会場は大入り
話題はそのほかの俳優にも及び、サービス精神旺盛だったロビンと対照的な存在としてブラッド・ピットの名も。「『セブン・イヤーズ・イン・チベット』の頃の彼はまだ素人の域を出ていなくて、マスコミにどう対処していいかわからず、いつも監督や共演者と一緒にいるシャイな青年だった。インタビューの途中、発言がまとまらなくなって私に助けを求めてきたこともあり、今でも『あの時はありがとう』と言われる(笑)。でも、アンジー(アンジェリーナ・ジョリー)と付き合ってから変わったね。今では自信満々で堂々としている。人間が変わった(笑)」とブラピの意外な側面も明かした。
初吹替は広島弁!?
戸田氏が字幕翻訳を手掛けるようになったのは40歳を超えてから。記者会見で初英会話に挑戦してから、さらに長い年月を要している。「本格的な字幕翻訳デビューは、フランシス・F・コッポラ監督の『地獄の黙示録』。監督のサンフランシスコの家に行ったり、フィリピンのロケに同行していたので、監督が『彼女は作品のことをよく知っているから』と後押ししてくれた。おかげで(字幕翻訳家として)ブレイクした」という。
日本では1980年に公開された『地獄の黙示録』。30年以上前の作品だが、戸田氏の思い入れは格別で「あの頃からCGを使った映画が出始めたけど、『地獄の黙示録』はすべて実写。今では許されないけど、ジャングルにガソリンをかけて火をつけていた。今はCGで簡単に再現されてしまうけど、あの映画は人間の手で作った最後のスペクタクル。観て損はない」と熱弁。ただ「最後は理解にしにくい場面があるので、特別完全版の方を観てね。完全版の方がテーマがはっきりしていて面白いから」と付け加えた。
さらに戸田氏は、日本で字幕が普及した経緯も説明した。故・淀川長治氏から聞いた話だとことわった上で、「昭和初期、トーキー映画になってから字幕が必要になった。(英語がわからない)日本でどういう風に出すか?となった時、ハリウッドの人たちは『俺たちに任せとけ』と、はじめに吹替版を作った。彼らは、カリフォルニアの日系人を起用してアテレコしたんだけど、当時そこに住んでいた人の多くは広島から移住した人たち。だから、吹替版が広島弁! ハリウッドの人たちはそれがわからないから、日本に『どうだ!』と送ってきて、試写をしたら、ラブシーンが広島弁だった(笑)。これは使えない、ということでハリウッドの人も困ってしまって、それなら字幕にしようということになり、ゲイリー・クーパー出演の『モロッコ』の頃から字幕を付けるようになった。日本人は識字率も高いし、漢字はひと目見ただけで意味がわかる。日本語は、非常に字幕向きの言語だったの。日本人は、俳優の声を聴きたいというこだわりもある。だから、世界でも珍しい、字幕文化が定着した」と知られざるユニークなエピソードを語った。
しかし、戸田氏はそんな日本でも字幕が廃れる危機感を持っていると明かす。「アテレコが進化して、大作はみんな吹替えになってきている。吹替えは字幕に比べて費用がかかるから、(予算の少ない)単館系の作品は今後も字幕が使われると思うけど、大作は吹替えが中心になっていく。今の子は本を読まないから、字が読めない。字幕で漢字を使っても、『こんな難しい漢字は使わないで平仮名にしてほしい』と映画会社の人に指摘されてしまう」と字幕翻訳業が置かれている現状を嘆いた。
英会話は基礎が大切
ちなみに、字幕翻訳作業のスケジュールについて、戸田氏は「1本の映画につき、早くて1週間で仕上げてと言われる。何度も映像を観なおしている余裕なんてない。わからない(訳しにくい)部分は後に回して、先にどんどん進めていく。わからない部分は、その場面に適した言葉が降りてくるまで待つ」という。作品に感情移入することはあるのか?という問いには「もちろん。出演者は、その役に成りきればいいけれど、翻訳家はそれぞれのキャラクターに成りきって、どういう表情・感情でしゃべっているかを意識して作業している。『E.T.』なんて、最後の場面で泣いてしまった」と語った。
最後に、英会話が上達するコツについて、戸田氏は「会話は練習するほかない。本を読むだけで身につくわけがない。そのためには基礎が大事。サッカーでもテニスでも基礎をすっ飛ばして上達する人なんていないでしょ。まずは単語を覚えて、簡単な文法も知っておく。書くことも大切。土台がしっかりしていれば応用もきく」とアドバイスした。
なお、東京バイリンガルサービスは11月4日にサービスを開始する。「K‐method」と題された菊地氏開発の新しい学習法を用い、受講者の英会話上達をサポートする。戸田氏もチーフアドバイザーとして名を連ねている。菊地氏は「洋画のメジャー会社との会話は、ビジネス、お金、交渉。相手を納得させるだけでなく、アクセプト(受け入れ)させることが重要」とし、ハリウッドで学んだビジネス英語を授業に取り入れると説明した。 了
(前のページに戻る)
取材・文/構成 平池由典