度)の予算は固まりつつある時期。それでも県と市から助成を受けられ、2025年12月開催のスピード決定にいたったのは、愛知県や名古屋市のアートに対する前向きな姿勢があってこそだろう。現に愛知県では様々な文化的催しが行われている。「ジブリパークもオープンしましたし、世界コスプレサミットも開催しています。あいち国際女性映画祭はもう30年ほど続いており、今年は(3年に一度の)トリエンナーレ(国際芸術祭)も開催されます」(真木氏)。

 こういった地盤があるなかで、井上氏は土地柄もアニメーション映画祭にフィットすると見る。「地場産業が自動車や精密機械を扱うものが多く、基本的にクラフトマンシップの気質がある地域です。それこそ、江戸時代から職人が集まっていた場所ですから。一方、アニメーションも劇場公開や配信時は晴れの舞台となりますが、それまでの制作時は地道な作業が圧倒的に長く、アニメーターの方のクラフトマンシップに支えられており、そういう意味でも親和性は高いと思っています。芸術性、娯楽、そして職人気質。その三大要素の観点からも、この地域で開催する意義は大きいと思います」と話す。また、関東や関西の双方からアクセスが良く、中部国際空港セントレアを有する立地も、国際映画祭にとっては大きなプラスに働くことが予想される。


「ANIAFF」第1回開催へ(左が真木氏、右が井上氏).jpg
真木氏(左)と井上氏(右)


 プログラムは「国際コンペティション部門」に加え、新作や話題作を上映する「招待上映部門」、監督やスタジオなどにスポットを当てる「特集上映部門」、旬な切り口で紹介する「ニューウェーブ部門」、ゲストによる講演を行う「基調講演部門」、アニメーションを深掘りし検証する「セミナー/カンファレンスプログラム部門」などを行う予定だ。監督特集では最新作『果てしなきスカーレット』の公開が控える細田守監督が特集されることがすでに発表されている。

 そして、ANIAFFの大きな特徴の一つとなりそうなのが「ピッチマーケット」の開催だ。クリエイターやプロデューサー、プロダクションなどが温めている企画をピッチし、それをビジネス側として聞く人との出会いの場を創出する。「出資はもちろんですが、お金だけでなく、クリエイターが持っている企画に対して、プロダクションが『それウチで作ってみよう』とか、プロデューサーが『それ俺と一緒にやろうぜ』といった話につながればいいですよね。今回は第1回なのでそれほど大きなサイズではないですが、本格的なマーケットを目指してスタートさせます」(真木氏)という。東京国際映画祭の併設マーケット「TIFFCOM」でも企画マーケットが行われているが、アニメに特化したANIAFFで実施することで新たなマッチングが期待できそうだ。

 『鬼滅の刃』の世界的な大ヒットが象徴するように、日本のアニメにかつてないほど海外から熱いまなざし向けられるなかでスタートするANIAFFだが、そもそも映画祭は何をもって「成功」とするのだろうか。井上氏は「わかりやすいのは動員の増加です。そして様々な作品が上映され、作品が売れる(配給がつく)。人の交流が生まれ、新しい企画が生まれていく、というところではないでしょうか」と考えを述べる。新潟国際アニメーション映画祭では、新潟市にあり映画祭とも連携していた「開志専門職大学」のアニメ・マンガ学部のある学生が、片渕須直監督の映画祭中の講演に感銘を受け、片渕監督が役員を務めるスタジオ「コントレール」に就職が決定。同様に、岩井澤健治監督のトークを聞いた同学部の学生が、監督が代表を務める制作会社「ロックンロール・マウンテン」に所属することが決まったという。真木氏が「いい話でしょ」と笑顔を見せるように、映画祭成功の定義の一つは、毎年多くの人が集まり、そこから新しい何かが生まれていくことにあるようだ。


日本のアニメ、映画にどうフォーカスを当てるか

 では、ANIAFFが目指すのはどのような映画祭だろうか。動員数の増加や開催の継続はもちろんだが、真木氏は「これだけアニメを作ってきた国ですから、そこでやる意味を考えると、やはり日本のアニメ、映画にどうフォーカスを当てるかが一つの使命だと思う。日本のアニメの再評価につながる取り組みをどうすべきかは僕の中で課題ですね」と語る。それと同時に「コンペに作品を出す人に、『これは愛知に出そう、愛知に出すべきだ』と思ってもらえるような特徴を早く作りたいと思います。アヌシーで賞を獲りたいと思う人もいれば、『いや、自分は愛知で賞を狙いたい』と思う人もいる。そんなイメージを持ってもらえるようにしたいと思いますね」と理想像を掲げる。

 そのためには地元の盛り上がりも欠かすことはできない。井上氏は「“名古屋飛ばし”などと言われるそうですが、(観光客が)東京から京都や大阪に行ってしまう、名古屋にはなかなか止まらないといった話もあるそうです。映画祭単独でインバウンド増につながるかどうかはわかりませんが、映画祭を核として、周辺にもどんどんアニメイベントなどが広がっていき、その期間は地域が一体となってアニメで盛り上がる。そのような賑わいが生まれることで観光客も増えるでしょう。まずは1回やってみて、トライアンドエラーを繰り返し、周囲を巻き込みながら2年目、3年目とさらに盛り上げていきたいですね」と展望を語る。新潟市の場合は街がコンパクトなため、商店街と連携することで街と映画祭の一体感の創出は可能だった。その点、巨大都市の名古屋市は一筋縄ではいかない。自治体はもとより、いかに地元の多くの企業や団体からも賛同を得られるかがポイントになってくる。2回目以降を軌道に乗せるためにも、第1回をきっちりと成功させたい考えだ。

(取材 平池由典)

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