第7回MPAセミナーで「サイトブロッキング」について議論
2017年11月28日
モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)は10月27日、恒例となった東京国際映画祭期間中のセミナー「第7回MPAセミナー」を六本木アカデミーヒルズ49オーディトリウムで開催。昨年に続いて、今年も「サイトブロッキング」について様々な角度から議論が行われた。(上写真は登壇者)
サイトブロッキングは、海外のサイトにアップロードされている違法ファイルへの国内ユーザーのアクセスを、国内のISP(インターネットサービスプロバイダ)側で遮断してしまう仕組み。オンラインでの著作権侵害に対する有効な対抗手段として注目されており、すでに42の国がサイトブロッキングを可能とする法制度を導入している。しかし、日本では肯定派と反対派の意見対立が激しく、導入には至っていない。各国でサイトブロッキングの導入を推進しているMPAは、日本でもセミナーを通してサイトブロッキングに対する人々の理解を深めたい考えだ。
一般ネットユーザーも海賊行為対策に理解示す
セミナーでは、ビッグ・ピクチャー・インターナショナルのマーク・フオティ代表取締役社長が登壇し、日本での海賊行為をめぐる状況を、各種調査データを交えて説明した。それによると、日本のインターネット利用者の4人に1人(24%)は、違法サイトやアプリにデスクトップからアクセスしている(17年上半期の月平均)。また、合法の有料動画サイトと違法動画サイトの上位5位の総閲覧数を比べると、違法サイトの閲覧数の方が2.46倍も多かった。
その一方、海賊行為対策についての消費者意識の調査では、「検索エンジンは、違法コンテンツを共有しているWEBサイトを検索結果ページから除外すべきだ」というアンケートに対し、「そう思わない」と答えたのはわずか9%、「違法コンテンツを共有するサイトには広告掲載を避けるべきだ」に対して「そう思わない」と答えた人は6%に過ぎず、「大半の人は違法なコンテンツを見ることが間違っているとわかっている」とし、サイトブロッキングを導入することに対し、一般ユーザーの理解は得られるとの見解を示した。
マーク・フオティ氏
英国の違法サイトではアクセス減少率90%も 続いて、海外のサイトブロッキング事情に詳しいカルガリー大学 公共政策大学院の
ヒュー・スティーブンスエグゼクティブ・フェローが、諸外国の現状を説明した。オーストラリアの場合、サイトブロッキングする際は、なぜアクセスできないかをユーザーに通知し、なおかつ合法サイトに誘導するような表示をしているという。イギリスで行われた調査では、ブロッキングされた違法サイトのアクセス減少率は90%におよび、遮断されたユーザー全員の著作権侵害件数は22%減少したこともわかった。また、サイトブロッキングは、児童ポルノを含むサイトに対しては、すでに日本でも行われており、技術的には日本でも実行可能であるという考えを述べた。
ヒュー・スティーブンス氏
「通信の秘密」が壁だが、解釈が変わる動きも では、日本での導入に向けてどのような壁が存在するのか。法律上の課題について、情報セキュリティ大学院大学の
湯淺墾道学長補佐が説明した。湯淺氏は、日本でサイトブロッキングを導入する際に関係する法律として、特に、憲法および電気通信事業法が保護する「通信の秘密」を強調。現状、日本ではブロッキングをする際に、ユーザーがアクセスしようとするサイトのホスト名などを検知することが「通信の秘密」を侵害する可能性があるという解釈があり、児童ポルノサイトへのブロッキングが導入された際も、様々な民間団体の専門家が集まった検討会で「ブロッキングは通信の秘密を侵害するものの、あくまで緊急避難として許される」という特例的な結論により導入されたという経緯が語られた。
ただ、湯淺氏は、昨今の政府や民間会社などにおびただしいサイバー攻撃が行われている状況を受け、「通信の秘密」の解釈が変わる動きが出ていると述べ、「サイバー攻撃を防ぐためには、ISPが積極的に行動しなければならないと理解されてきた」と説明。最近になり、ISPを所管する総務省から、サイバーセキュリティの確保のために、一定の範囲で「通信の秘密」を侵害することも許されるという新しいガイドラインが示されたことで、「明らかに違法なコンテンツを通信しているサイトに対してブロッキングを行うことにも可能性は出てくる」と自身の考えを述べた。
湯淺墾道氏
サイトブロッキング以外に有効な手段はない サイトブロッキング以外に有効な手段はないのか、この点については、ドワンゴの
川上量生代表取締役会長兼CTOが登壇して語った。川上氏は、はじめに「インターネットに何か強制力を働かせる場合、基本的にはサイトブロッキングしかない」とした上で、その理由を次の通り語った。違法な動画をアップしているサイトへの一般的な対応として、まずは該当作品の削除要請が考えられるが、運営者がそれに応じないことがある。運営者の決済手段の凍結という方法もあるが、口座の特定が難しく、海外の決済代行会社を利用している場合は日本の法律が及ばない。違法サイトへの広告出稿をやめさせることも考えられるが、そもそも違法サイトへ出稿している企業にまともな企業はなく、規制する法律もない。民事裁判を行う場合、相手が海外企業では外国送達のため開始までに長期間が必要で、刑事裁判を行う場合でも、運営者が海外にいる場合は日本の警察は動くことができず、仮に逮捕しても、FC2動画がそうであるように、サイト自体を閉鎖するかどうかは未知数だという。これらの状況を踏まえると、「サイトブロッキング以外に有効な方法はない」という。なお、川上氏は法律の壁についても言及し、「通信の秘密を侵害しているという反論もあるが、単に著作権侵害をやめてもらうことが目的であって、盗聴したいわけでも何でもない。通信の秘密という理由で保護すること自体がおかしい。表現の自由という意見もあるが、コンテンツを違法にコピーしているだけで、単なる泥棒だ」と斬り捨てた。
川上量生氏
まずは権利者とISPがコミュニケーションを 最後に、
遠山友寛弁護士司会のもと、スティーブンス、湯淺、川上の各氏がパネルディスカッションを行った。サイトブロッキングは、ISPの任意の協力で進めることが最もスピーディーではないか?という遠山氏の質問に対し、川上氏は「100%違法コンテンツのサイトは適用可能だが、そうでない(一部のみ違法の)場合の判断を民間業者のISPが負うのはフェアではない。と言っても裁判所の判決を待っているのは実効性に欠けるので、裁判所の仮処分命令でブロッキングできるぐらいが落としどころではないか」と自身の考えを述べた。また、湯淺氏は「権利者と、ISPや情報通信の法律の関係者との間でコミュニケーションが全くとれていない感じがある。裁判で訴えるのもいいが、それぞれの領域の専門家がコミュニケーションしていけば、妥当な解決方法が見つかるのではないか」と、まずは両者が顔を合わせて話し合っていく姿勢が重要との認識を示した。
パネルディスカッションの様子
なお、セミナーではアメリカ映画協会会長の
クリストファー・J・ドッド、東京国際映画祭フェスティバル・ディレクターの
久松猛朗、内閣府知的財産戦略推進事務局長の
住田孝之、米国大使館経済・科学部経済・科学担当公使の
ニコラス・ヒル、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の
後藤健郎代表理事、MPAアジア太平洋地域プレジデント アンド マネージング・ディレクターの
マイケル・C・エリスの各氏が挨拶した。