『女体銃 ガン・ウーマン』主演の亜紗美 “名刺代わりの代表作”
2014年07月14日
時間があればマユミのことを考えていた――アメリカで撮影されたとのことですが、いつ頃ですか。亜紗美 去年のちょうど今頃(6月~7月)でした。トータルで3週間。最初の1週間はフィッティング作業や、アクションの手合せでした。日本から行った役者は成田浬さんと鎌田規昭さんと私だけで、あとは全員向こうに住んでいる俳優・スタッフなので、フィッティング作業は重要でした。そして残りの2週間で撮影しました。
――タイトでしたか。亜紗美 けっこうタイトでしたね。日本とは違って、向こうは役者やスタッフを何時までしか働かせられないと決まっていて、日本みたいに27時とか28時まで撮影することは向こうでは考えられないので、なおさらタイトでした。1~2時間押してしまうけどどうしても撮らなきゃいけないという時は、光武さんが全員を集めて「明日は早く終わらせるから、今日は2時間だけ撮らせてくれ」というミーティングをことあるごとにやるんです。それが印象的でした。撮影に入って、半ば合宿のような形で撮影していると、みんな仲良くなるので、私は四六時中一緒にいたいんですよ。スタッフさんは「早く寝たい」と思っているでしょうけど(笑)。『女体銃』もみんな仲が良かったので、少しでも長く現場で一緒にいたいという気持ちがあったのですが、「じゃあ今日は18時で終わり!」となるとみんなさっさと帰っちゃうので「けっこうドライなのね」となっちゃって(笑)。全然違いましたね。
――役作りはされたのですか。亜紗美 何年も役者をやらせてもらっていますが、役作りをしたことがないんです。役者さんには、ずっとその役のことを考えて、自分にその役を入れてから現場に入る人もいれば、現場でスイッチのオンとオフができる役者さんと、大きく分けて2通りあると思いますが、自分は後者だと思います。ただ『女体銃』に関しては、時間があれば(主人公の)マユミのことばかり考えていましたね。普通の家庭に生まれたのに、悪い男と付き合ううちにどんどん墜ちていって、最終的に拉致されて、全然知らない国に連れていかれて、汚い狭いところに押し込まれて…。その時にマユミは何を考えていたのだろうかとかは考えましたね。
――アクション映画に出演されることが多いですが、日頃から体を鍛えているのですか。亜紗美 あ、基本的に疲れることが嫌いなのでやっていません(笑)。血のにじむトレーニングをやっているとか、毎日10km走っているとか、それはないです。ただ、定期的に仲の良い先輩や師匠の練習に顔を出したりはしています。
――例えば劇中でスキンヘッドの大男と対峙するシーンは迫力がありましたが、特に撮影前からトレーニングをしていたわけではないのですね。亜紗美 あれは、(大男役の)デレクが元プロレスラーで、身体能力が優れているということもあります。それに相性も良かったと思います。私は英語がわからないし、デレクも日本語がわからないですが、あうんの呼吸でこなすことができました。ケガもなかったですし。
――アクション監督の田渕景也さんの指導はいかがでしたか。亜紗美 物凄く熱い人です。田渕さんはアクションシーンじゃないところでも現場にいてくださって、陽気で下ネタも言うし、くだらないオヤジギャグも言うし、マジックを披露したり楽しい人です。でもアクションになると、今まで現場でサンオイル塗って外で日焼けしてた人とは思えないぐらい豹変して格好よくなる。武士に似た男気のある、一本筋の通った人です。それを裏付ける出来事があって、小難しい、細かい、覚えられない手が多いアクションシーンで私がパニックになっちゃったんです。その時、田渕さんが誰よりも早く私の異変に気づいて、2階のブースから「お前の映画だろ!しっかりしろ!」とゲキを入れてくれて、それで私のスイッチがパッと入ってやり切れました。『女体銃』は田渕さんでなければ、成立しなかったと思います。
――アクションシーンで苦労したところはありますか。亜紗美 「謎の男」とトレーニングするシーンで、その謎の男を演じたあがたさんがものすごく汗かくんです。アガタさんが汗ダラダラになっている上半身裸のシーンは本当の汗です。私もすごく汗をかくのですが、アガタさんは尋常じゃない。手首にひっかけて引き寄せるとか、ちょっと小難しい手の時に滑っちゃって、全然引っかからないのです。汗が目に入るし、「痛いよ!」となって(笑)伝わりにくいけど、これは声を大にして言いたいです(笑)。あとは、クライマックスに全裸で血まみれでアクションをするのが養生した部屋だったのですが、養生と血のりの相性の悪さはひどいです(笑)。血のりが渇くとペタペタして、踏み込んだ足が床にくっついちゃう。なので、本番前には必ず水スプレーで体を濡らしてから撮影したのですが、今度は滑って滑ってしょうがなくて。
――よくケガしなかったですね。亜紗美 奇跡的ですよね(笑)。あと大変だったのが、ピンヒールを履いた女性とのアクション。お腹を蹴り合う場面で、敵を演じたマリアンヌは「これ大丈夫? 避けた方がいい?」と私を気遣ってくれたのですが、光武さんと田渕さんが「当ててくれ」って(笑)。結局、ちょうどヒールがへそのところにグッサリ刺さったて「うお!」となって。あの痛がっている様子は芝居じゃなくてリアルな苦しみなのでお見逃しなく。
ついに名刺代わりの代表作ができた――台詞がほぼない役というのはいかがでしたか。亜紗美 英語がしゃべれないということもありますが、先ほども申し上げた通り、「誰も見たことのない亜紗美」を目指すコンセプトが大前提でした。これまでのようにまくしたてたり、さげすんでみたり、そういうキャラが多かった中で、今回は一言もあえてしゃべらせない、最後の最後の一言が生きるような設定でした。あと、実は台詞をしゃべらない方が得意ということもあります(笑)。過去に一度だけ、口が聞けない役をやったことがあるのです。Vシネマの『江戸女刑罰史 緊縛妖艶遊女』で口のきけないよだかの役を演じて、その時に、しゃべれないと役に入り込まれる、役に侵略されるという経験がありました。そのキャラクターに支配されるというか、その時は亜紗美じゃなく、その人になったという経験があって、今回もしゃべれないことが良い方に作用したんじゃないかなと思います。
――光武さんの演出で印象に残っているものはありますか。亜紗美 銃の扱いですね。キャラクターに関する演出は、もう前から光武さんと話し込んでいたので現場に入ってからはそれほど無かったのです。そういう意味では、実銃を使った演技が最も印象的です。光武さんはコアなガンマニアなので、扱いに関して熱く指導してもらいました。「プロはこうやって持つ」とか、素人から離れたところの演出は本当に勉強になりました。アクション練習やフィッティングが終わって、その足で光武さんの自宅にお邪魔して、実銃を目の前に置かれて、「じゃあ分解の練習をします」と(笑)。実銃は固いので、分解する時に片手でスライドを固定するのは女性の握力では大変で…。飛行機の中でも右手だけずっとハンドグリップ持っていました。おかげで今、私の右手の握力は52~53もあるんです。光武さんのせいで、エアガンのショップに行くと、まるでトランペットを欲しい少年のようにずっと見ています(笑)。
――最後に、完成した作品をご覧になっていかがでしたか。亜紗美 はじめに光武さんに「私の代表作を作ってください」と話をしてからもう4年近く過ぎて、ついに名刺代わりの代表作ができました。共犯者の光武さんやチームの全員とハグしまくりたいですね。その気持ちが常にあります。全員にキスしたいです(笑)。 了
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取材・文/構成: 平池 由典