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ネットフリックス、rinna、ウィットスタジオがAIによる背景画生成技術開発

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ネットフリックス、rinna、ウィットスタジオがAIによる背景画生成技術開発

2023年03月02日
 ネットフリックスは、AIの開発・研究を行うrinna、アニメーション制作スタジオのウィットスタジオとともに、AIを活用した「アニメ背景画生成ツール」を開発。3社の共同プロジェクトとして、このツールを駆使したアニメーション作品「犬と少年」を制作し、1月31日にユーチューブで公開した。


『犬と少年』https://www.youtube.com/watch?v=J9DpusAZV_0


 「犬と少年」は本編約3分の短編作品。41カットで描かれており、その全ての背景に背景画生成技術が使用されている。AIを導入した実験的な作品ながら、富士山を望む四季折々の風景が美しく表現されており、手描きの温もりが感じられる点も特長だ。

 ネットフリックスは同日、プレス向け試写会を港区の本社で開催した。櫻井大樹プロデューサーは今回の新ツールを開発した意図について「世界における日本のアニメの市場は2兆円を超える。一方で、日本には原画を描くアニメーターが5千~6千人程度と言われている。1つの作品を作るために、上下はあるものの200人程度のアニメーターが関わる。需要は大きいのに、圧倒的に人が足りておらず、スケジュールが圧迫されている状況が慢性化している。こういうツールを開発することで、そういった状況をサポートできたらと思った」と語った。


「犬と少年」制作、左から櫻井、牧原、田中の各氏.jpg
左から櫻井、牧原、田中の各氏


 説明によると、「犬と少年」は櫻井氏がプロデューサーを務め、監督・絵コンテ・原画・美術監督を牧原亮太郎氏(『ハル-HAL-』監督)、撮影監督をプロダクション・アイジーの田中宏侍氏(『攻殻機動隊S.A.C.』撮影監督)が担当。ネットフリックスが2021年にオフィス内に開設したアニメ制作パートナーの支援拠点「Netflixアニメ・クリエイターズ・ベース」が主体となり、AIに学習させるための画像素材をウィットスタジオやプロダクション・アイジーの過去作品(ネットフリックスオリジナル作品)から供給、それをrinnnaのAIに学習させ、背景画の制作に活用した。


画一化されたワークフローから、作り方選べる体制に

 牧原監督によると、背景画生成にあたり、まずはアニメーターが描いたレイアウトに沿うようなプロンプト(命令文)を入力し、AIに自動生成させる。出力された絵をもとに、プロンプトを変更しながら理想的な絵が生成されるのを目指す。利用する絵が決まると、あとは足りない部分をアニメーターが加筆して完成させるというのが大まかな流れだ。AIにも得手不得手があるため、カットによって画像生成の貢献度は異なる。ほとんど使えない場合もあれば、7~8割使える完成度の高い絵が出てくるケースもあるという。牧原監督は「例えば同じ富士山でも、綺麗な雪の富士山の絵はたくさん出てくるが、夏の、空気が霞んでいるような富士山が欲しい、といった場合には途端に(AIが)困る。その時は手で描こうとなる」と課題を指摘する。とはいえ、完成度の低い背景画でも、色見本として活用できる場合があり、アニメーターが作業する上で参考になる。これらの結果、AIのサポートを受けた場合は、従来に比べ作業時間を半分以下に減らせる可能性があるという。

 時短により生まれるメリットとして、牧原監督は「いつも、作画監督や背景美術の人たちに十分に時間をあげられないのが不満だった。本当はもっといい仕事ができるのに、雑用みたいなことに彼らの時間を割いてしまっているので、その状況を変えたいと思っていた。彼らをサポートする上でAIはすごく有用だと思う」と話す。櫻井プロデューサーも、「クリエイターの仕事はクリエイティブで楽しいと思われるかもしれないが、雑用と単純作業が9割。その単純作業をツールにやってもらいたい」と同調する。AIを活用することで空いた時間を、クリエイターが創造力を発揮する時間に充てたい考えだ。

 さらに、アニメーション業界で画一化されているワークフローの発展に繋げられる可能性も秘める。撮影監督の田中氏は「アニメーション業界は完全分業制。従来はそれが効率的だったからここまで来ているが、近年は作品が多く、各セクションで無理が来ている。手数を増やすことで何とかしている」とし、その結果「撮影監督も美術監督も複数作品を掛け持ちしており、注力したい作品があってもそれができない」と課題を挙げる。ただ、すでに確立しているワークフローだからこそ、作り方を変えづらいという実態が横たわっている。ただでさえ多忙なアニメーション制作と並行して、作業工程の改革まで進めるのは制作会社にとってあまりに負担が大きい。今回のプロジェクトは、ネットフリックスがその問題に率先して取り組む姿勢を示したものだ。櫻井プロデューサーは「こういう作り方ができるのではないかと実行して見せていく。作り方を選べるようになると、表現したいものにクリエイターたちがより肉薄していけるのではないか。今は、ツールや環境の制約から、こういう作品にせざるを得ないということが多発しているが、そんな不自由な状況が自由になってくれたらいいなと思う」と今回のプロジェクトに懸けた思いを語った。実用化まではまだ時間がかかると見られるが、将来はクリエイターを支えるツールとして活躍することが期待される。

 なお、制作した短編アニメーションの「犬と少年」は、AIロボットの犬と主人公の少年の絆を描く、まさに今回のプロジェクトを体現した作品であり、切なくも温かい感動のストーリーだ。1月31日夕方の公開から1日足らずで1万回以上再生され、コメント欄やSNSでは国内外から続々と絶賛の声が挙がっている。


取材・文 平池由典

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