まず1番の台詞を抜き出す――「吹替の帝王」インタビューは3回目です。年に1度の名物企画と化してきました。今回は、私も思い入れの強い『インデペンデンス・デイ』が間もなく発売ということで、再度色々伺いたいと思います。
菅原 そうでしたか。『インデペンデンス・デイ』でお好きなシーンはどこですか?
――絞れませんが…宇宙船のバリアが破れて、大統領たちが一斉に攻撃を仕掛けるシーンからあとは全て好きです。ラッセル・ケイスが突っ込んでいく場面とか…。菅原 では、私たちは(ファンのツボを)外してないですね。
――今回はそこから伺いたいのですが、毎回新作の発売情報を告知するたびに、「吹替の帝王」のプロモーション映像を作り、ユーチューブなどで配信していますよね。ファンのツボをついた作りで感心しているのですが、あの映像(=下映像参照)はどうやって作っているのですか。菅原 「吹替の帝王」は、発売するタイトルが決まると、まず初収録するテレビ吹替音声を聴いて、台本を手に入れて復習し、「これだ!」という1番の台詞を抜き出す作業から始めます。『インデペンデンス・デイ』の場合、(ラッセル・ケイスが宇宙船に突っ込む場面で叫ぶ)「よぅタコ野郎!帰ってきたぜえぇぇぇ!」だったわけです。選んだ理由は、私の琴線に触れたからです(笑)。
この作品では、キーポイントとなるキャラクターが4人います。ウィル・スミス演じるヒラー大尉、ビル・プルマン演じる大統領、ジェフ・ゴールドブラム演じるデイヴィッド、ランディ・クエイド演じるケイスです。この中で、ケイスの特攻精神が、日本人の琴線に触れるのではないかと思いました。ほかにも印象的なシーンはたくさんあるのですが、最終的に、大統領の演説のシーンか、ケイスが突っ込むシーンかを迷いましたが、より映えるケイスの台詞を選びました。
――1番の台詞にこだわっているのですね。菅原 「この台詞を聴けば、自分が観てきたテレビ放送を思い出す」という、ユーザーに向けてのメッセージになるのです。『インデペンデンス・デイ』の場合、間もなく続編公開というマーケティング要素もありますが、そういったことを前面に出してしまうとしらけてしまうので、それよりもファンの方が「このシーンは燃えたな~」と思うシーンを抜粋することを意識します。
先ほどおっしゃったプロモーション映像を作る場合、1番の台詞が決まればあとは簡単で、絶対にファンの方に聴かせたい、吹き替えでしか魅力が出ないようなシーンを盛り込みます。例えば、大統領の演説は聴いてほしい。日本人なのに燃えてしまう、最後に「ウォー!」と叫びたくなる、あのシーンは、絶対に映像の最後に持ってきてほしいとディレクターに伝えました。また、最初は「よぅタコ野郎!」を持ってくることにこだわりました。
あと必ず入れるのは、「吹替の帝王」ならではの“聴き比べ”映像です。今回の『インデペンデンス・デイ』の場合、テレビ朝日版もソフト版の吹替も、ヒラー大尉の声を務めたのは山寺宏一さんです。同じ山寺さんの声なのに、台詞も演出も違うので、同じシーンでもかなり違って聴こえるという、珍しいケースです。そうやって使いたいシーンができれば、ほとんど映像は出来てしまいます。あと、社内にも好きな人はたくさんいるので、「私はこのシーン好きなんだけどどう思う?」と答え合わせをします。本作は4人ぐらいに意見を聞いてから固めました。
――その熱意を感じる映像です。菅原 特別映像は大塚(明夫)さんがナレーションをしてくださるのですが、毎回ノリノリで、99%一発録りです。今回面白かったのは、大塚さんはずっと声を張っていたことです(笑)。普通、『ホーム・アローン』なら「楽しげに」とか、作品にあったナレーションをしてくださるのですが、今回はずっと張り続けていました。演出家さんはそう指示はしていないのですが、大塚さんが「いや~ちょっとこれは煽られちゃうね。地球救いたくなるよ(笑)」とおっしゃってくださって、それを聞いた時に、「あ、この作りで良かったんだ」と思いました。観ている人もそう思ってくださる映像になっているはずです。
――1番の台詞を抜き出す作業は、毎回迷うのですか。菅原 あまり迷わないです。例えば、『プレデター』なら「いたぞぉぉぉぉ!」で即決でした。
――では、逆に迷ったタイトルはありますか。菅原 『ホーム・アローン』ですね。ケビンと隣のおじいさんとの台詞が琴線に触れたのですが、長かったので…。あと、みんなが覚えている台詞で、ケビンが「イエス!」と言うシーンがあるのですが、こちらは短すぎて(苦笑)。余談ですが、「イエス!」とガッズポーズするのは、あの映画から一般的になったのではないかと思います。結局、台詞が決まらなかったので、何年経ってもクリスマスに観て全く飽きないということを強調するために、“クリスマスといえば”というキャッチコピーにして、特に台詞は入れませんでした。
新しいジャンルにチャレンジした『ホーム・アローン』――「吹替の帝王」のファンは増えていますか。菅原 認知は高まっていると思います。まだ「吹替の帝王」を知らない人にも、ファンの方が説明してくださったり…。そういう人が増えてきています。
神田氏
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神田 たぶん、火をつければ、まだコアな層は眠っていると思います。パッケージから離れてしまっている人もいるので、知ってもらえれば、一気に全部揃える人は間違いなくいる雰囲気は感じています。そういう人にどうアプローチするかですね。
――前回のインタビュー後、これまでに『ホーム・アローン』や『ダイ・ハード/ラスト・デイ』を発売されましたが、売上はいかがでしたか。特に『ホーム・アローン』は大ヒットしたのではないですか。菅原 実は意外にも数字的にはあまり伸びませんでした。昨年12月にテレビ放送もあったのですが…。これはちょっと意外でした。今まではSFやアクションが多く、新しい挑戦ではあったのですが、放送回数は多いですし、嫌いな人もいない映画ですし、吹替で観た人の方が多いと思うのですが、う~んという結果でした。
――なぜでしょう。神田 おそらく、「吹替の帝王」のメイン購入層よりも、『ホーム・アローン』ファンはちょっと若いと思うのです。30代とか。
――「吹替の帝王」の購入者のメイン層は何歳ぐらいですか。菅原 40代以上ですね。小さい頃、テレビで週3回くらいは洋画番組で映画を放送していた世代です。
神田 60~70年代は1番テレビの洋画が活発でしたから。1000~1500円の廉価版で『ホーム・アローン』のDVDをリリースすると、他の作品よりも断然売れるのですよ。それは若い方も買ってくれているからですが、高価格帯の「吹替の帝王」では結果が出芳しくなかった。これまで「吹替の帝王」で発売してきたSF・アクション作品とは少しテイストが違うので、お店さんも力を入れにくかったかもしれません。一般的には、ファミリー映画という認識が強いでしょうから。それが「吹替の帝王」とマッチしなかったのかもしれません。私たちからすればアクションなのですが(笑)。家の中でやる『ダイ・ハード』ですから。
菅原 小さいジョン・マクレーンですよ。
神田 声優さんの演技力をより楽しめるジャンルはドラマなので、本当はドラマ映画の「吹替の帝王」もやっていきたいのですが…。
菅原 このジャンルで発売するのはもう一度調査・研究する余地がありそうです。
――『ホーム・アローン』はターニングポイントとなったのですね。菅原 そうです。これは「吹替の帝王」ファンの方にも知っていてもらいたいことです。シリーズが続いている=売れているというイメージがあると思うのですが、もちろん厳しいものはあるのです。(15年6月発売の)『ターミネーター』は相当売れて、本当に良かったです。かなり早いペースで売れました。ペースよく売れる作品として挙げられるのは『コマンドー』『ダイ・ハード』『ロボコップ』がベスト3かと思うのですが、一方で『ホーム・アローン』はすぐに結果が出る作品ではなかったかもしれません。ただ、ドラマジャンルも諦めたくないので、チャレンジしたいとは思っています。
――これまで全11タイトルを発売して、累計何本ぐらい売れているのですか。
菅原 6万本ぐらいです。そのうち『コマンドー』がかなり稼いでくれてますが(笑)。
(
後編につづく)
取材・文/構成: 平池 由典