融合によるシナジー効果を発揮し、ミニシアター新時代を告げる
渋谷のスペイン坂の上で、互いに刺激し合いながらミニシアター興行を盛り上げてきたシネマライズ(渋谷区宇田川町13‐17 泰和企業㈱)とシネクイント(渋谷区宇田川町14‐5)。そのシネマライズの番組編成が、今年4月よりシネクイントを運営する㈱パルコ エンタテインメント事業部(渋谷区神泉町8‐16)に業務委託されることになった。
昨今、ミニシアターを含めた渋谷の興行界は厳しい状況を強いられているが、今回の業務委託は、スペイン坂の上に館を持つ両者が、今こそ力を合わせてこの危機的状況を乗り越えるべく、番組編成を1本化し、パルコのプロモーション展開なども含め、両館の作品プロモーションを絡ませて、映画を通じて渋谷の活性化を図ろうという狙いがある。今後、シネマライズとシネクイントは、それぞれの館の持ち味を改めて生かし、更に積極的に映画興行に取り組んでいくとしている。
館名及び運営に関しては従来通りとしているが、業務委託に至った経緯や番組編成方針、これからのミニシアターの在り方などについて、シネマライズを運営する泰和企業㈱の頼光裕社長(写真左)と、パルコ エンタテインメント事業部映像担当の堤静夫氏(写真右)に聞いた―。
―まず、ミニシアター、独立系配給会社の現状をどのように捉えていますか。
頼 わかりやすく言えば、水道の蛇口が閉まってしまったという感じ。配給会社の相次ぐ倒産で、供給量は一気に減ってしまっています。今までだったら自分たちが見た中で、興行の視点としては凄くいいなと網に引っ掛かるような作品でも、配給側では誰も拾わない。そんな状況が続く中で、正直、番組を埋めるためにやっている作品もないとは言い切れないから、それによって各劇場はテンション下がってしまっているのではないでしょうか。
ある種ミニシアターの映画って、純文学系と言いますか、もの凄く人間の赤裸々な部分を見せたりするので、現在のみんな仕事がないとか、将来年金もらえるのか…といった経済状態、モチベーションの中で、ミニシアター系の映画を見たいかって言ったら…難しいかな。
それとネット時代になったからといって、上映される映画の情報をすべてサイトで紹介してくれているわけではなくて、そこのふるいにかかってないと逆に上映していないのと等しい状態になっていると思うんです。多い時には同じ日に約20本公開されていた状態も大きくて、そういったいろんな複合要素が重なったんだと思います。それからみんなが“お籠り”になってきている現実もあると思いますね。それが私のなんとなくの感覚です。
堤 シネクイントは1999年スタートなんですよ。ライズさんから遅れること13年、もうこれ以上渋谷にいらないだろうという頃に出ています。会社からは、「これだけあって今からやってどう差別化していくかだ」、というところを言われました。もうその時には渋谷は確立されていたわけですよね。ですから、それまでのミニシアターのスタイルでは生き残れないということで、エンタテインメントな作品を中心にやって行こうとスタートさせました。アート映画、アートシアターとは違うところで。
東宝作品を上映し始めたのは05年くらいからですからね。それまで6年間は単館系洋画作品をやっていましたが、ヨーロッパの作品は少なく、フランス映画に関しては未だに一本もやっていません。とにかく、自分たちの目線で娯楽作品を選んでいました。東宝さんから「下妻物語」のお話をいただき、こういう邦画もいけるんじゃないかと。そのうえ東宝さんの番組をやることによって、他館との差別化になるのかなと。その時も社内で議論したんですけど、作品のカラーとしてはクイントでやってもおかしくないだろうという、一応ブランディングにはこだわりました。
我々は、面白い映画があったら逆にこちらからどんどん取りに行こうという姿勢でやってきました。ミニシアター、単館という意識は途中から薄れ、娯楽映画だけどこだわりの映画をやるという、姿勢は変わっていません。
シネクイント、12年目の新たなスタート―昨今のミニシアター事情の影響から、今回の業務委託に至ったのでしょうか。
頼 例えば、今回のキネマ旬報さんの「(第84回)2010年ベスト・テン」に、シネクイントさんは日本映画で2本、うちは外国映画で2本と上映作品がランクインし、そういった意味では、互いの作品の選択は評価できていると思う。ですから、ここで番組に対する双方の違う視点を融合出来ればシナジーは大きいし、パルコさんにとっても効率化になり、我々としても番組をじっくりと見られるので、お互いにやってみようということになりました。「らしさ」を継続するために新しい発想を取り込みたいといった思いですね。
堤 実はシネクイントが99年にオープンした時に、番組云々ではなく、“スペイン坂シネコン計画”みたいなことは頼社長に相談したことがあるんです。一緒に何かできませんかと、こちらが勝手に。ただ、その時はミニシアター全盛期だったので、なにも組まなくてもいいのではないかと。ですから、いま急に出た話では実はないんです。我々としてスペイン坂の上に映画館が2つあって、芝居小屋があって、ライブハウスがあるっていう、文化の発信基地みたいな売り方をしないといけないと。あの頃はレコード屋さんも本屋さんも洋服屋さんも、渋谷に来るだけですべてが事足りてしまう時代でしたが、ここ何年かはミニシアターに勢いがなくなったこともあって、昨年末くらいに改めて具体的に話がまとまっていきました。
そうは言ってもシネマライズさんの番組編成となるとプレッシャーもあるし、我々で出来るのかと。ただ、うちも頑張らなくてはいけないし、うちのスタッフへの刺激にもなると思いお引受けしました。結果はこれからですが、もう一回原点に返って、シネクイントは12年目にして新たなスタートという気持ちです。
―番組編成方針及び、それぞれの運営に関しても改革をしていくのですか。
頼 シネマライズが1スクリーンになった時に、うちとしての間口を広げたいなとずっと思っていたわけです。ただ、なかなかうちはシネクイントさんとは逆に、エンタテインメント系の作品は声がかからない。それに私と当社専務が基本的には映画祭に足を運んでいるのですが、各映画祭のマーケットのテンションも下がっているのも事実あるんですよ。買付をしている人はわかると思うんですが、以前はうなるような、買えなかったけどいい作品があったのに、凄くそれも減ってきているので、間口を広げないといけないと思っていました。
堤 やはり5,6年くらい前まではミニシアターの作品はカンヌ映画祭の作品が支えていたと思うんですけど、昨今ではカンヌ映画祭で話題になった作品が日本では商売にならないとなって、パルムドール(最高賞)を受賞してもすぐには公開されなかったり、そうなるとカラーをしっかりと保ってやってきた劇場さんは、なかなか変えられないし大変なことだと思うんですよね。自分がカンヌに行っていた頃は、話題作には日本の配給会社が全部集まってしまうような状態で、どこが買ったのか話題になっていたのが、何年か前からカンヌは全然商売にならないなと…配給会社にとっても大きいですよね。
頼 それと一番はやはりビデオが売れなくなってしまったのが大きいんじゃないですかね。
堤 ビデオがあるから多少高い買い物もできたけど、それも出来なくなってしまった。買い付け値段も下がり、安く買っても宣伝費さえリクープできなくなってしまったのが現実ですよね。
頼 基本的には、堤さんとの長いお付き合いによる信頼から番組編成をお任せするので細かい取り決めはしていませんが、今までやってきた私どもの情報の入手の方法、スタイルと、堤さんのやり方は随分違うし、作品を見る視点も違うので、その辺は話し合いながらやっていきましょうと。うちとクイントさんは見方が違うからそこは正直、期待しています。
堤 その為にはとにかく全方位で情報を集めていかなくてはいけません。これまでのお互いの番組らしくない作品も視野に入れて、配給会社さんとも情報を共有しながら積極的に編成していきたい。「これシネクイントではあがらないけど、シネマライズさんお好きですよね!?」とか、上手くどこまでお互いにやっていけるかですね。他館との競合は増えるかもしれませんが、改めて、渋谷で映画を見てもらうという流れを一緒に作っていきましょうということです。
時代がシネコン慣れしているので、拡大公開の一つというものもあれば、ここだけでしか見られないというのもミニシアターの特徴であるので、それを上手く使い分けて、それがまた配給会社さんとのお付き合いにつながっていくと思っています。
協力して、オペレーションの効率化も視野に
―今後は共同で買い付けたり、邦画へ製作出資していくこともあるのでしょうか。
頼 共同買い付け含めて柔軟にやっていきたいと思っています。これまで邦画への出資は一切やったことがありませんが、そこは堤さんの方が経験あるので、いいものがあれば考えないわけじゃないですね。
堤 ご一緒できるものは積極的にやっていきたいと思います。
―昨年からスタートされた劇場公開同時VOD配信や、RISEオンデマンドは今後も継続されていくのですか。
頼 最初はアクトビラだけだったのが、今は配信先がどんどん増えているんですよ。続けていきたいですが、あくまでも配給会社さんがしないというなら何もマストではありません。ただ、なんとかして見てもらいたいということから始めました。一番心配されたのは、DVDが売れなくなるんじゃないかということでしたけど、「フローズン・リバー」も「息もできない」もそんなことはなかったです。決して興行にも影響するものではないし、ニッチのところで他を潰すかって言ったらそれもなくて、逆にVODが全国津々浦々までのプロモーションとして機能しプラスになっていると確信しています。作品によっては今後も同時配信をやっていきます。
―チケットブースやシステムの共通化など、オペレーションの効率化も視野に入れていくということですが。
頼 そうですね、進めていきたいと思っています。
堤 そうやって力を合わせることで、またスペイン坂に人を集めてみたいですね。