ポニーキャニオン 吉村隆代表取締役社長 『ラ・ラ・ランド』大ヒット“スタッフよく決断した”
2017年07月24日
ポニーキャニオンは、吉村隆氏(=写真)が代表取締役社長に就任してから2年が経過した。この間同社は、事業領域の拡大にまい進。1966年の創業から一貫して音楽・映像のパッケージを取り扱ってきたが、最近はノンパッケージの売上が全体の4割近くを占めるようになった。組織もそれに伴い大幅に刷新し、「総合エンターテイメント企業」へと変革を図っている。
その中で、今年2月に劇場公開した映画『ラ・ラ・ランド』が歴史的な大ヒットを記録し、同社を勢いづかせている。吉村隆社長に、同社の現状と今後の展望を聞いた。
スタッフよく決断した――まずは、興収40億円を超えた『ラ・ラ・ランド』の大ヒットについて、率直な感想をお願いします。
吉村 素直に嬉しいです。それは当然ですが、映画の配給事業にはすごく難しさを感じていて、事業開始から6年かかって、ようやく大きなヒットが出たことがとにかく嬉しいです。
――当初の想像より時間がかかった印象ですか。吉村 他の配給会社の方には「6年でヒットが出たことは凄い」と言われました。なかなか大きなヒットが生まれず「苦しい」という方が先だっていたので、そのような実感はなかったのですが、長く映画の配給に携わっている皆さんからは「短時間でこれだけヒットさせたことは凄い」とお褒めの言葉を頂きました。ある映画会社の社長さんには「30年に1本の映画をよく捕まえた」と言われましたし、「映画興行に風穴を開けた」と言ってくださる方もいました。そういう意味でも嬉しかったですね。
――インディーズの配給会社で、40億円を超える洋画というのは本当に珍しく、ここ数年ではなかったことです。吉村 最近は、あるターゲットがあって、そこに向けてのヒットはたくさん出ていると思います。一般的にあまり知られていないけれども、ある筋ではよく知られている、という作品です。我々もそこに向けて色々なヒットを作ってきていますが、『ラ・ラ・ランド』は一般社会に向けて大きく、マスに広がるようなヒットにすることができました。しかも、外国のミュージカルという、日本の土壌にあまりなかったものですから、嬉しさもひとしおです。当初は、ここまでのヒットを飛ばせるとは思っていませんでした。「10億円、20億円」という気持ちは持っていましたが、それですら確信はなかったですから。
――外配協主催の「第55回優秀外国映画輸入配給賞」で、御社は特別賞を受賞しました。4月19日に行われた授賞式の場で、吉村さんは「(『ラ・ラ・ランド』は)私が買付担当なら買わなかったと思うが、情熱を持って買い付けたスタッフを褒めたい」とおっしゃっていました。買付当初は、「難しいな」という印象もあったのですか。
吉村 買い付けたのは、14年11月のAFM(アメリカン・フィルム・マーケット)ですが、当初は今のキャスト(ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン)が決まっておらず、『セッション』の主演マイルズ・テラーとエマ・ワトソンというキャスティングの予定だったのです。『セッション』は日本でもヒット(15年4月公開)しましたが当時はまだ公開前です。北米でも、14年10月に公開されたばかりでした。デイミアン・チャゼル監督の実績が出ているわけでもなく、マイルズ・テラーのこともわからない。もし私が現地に行っていたら、たぶん買わなかったと思います。でも、実際に行ったスタッフは『セッション』を現地で観て、素晴らしかったと。「監督買いでした」と言っています。よく決断したと思います。ミュージカルは難しいだろう、という思いもありました。ただ、信念として持っているのは、私が「難しいんじゃないか」と言っても、スタッフが食い下がってくる作品はやりたいと思っています。これは映画に限らず、音楽もです。「これは絶対です」と食い下がってくるなら、賭けてみたい、やらせようと思っています。
今後もポニキャンらしい作品を――大ヒット作が出るまでに6年かかったとおっしゃいましたが、御社にとって、映画の配給事業とはどういう位置づけでしょうか。吉村 ご存じの通り、当社は音楽、映像映画、アニメなど色々なことをやっており、映画の配給はその出口のうちのひとつです。そこに特化して、ほかの配給会社に肩を並べるような会社を目指すということではありません。我々は50年間、ずっとパッケージを出口としてやってきましたが、その出口が変わり、お客様に伝える術が変わり、ライフスタイルも変化しています。その中で、ひとつの出口として映画の配給を手掛けることが必要だと考えました。ただ、映画の配給は特に難しい事業だと思っているので、『ラ・ラ・ランド』がヒットしたからと言って、拡大していこうという考えは全くありません。ちゃんと、ポニーキャニオンらしい作品を見つけ、小さくても黒字化できるような作品を選びながらやっていこうという方針です。もちろん、売れそうな映画で、「これはいけそうだ」という時に、大きな投資をすることはあるかもしれませんが、基本的なスタンスは変わりません。
――ポニーキャニオンらしい作品というのは何でしょう。吉村 『ラ・ラ・ランド』に象徴されるように、音楽が題材の映画はひとつあると思います。『はじまりのうた』や、『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』などは、我々らしい映画だなと思います。もうひとつは、昔パッケージが売れている時に「ビデオだま」と言っていましたが、ビデオでは手堅いアクションやホラーなどのジャンルは、ポニーキャニオンらしいなと思います。アクションなら、『ジョン・ウィック』や『エクスペンダブルズ』が代表的な作品だと思います。
続きは、文化通信ジャーナル2017年7月号に掲載。