テアトルらしさを追求することが大切!
今後は『攻めの経営』に舵を切っていく
東京テアトルは6月27日、第97回定時株主総会及び取締役会を開催し、新役員陣を正式決定した。代表取締役社長には、映像事業本部長を務めた経歴を持つ太田和宏氏が就任。
同社グループは、平成26年度を最終年度とする中期経営計画『To The Next 2014』に基づき、銀座テアトルビルの売却による資金を活用し、①本業であるオペレーション事業の再構築、②財務体質の強化、③将来に向けた事業の選択と集中に取り組んでいる。
49歳という若さで社長に抜擢された太田社長は、「今後は基幹三事業の育成を中心とする『攻めの経営』に舵を切っていく」としており、その手腕が期待されている。今後の映像事業の展開を中心に話を聞いた―。
(インタビュー/文・構成:和田隆)
―「To The Next 2014」について。本業であるオペレーション事業の再構築とは。
太田 本業である映像事業と飲食事業をもう一度成長軌道に乗せる、ということです。飲食事業は、札幌で展開している「串鳥」が札幌に留まらず北海道でのシェアを順調に拡大しています。この業態に加えてあと2業態程度柱を持っておきたいと思っています。
まず一つは都内で展開しているダイニングバー業態。昨年にオープンした「TOKYO マルマーレ」が好調ですのでこの店舗展開を進めたいなと。既存の業態含めて2つ目の柱に育てていきます。
もう一つが、本年5月に閉館しましたホテル西洋銀座のレシピを引き継いだ「中食事業」です。大丸東京店にあるのですが、これが結構収益がよく安定しております。ホテル西洋銀座が閉館することがディスクローズされた後に、お客様からあの味を残して欲しいという声をかなり頂戴したので、そのレシピを使ったお惣菜とスイーツをデパ地下で展開していこうと思っています。6月には新たに日本橋三越にオープンしまして、この店舗を今後他にも展開していきます。
不動産事業は、不動産中古マンションの販売を主に手掛けているのですが、リフォームの需要が非常に高いので、「サービス業」としてのリフォームを強化していこうと。他の不動産屋さんと違って弊社は映画館という「媒体」を持っていますから、リフォーム事業を映画館で告知するなどしてお客さん作りをしていくことは考えています。
―時代、お客さんのニーズに合わせていくと。
太田 確かに時代のニーズを探ることは重要ですが、自分たちらしさをずっと追求することを大切にしていきたいと思います。映画でも飲食でもリフォームでも、「差別化」を探求するのではなく、新しい顧客を開拓するでもなく、自分たちのお客様との関係性を大事にした営業活動を続けていくべきと考えています。この「基本」を徹底することは実は一番難しい。人間はどうしても「流行り」というものに目が移るし、情報に左右されますからね。「頑な」ではないが「ブレの無いスタンス」でいたいと思います。
―財務体質の強化についてですが、銀座テアトルビルを売却した効果は。
太田 当社は140億円の有利子負債があり、収益規模から考えれば借入金依存度が極めて高い構造にありました。この有利子負債と銀座テアトルビルの簿価が同等で、銀座テアトルビルが生み出す年間のキャッシュフローが資産価値に比較して著しく低い。創業の地ではありましたが、断腸の思いで売却を決断しました。この売却により、有利子負債を一層し、20億円程度の事業投資が可能になりました。安定収益源としての賃貸ビルなども取得しようと思っていますので借り入れ自体は20億円~30億円くらいは残る感じにはなるでしょう。
―経営企画室にいる頃からずっと戦略などを練られてきたと思います。ようやくここまで会社の状態を改善できたという印象ですか。
太田 弊社創業期は、小林一三さんの片腕だった吉岡重三郎という創業者が、映画館を破竹の勢いで出していったという過去があり、その創業十何年間というのが凄く会社が伸びていった時期でした。次の時期が、映画が斜陽産業になり、他のサービス業でやっていこうとしました。ボーリング場経営に乗り出して儲かったのですが一気に下火になり、続いてキャバレー経営などでサービス業を拡大していきました。
それらが厳しくなっていったので、セゾングループの資本を入れ、共に発展しようとした時期があったのですが、そのセゾングループも解体してしまった。創業期、多角的展開期、セゾングループ資本提携期を超えて現在に来ている。過去の積み残した負の遺産をここ数年で処理してきました。その過程は大変苛烈なものでしたが、ようやくきれいにできて、残っている事業を育てられるような段階に来たのではないかと思っています。映画とそれに続くサービス業で、テアトルという会社を安定してこれから育てていきます。
合言葉は「作品の連続性、企画の連続性」
―将来に向けた事業の選択と集中について。ホテル飲食関連事業では、新たにホテルを展開する計画はありますか。
太田 ホテルはやらないですね。今ある事業を伸ばすことが優先です。
―映像関連事業の方ですが、興行のデジタル化はほぼ完了しました。新規出店に関しての具体的な計画はありますか。
太田 名古屋への出店計画が白紙になりましたので、今は具体的な案件はないです。その前に取り組まなければならない問題は、デジタル化の潮流によって、「映画館は、映画を上映する場所から、あらゆる映像コンテンツを楽しめる場所」という概念に変わったと思うんです。それによって上映本数がまた増えた。その分、一本当たりの成績が益々短命化している。インディペンデント系はそれが負の方向に働いてきています。それによって現在の弊社劇場の番組編成も、3スクリーンで一日に6本や9本上映したりしています。このやり方が悪いとは言いませんが、インディペンデント系劇場は「何を一番観てもらいたいのか」ということがヘビーユーザーに伝わらないといけない。イベントや企画上映にしてもポリシーを感じさせるものでなければいけない。潮流に翻弄されてしまっている感が否めません。
弊社の劇場に来ている主なお客さんは、テアトルのラインナップに信頼があって来てくれていますから、期待に背いてはいけない(笑)。ですから、社内の合言葉は「作品の連続性、企画の連続性」で、とにかく作家に拘り、作品に拘ることだと言い続けています。
飲食事業や不動産のリフォーム販売を見て凄く勉強になったのは、自分たちが何を売りたいのか、それを共有できているかどうかなんです。飲食で美味しいものを提供したいのか、売り上げをあげたいのかでは全然違います。リフォームも利益を取ろうと思って仕事を受けるのと、お客さんにとっていい住まいを提供しようというのとでは絶対違います。
映画も自分たちがこれを観て欲しい、観せたいということにこだわっていけば、数字は後から必ず付いてきます。ただ興行成績だけを追いかける姿勢でいると、サイクルの早いニーズの変化に翻弄されてしまう。混沌とした現代だからこそ、それが大事なのではないでしょうか。(
つづく)
略歴
太田 和宏(おおた・かずひろ)
昭和39年5月2日生まれ、49歳。明治大学政治経済学部卒。平成元年4月入社、16年6月営業企画部長兼広報室長、18年6月取締役営業企画部長兼広報室長就任、19年3月取締役映像事業本部長就任、20年6月取締役執行役員映像事業本部長就任、22年6月取締役執行役員経営企画室担当就任、23年5月取締役専務執行役員営業本部長就任、24年6月取締役専務執行役員事業企画室長兼飲食事業部長兼不動産販売事業部長就任。