モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)主催の「第6回MPAセミナー」(共催:ユニジャパン)が東京国際映画祭期間中の10月28日、六本木アカデミーヒルズ49 オーディトリウムで開催された。毎年、映画などのコンテンツ業界が注視するべき話題が取り上げられ、業界人が多数出席する同セミナー。今回は「サイトブロッキング」と「フェアユース」の2点が大きなポイントになった。
海賊版の被害深刻、ブロッキングは海外で効果 「サイトブロッキング」とは、海外のサイトにアップロードされている違法ファイルへの国内ユーザーのアクセスを、国内のISP(インターネットサービスプロバイダ)側で遮断してしまうシステム。日本国内では、映画の無断配信は違法であり、違法アップローダーは随時摘発されている。しかし、海外の違法サイトに関しては日本から取り締まることはできず、違法サイトにアクセスする手段を絶つ「サイトブロッキング」が有効とされている。海外では40カ国以上で法律化されており、日本でも「知的財産推進計画2016」の中で、サイトブロッキングの問題をさらに検討すると示されている。
マイケル・C・エリス氏
まず、日本における海賊行為の現状について、MPAの
マイケル・C・エリスアジア太平洋地域プレジデント アンド マネージング・ディレクターが登壇し、2015年は、日本のインターネットユーザーの31%が何らかの形で映画、またはTV番組の海賊行為に関与していたという調査結果(コムスコア社調べ)を示した上で、「海賊行為が多いと言われているオーストラリアでも、2014年が29%、2015年が25%という調査が出ているが、日本はそれを上回っている」とした。日本の映像配信サービスで比較した場合、違法サイトのページビュー(PV)数は、正規サイトのPV数の1.5倍も高い(アレクサ社、16年3~5月)というデータも明示し、日本での侵害行為が深刻な状況あることを強調した。
墳崎隆之氏
続いて、日頃から海賊版対策に力を注いでいる一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の
墳崎隆之事務局長が「日本の2014年の映画・アニメ・放送・音楽・マンガの海外における海賊版による被害は約2888億円」という推計結果を示し、「ただし、この数字は海外における収入金額に基づき計算しており、海外展開されていない作品の海賊版の潜在的な被害額は途方もない」と影響の大きさを語った。CODAでは海外の当局と連携し、「中国や韓国とは、要求すれば(違法サイトを)削除してもらえるようになっている」という。しかし、違法サイトの新設は止まらず、近年は監視システムをすり抜ける方法を編み出すサイトも多いことから、「撲滅は難しい」と率直に現在の状況を話した。しかし、ある違法サイトの業者が、「鍵のかかっている家と、ズルズルの家なら、泥棒はどちらに行くか。当然ズルズルの方を選ぶ」と話していたエピソードを紹介し、「日本全体がそういう(違法行為に厳しい)国だという姿勢であることを示すことが重要」と、対策を継続していくことの意義を強調した。
マイケル・ウェザリー氏
そのあと、英国デイヴィッド・キャメロン首相の初代知的財産アドバイザーに任命された経験を持つ
マイケル・ウェザリー氏(モーション・ピクチャー・ライセンシング・カンパニー エグゼクティブ・ヴァイス・プレジデント)が、「サイトブロッキング」を導入している国の現状について説明し、英国からサイトブロッキングされた侵害サイトへの流入は、ブロック前に比べて平均的77%減少したという調査結果(インコプロ社調べ、15年11月)を示し、「サイトブロッキングは有効」と成果を語った。
フェアユース“判例揺れている”とフォード氏
ジョージ・S・フォード氏
次に、「フェアユース」について、フェニックス先端法学公共政策研究センターでチーフ・エコノミストを務める
ジョージ・S・フォード博士が説明した。フェアユースとは、著作物を公正利用する場合、著作権者の許諾がなくても違法にならないとする考え方。日本では、文化庁等で米国型の「柔軟な権利制限規定(フェアユース規定)」を導入する著作権法改正が検討されている。フォード博士は、アメリカにおけるフェアユースに関する裁判では特に「著作物を何に使うか」「どこまで著作物に近いか」「著作者が引用される量と質」「オリジナルとの競争になるかどうか」が要点となり、特に4つ目の「オリジナルとの競争になるかどうか」がポイントになる場合が多いと説明した。
フェアユースは、江戸時代にあたる1841年にアメリカで導入されており、フォード博士は「デジタルエイジ(時代)に向けては作られていない」と指摘。「侵害を合法にするのがフェアユース。デジタル時代で海賊行為が増えている今は、フェアユースを厳しく取り締まるべき」と自身の考えを述べ、フェアユースを「悪名高き不確実性」と切って捨てた。
セミナーの最後に、これら「サイトブロッキング」と「フェアユース」について意見を出し合うパネルディスカッションが行われ、TMI総合法律事務所の
遠山友寛弁護士の司会進行のもと、ウェザリー氏、フォード博士、墳崎氏が出席した。
はじめに「フェアユース」について、フォード博士はアメリカでは「長年判例があっちこっちした」と裁判所も混乱していることを明かし、遠山氏の「今も不確実なのか?」という問いに、「基準はあるが、誤解されている。論理的枠組みに欠け、混沌とした状況。一つの判決を持って、全く違う方向に進んでしまう危険性もある」と、今でもフェアユースをめぐる議論は続いていることを示した。
サイトブロッキング、日本での導入には課題も
また「サイトブロッキング」に関しては、日本での導入に向けて「通信の秘密」がポイントになっていると遠山氏が説明し、ウェザリー氏は「サイトブロッキングはプライバシーは関係ない。違法なページへのアクセスを止めてしまうだけで、パーソナルなデータを見ているわけではない」とコメント。一方、墳崎氏は「日本では、どこに見に行っているのか、ということも通信の秘密に触れると言われている。裁判でサイトブロッキングをやるとなった場合に、その段階では通信の秘密は侵されないと思うが、実際に行使する段階で、『この人がそのサイトに見に行っている』ということが明らかにされないと、当然ブロックはできない。そのタイミングで通信の秘密が侵される可能性がある。ということが、反対派の人の考え」と、日本の事情を説明したうえで、さらに「このサイトについて、全部が違法なコンテンツだと立証できる権利者は一社もないと思う。それは、複数者の権利が侵害されているからだが、それをどう詰めていくか」と、今後も日本での導入に向けて議論が必要であることを示唆。それに対しフォード博士は「合法的なコンテンツがあったとしても、何か1つでも違法コンテンツがあった場合は何らかの措置を受けるべき」と語り、個人が閲覧したデータについても「それは確認する必要はない。極端な話、その違法サイトの閲覧数がゼロでも、侵害コンテンツがあるかないかで(サイトブロッキングの対象かどうかを)判断すればいい」と見解を述べた。
なお、同セミナーではほかに、エリス氏、
椎名保東京国際映画祭ディレクター・ジェネラルの主催者挨拶のあと、
ニコラス・ヒル在日米国大使館 経済・科学担当公使、
井上摂男内閣府知的財産戦略推進事務局長が来賓挨拶。米人気ドラマ「エレメンタリーホームズ&ワトソン in NY」のプロデューサーを務める
ジョン・ポルソン氏が基調講演を行った。 了