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東京テアトル(株)、太田和宏社長に聞く!

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東京テアトル(株)、太田和宏社長に聞く!

2013年08月20日

膨張ではなく、安定的にゆっくりと育てていきたい


 ―以前に比べると、他のミニシアターも新しい才能を一緒になって育てていくことが出来なくなってしまいました。

太田 テアトル新宿は今でも「才能の発掘」というコンセプトを持っています。会社の経営状況により、暫し製作委員会への参画は見送っていましたが、そういう意味での参画を復活させようかな、とも思います。


 ―新しい才能をピックアップする「新しいシステム」のようなものが構築できるといいと思うのですが。

太田 しっかりとしたシステムが出来ると良いですよね。弊社の方では公開する場はちゃんと確保しようとは思っています。作家とお客さんをつなぐ場所を。問題はその先。市場に受け容れられる才能があるクリエイターが、ある程度継続して製作し、興行出来るようなシステムがあれば、我々の存在も輝いてくる(笑)。まあ、それを考えるのが私たちの仕事なんですが。


 ―7月に宣伝部を新たに設立されましたが、元ユナイテッド・シネマ(UC)の田部井(悟)さんが入社されましたね。

太田さん.JPG太田  ずいぶん前に買付や製作から撤退し、宣伝部も解消して配給受託だけで、その都度宣伝会社を使いながらやっていくという形にスリム化したのですけど、結局そういう状態だと、配給をやっている意味が見えなくなってしまいました。昨年から赤須(恵祐)が映像事業部映画営業部長になって宣伝部を作り、いわゆる正常な配給事業の構造にしたいと言い出したのですが、それならば出資が必要になるだろうと。では、どんな企画に参画するのか。どんな顧客層にアプローチするのか。以前の反省を踏まえてそういうことも含めてトータルで配給事業にもう一度きちんと取り組もうと考えています。


 ―より配給事業も強化していくということですか。

太田 膨張ではなく、安定的にゆっくりと育てていきたいと思っています。基本的には邦画が中心です。洋画は買付ませんが、番組編成担当が海外マーケットに行くことはあると思います。その中でチャンスがあれば手掛けていきまたい。洋画は確かに手間がかからないのはいいんですけど、今は厳しい。ただ、洋画にはまた「振り戻し」がきて、いい作品が出てくると思います。結局映画を年間に観る回数はほとんど一緒。邦画、洋画どちらかに行くかというだけで、話題になった方に行っているのがほとんどだと思います。だからずっと映画人口は変わらないのではないでしょうか。


 ―今後も映画産業の規模は変わらないとお考えですか。

太田 10年、20年先はわからないですけど、映画館で映画を観る人たちは変わらないと思います。でも、どちらかというと映画興行界は安定していると思っています。むしろ、映画館で映画を観るんじゃなくて、映像コンテンツをどこで観るかでもの凄く変わってきていると思います。DVDを借りて観ることは減ってきているし、買って観る時代じゃなくなってきています。映画館に行くという行為は、例えば、外にお酒を飲みに行く行為と一緒なのかもしれませんね。


 ―ODS(非映画コンテンツ)の扱いに対してはどう考えていますか。

太田 関わっていくべきだと思うのですけど、これもコンサートとか、スポーツ中継ではなくて、自分たちなりのODSを開発できないといけません。これからは企画に携われるレベルに行かないとダメ。今までは作って持って来て競合して良ければかけていましたが、もうそういう時代ではもうありません。 


「無自覚欲求の具現化」できる会社に

 ―飲食事業のような考えを映画事業にも導入していくと。

太田 日本の食文化は世界一で、これだけ何でも食べられるうえに不味いものは今ありません。食についてはいつも満たされている状態。そうすると今度は逆に自分が何を今食べたいのか実はよくわかっていない。とりあえずお腹が減っているんだけど、お昼を食べに行く時に今日どうしようかと考える人は多いんじゃないでしょうか。実は食に限らず、モノに関しては現代では満たされている。
 情報も洪水のように浴びせられる。つまり自分の欲しいものが実はよく分からない。そういう中で映画を企画しようとして、原作は何万部売れているとか、キャスティングのファンがどれだけいるとか、過去の類似作品でどれくらい来た、といったようなデータから入っていくと無難なものやどこかにあるようなものしか出来なくなる。結構そういうケースは多いんじゃないでしょうか。
 如何に人々が自覚していない欲求を探し出すか。これを僕は「無自覚欲求の具現化」とよく言うんです。自覚していない欲求を見つけるのが企画だと思いますし、そういうところが提案出来る会社にならないといけません。


 ―その「無自覚欲求の具現化」をしていくのは難しそうですね。

太田 これは観察することだと思うんです。人間は必ず振り幅があるので、邦画で癒しばかりを見せられると、次は洋画の激しいのが観たい。そういうのをいろんな社会を観察し、今の社会がどうなっているのかということを見ていくことかと思います。優秀な映画のプロデューサーは映画を知っているのではなく、社会を知っていると思います。今まで話した中で、そういうことをぽっと言う方は優秀なプロデューサーが多かったですね。


 ―そういう方たちは公開時期から逆算して企画を考えているということですか。

太田 そういう「感覚」をお持ちなんですよ。実は映画のマーケティングは数値化ができるようなものではないと思います。飲食は徐々に嗜好が変わるので、いきなり奇をてらったものを出しても駄目ですが、映画のそれは数値化すると駄目だと思います。まず、我々はお客さんを知ることと、自分たちらしさを失わずにすることが大事なのです。


 ―VOD事業については。

太田 難しいですよね。大きなマーケットになってもいいと思います。ただ、当社が単独で取り組むことはありません。


 ―他社との提携は他に具体的に進められているのですか。

太田 当社くらいの規模の会社は「アライアンス」で成長していくのが基本。限定して考えるよりいろんな側面で考えて行こうと思います。例えば興行なども今は東阪でやっていますが、地方でインディ系と何か出来ないかなんてこともあるかもしれない。いろいろチャンスを探していくということです。

東京テアトル役員陣.jpg

 ―今後より多くの人と会っていくことも社長業の一つですが、最後に、現在の社内の状況はどのように分析されていますか。

太田 今はまだ無我夢中ですが。ただ、数年リストラを続けてくると、若い社員が失敗を恐れるようになってしまい、会社全体がそうなってしまう。失敗を恐れて何も出来なくなってしまう風土が、どこか会社にはあるので、出来る失敗はこれからどんどんしてもらいたい。失敗を奨励するようなマネージメントをしたいです。リスクには負えるリスクと負えないリスクがありますが、負わないことによるリスクの方が怖い。失敗するといけないからリスク取るのをやめようと。そうではなくて、しっかり判断をして負えるリスクを負っていくようにしたいと思います。(了)






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