インタビュー:ティ・ジョイ 紀伊宗之氏/モンブラン・ピクチャーズ 平田武志氏
2012年09月25日
新たな映画ビジネスモデルに挑戦!
モーション・キャプチャーで面白い映像を
――『放課後ミッドナイターズ』が生まれた経緯を教えてください。
平田氏(写真右/左が紀伊氏) 僕も監督の竹清も、福岡にある映像制作会社「空気」に元々勤めていまして、そこでCMやテレビ番組のオープニング映像の制作などを受託していたのですが、みんな映像作家なので、オリジナルの映像もやりたいという気持ちがありました。そこで、社内で予算をつけて、人体模型を主人公にしたモーション・キャプチャーCGアニメの7分間のパイロット版を作ったのが企画のスタートです。それが約6年ほど前ですね。
(その後分社化し、今年4月に竹清監督を中心にモンブラン・ピクチャーズを立ち上げ)
――このキャラクターはどのようにして考え出されたのですか。
平田 これは竹清の話ですが、「モーション・キャプチャーで何か面白いことはできないか」と考えていたところ、動かないはずの人体模型がすごく滑らかにリアルな動きをすれば面白いのではないかと思ったのです。あと、実はコストの面もあります。例えば普通の人間のキャラクターなら髪の毛も洋服もCGで動かす必要がありますが、人体模型には髪の毛も洋服もありません。なので、それほどコストをかけずにできるのではないかと考え、トライしました。7分間の映像ですが企画から約1年半で完成しましたね。
――はじめからコメディ作品だったのですか。
平田 そうです。これも竹清の話ですが、モーション・キャプチャーはゲームやハリウッド映画にもよく使われていますが、演者さんがかっちりした芝居をすると、普通のCGアニメの動きとさほど変わらないんです。むしろ、人間の動きはオフショットの時の方が生々しいということに気づき、それなら、肩の力が抜けたコメディ作品をモーション・キャプチャーでやると成立するんじゃないか?と。
紀伊 実写でやったらいいんじゃないの?というモーション・キャプチャーの作品もいっぱいありますよね。それじゃ面白くないし、気持ちが悪いと思う人もいる。『放課後ミッドナイターズ』はそのあたりも踏まえ、モーション・キャプチャーの良いところを引き出すにはどんなキャラクター設定と物語であるべきかを考えたのです。その結果、たった7分の映像ですが、世界中の映画祭でたくさんの賞を受賞しました。
平田 パイロット版が完成したので、とりあえず箔を付けるために、海外の約100の映画祭に出品したところ、20個ぐらい受賞しました。
――どのあたりが海外の人にもウケたのでしょうか?
平田 パイロット版は台詞がないのです。Mrビーンやドリフのように、キャラクターの動きだけで笑わせるようにしました。それも予算の関係なんですが(笑)。でも、それが功を奏し、非常にウケが良かったですね。
――長編の映画化は、映画祭で受賞する中で決めたのですか。
平田 いえ、たった7分の短編で、しかもパイロット版には人体模型しか登場していなので、とても映画までは想像していなかったです。DVDシリーズか、TVでの放送かな、という感じでした。しかし、完成した前後にちょうど紀伊さんと知り合いまして、映像をお見せしたところ「これを映画化したら、うちの劇場で上映しますよ」と言ってくださったんです。元々竹清は映画監督志望だったこともあり、それならやってみましょうということになりました。
――紀伊さんが作品を見たことで映画化企画が進んだのですね。紀伊 最初は何も決まっていないし、映画が完成したら劇場でかけるよって言いましたが、その後は本当に大変でした。製作費が集まらず、色々な会社に頭を下げすぎてバッタになるかと思いましたよ(笑)。いくら監督のクリエイティビティが優れていても、完成していない作品には、皆「本当に回収できるの?」と疑問を持つわけです。結局、最後まで「回収できそうだから投資します」という会社さんはいませんでした。「面白そうだから」という気持ちだけで乗ってくれた会社さんばかりですね。最後はもうカツアゲしたような感じでした(笑)。
「メディア」もビジネスに利用――この作品は長編の劇場公開だけに留まらず、色々ユニークな試みを実施していますね。
紀伊 こんな(『放課後ミッドナイターズ』)斬新でセンスのいいものをティ・ジョイの劇場でかけられたらな、と思いましたが、他社でこれを映画化する動きがあるわけでもなく、自分でやらないと映画として成立しない状況でした。平田さんたちも映画化したい、自分も劇場で上映したい、「それなら一緒にやるか」というのが基本的なスタイルです。結果的に、制作会社と興行会社がダイレクトにコミュニケーションをとれる状況が生まれ、配給会社を通して公開する従来の映画ビジネスにはない、新しい取り組みに挑戦できたのです。
――興行会社の強みを生かした展開ということですか。
紀伊 映画館の持っている最大の権益をご存じでしょうか。それは「時間」です。映画館が公開日を決め、上映から何週間で終了するかを決められる。これが映画興行業の本質です。『放課後ミッドナイターズ』は、製作段階からティ・ジョイの劇場で上映することを決め、早くから公開時期も決めたことで、そこに向けて色々な構想を練ることができました。
通常の映画ビジネスは、公開日に向かって製作費や宣伝費などをどんどん消費していきますね。そして公開してから回収していきます。その中には、コストを回収できずに終わる作品もたくさんあるわけです。しかし、僕らはその通例に捉われないビジネスモデルに挑戦しました。
映画館には2つの側面があります。ひとつは、コンテンツをお金に換える「マネタイズ=換金所」という側面。そしてもうひとつは「メディア=媒体」という側面です。映画の公開前までに映画館が演じる役割は「メディア」であり、公開後は「換金所」になるわけです。公開日さえ決まれば、その瞬間から「メディア」を使うことができます。この「メディア」を最大利用することが今回のビジネスの肝です。