『君の名は。』エグゼクティブ・プロデューサー 東宝・古澤佳寛氏“新海監督のベストアルバムを”
2016年12月21日
長期的に一緒に――新海誠監督の前作『言の葉の庭』(東宝映像事業部配給)は13年5月公開でした。それから3年で新作『君の名は。』を公開したわけですが、前作が終わってからすぐに今作に取り掛かったのですか。古澤 『言の葉の庭』を配給させてもらう際、「長期的に一緒にやらせてください」という意向もお伝えしていて、ひと通り公開が終わったあとの打ち上げでは、コミックス・ウェーブ・フィルムの川口典孝社長に「次は全部任せる」とおっしゃって頂けたので、そこから次の企画を考えましょうと。それがキックオフでした。
――『君の名は。』の企画は、新海監督の案ですよね。
古澤 そうです。2014年7月くらいに監督から「こういうことをやりたい」と企画書を頂きました。僕らも監督に手掛けてもらいたい原作や案を手元にいくつか用意していたのですが、監督の方で明確にアイデアをお持ちでしたので。
――その企画書は、どんなものでしたか。古澤 すでに、実際に公開した『君の名は。』に含まれている要素の大部分は入っている状態でした。例えば、男女が入れ替わることや、組み紐、主人公とヒロインが都会と田舎に住んでいること。その時点で、これだけの完成度を持ったストーリーだったので、僕らは単純に「あ、面白い」と思いました。
――では、基本的にはこの企画で行こうと。古澤 そうですね、そこに対して、僕らがお手伝いできることを言っていこうという。
――クレジット表記では、古澤さんがエグゼクティブ・プロデューサー、川村元気さん(映画企画部 映画企画室長)が企画・プロデュースと棲み分けられていますが、お二人はどのように動いていったのですか。古澤 『言の葉』が終わったタイミングで、川村に入ってもらいました。『言の葉』は映像事業部の配給で23館での公開でしたが、新海監督の次作は東宝本線で配給する規模でやりたいと思っていたので、東宝の売れっ子プロデューサーである川村に入ってもらうことが、作品にとって良いだろうと思いました。あと、彼は14年前に新海監督の『ほしのこえ』を観て、川口社長のところに会いに行っているんです。もともと新海監督とご一緒したいという考えを持っていたので、監督から企画書が出された時点では、すでに一緒にいましたね。脚本の打ち合わせは、僕も立ち会っていましたが、核になるクリエイティブなやりとりは、監督と川村で行われることが多かったです。川村はクリエイターに近いプロデューサーなので、他の人にはできないような感覚の指摘もできるんです。僕はコミックス・ウェーブ・フィルムの川口社長と向き合い、製作費の交渉や、製作委員会の組成、音楽的な条件交渉など、ビジネス面を担当しました。うまく業務は棲み分けられていて、お互いの領域を踏まないんですよ。
新海監督のベストアルバム――「核になるやりとり」というのは何でしょう。『君の名は。』は、新海監督の魅力的な要素の全部盛りのような印象を受けました。古澤 こちらから監督に要望したことは、「新海監督のベストアルバムを作ってほしい」ということでした。背景美術の美しさ、音楽が生かされる点、映像的編集の素晴らしさ、切ないラブストーリーなど、監督の強みを色々盛り込みましょうと。
――今回はこれまでより、メジャー作品的な雰囲気を感じましたが、東宝サイドとして何か話をしたことはありますか。古澤 僕らが何かを足すことはしませんが、ストーリーのクライマックスを重ねていきましょうと、川村から提案したことはあります。あと、もともとあった設定を削ったりはしました。例えば、(ヒロインの)三葉に彼氏がいるという設定を、あまり意味がないという判断で削りました。瀧と三角関係になってしまい、恋がこんがらがった感じになってしまうので。
そのへんをそぎ落としながら、時間のズレとともに、隕石が落ちるという、観る人の予想を上回る物語の作り方をすごく話し合いました。新海さんは映画を1本作ると、お客さんとたくさん触れ合うので、その中でお客さんの言葉を聞き、彼らがどう感じたのかをインプットされるのです。そこで得た反省点や課題を次の作品に生かす監督なので、『言の葉』公開時には相当(お客さんの感想を)取り入れています。また、『言の葉』の小説をそのあと書かれて、キャラクターの心情などをもう少し深掘りし、どう物語を構成していくかを、メソッドも含めて、相当努力して勉強されていました。『君の名は。』はそのあとの作品なので。
続きは、文化通信ジャーナル2016年12月に掲載。