なお、このインタビューは次の通り4回(2月25日~28日の連日)に渡って連載する。
・2月25日(火) 第1回「テレビ用吹替音声に絶大な支持」
・2月26日(水) 第2回「吹替の帝王、高額の理由は“声”」
・2月27日(木) 第3回「シュワ主演『コマンドー』圧倒的人気の秘密」
・2月28日(金) 第4回「次の発売候補タイトルは・・・」
第4回「次の発売候補タイトルは・・・」
――そして『ロボコップ』と『スピード』(=右写真)が間もなく発売されますね。『ロボコップ』は3月5日です。
菅原 『ロボコップ』は、何と言っても日本語吹替が3種入っていることが魅力。そのうち1つは今までのDVD、ブルーレイにも入っていたものですが、今回は「日曜洋画劇場版」と、VHSにしか入っていなかったバージョンの2つが初めて収録されています。吹替音声は、人間の時のマーフィー、ロボコップに成りたての時のマーフィー、そしてかつて自分が人間だった頃を思い出した時のマーフィーと、全部演技が違っているのが面白く、それが3バージョンも楽しめるので聴き応えがあります。
加えて、「吹替の帝王」シリーズで初めて4Kデジタル・トランスファーマスターを採用した映像なので、「超高画質」です。まずはこれを観てから、リブート版(3月14日公開)を観に行ってほしいですね。
――『スピード』は4月25日発売です。
菅原 少し記憶から遠ざかっていると思いますが、改めて観直すと、本当にアクション映画として面白いです。ぜひこれをきっかけに『スピード』の凄さと、キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックがブレイクしたきっかけになった作品だったことを思い出してほしい。音声はこれも3種類入っています。今回は新たに「日曜洋画劇場版」と「ゴールデン洋画劇場版」が収録されていて、これもまるで違うキャラクターに聞こえるほど3種類が違います。犯人がクイズを出す展開なので、アクション映画にも関わらず台詞が長く、字幕では伝えきれていない部分も吹替ならよくわかります。そしてなんと、この商品には初ブルーレイ化の『スピード2』も付いています!
――値段はこれまでと同じ(税抜6,476円)ですか?
菅原 一緒です。しかも、吹替を2種類入れています。『スピード2』を特典扱いにするな!という声もありますが(苦笑)、良かれと思って作ったので…ぜひ楽しんでください。「できることは全部やる」という精神です!
――ちなみに、次にリリースするタイトルは決まっていますか。
神田 有力なのは、『猿の惑星』や『エイリアン』でしょうか。『猿の惑星』は今年秋に新作が劇場公開されますし、『エイリアン』は来年製作35周年です。どちらも良いタイミングなので、できればリリースしたいと考えています。特に『猿の惑星』は初回放送が73年と古いですからね。素材がないのですが、今絶賛探し中です(笑)
テレビの洋画劇場の重要性
――個人的には『エイリアン2』も早く出してほしいです。
菅原 『エイリアン2』も人気がありますね。でも、まずは『ロボコップ』と『スピード』が売れないと(笑)。
神田 『ホーム・アローン』も来年製作25周年ですしね。
菅原 『ホーム・アローン』は、吹替のイメージが強い方がほとんどじゃないでしょうか。昨年もテレビ放送されて、視聴率は良かったですしね。先日(1月31日)放送された『プレデターズ』も高い視聴率をとっていますから。まだまだ洋画の人気は健在だなと思います。
神田 ああいう作品がテレビ向きの映画でしょうね。
菅原 私たちが子供の頃は、テレビで洋画劇場が放送されていたので、それをきっかけに映画館にも足を運ぶようになりました。今でも視聴率をとれるなら、ぜひ洋画劇場を復活させてほしいと思っています。『プレデターズ』は、特に10代の視聴が非常に多かったらしいですし。
神田 一般的に、洋画劇場はティーンエイジャーの視聴が多いらしいのです。
菅原 「つい観ちゃう」という環境は大事だと思います。つい観ちゃった結果、そういう子が将来映画ファンになるんじゃないかなと思います。テレビで洋画を観慣れている子とそうでない子では、洋画を観に映画館に行くことのハードルの高さが変わってくるでしょう。
神田 地上波で放送されているということも重要です。観る気がなくても、観てしまう。「偶然に知る」ことが大切。刷り込み効果です。
菅原 『ホーム・アローン』は、去年のテレビ放送後のツイートを見てみると、「やっぱり面白い」というツイートのほかに、「こんなに面白い映画観たことない」なんていう高校生ぐらいの若い層のつぶやきもありました。それを見た時、やっとこの人たちにバトンタッチできたなと思いました。そうじゃないと、もう観る機会がないんですよね。
神田 旧作は「出会い」ですから。偶然でない限り。
――映画館やビデオは、どうしても能動性が必要ですものね。「偶然出会う」という点では、テレビの地上波の影響は大きいですね。
菅原 たぶん民放の全国放送で21時から『コマンドー』を放送したら、大変なことになると思いますよ。なかなか信じてもらえませんが(笑)。これは声を大にして言いたいです。
神田 昭和天皇が崩御された年の元旦に、『コマンドー』がゴールデンタイムで放送されているのです。それが不思議でしょうがなくて、テレ朝の人に「なぜ?」と聞いたのです。すると「『コマンドー』しか考えられなかった」と返ってきました。あの当時「元旦のここで戦えるのは『コマンドー』しかない。勝負した」と話していました。あの作品は何か持っているんですね。
――今の話を聞いていると、大みそかに『コマンドー』を放送したら面白そうですね。
菅原 最高ですよ。「ゆくコマンドーくるコマンドー」。
神田 権利買ってパブリックビューイングやりますよ(笑)。
世界に誇れる日本の「吹替」文化
――「吹替の帝王」のような商品を展開しているのは日本だけでしょうか。
神田(=右写真) 「テレビ用吹替」というのは、日本独特の文化のようです。成績が好調なので、この企画を米国本社の人が他の国にも紹介しているのですが、もともと劇場公開時にちゃんと吹替版を作っていて、それをテレビでも流用するので、「テレビ用吹替」というのは存在しないそうです。日本は「映画館では字幕」が主流で、テレビ放送時に吹替を作るという特殊な文化なので、それが今となってはありがたい限りです。
菅原 海外では「声優」という職業がないところも多く、例えばアナウンサーのバイトとか、吹替は「収録されていればいい」という程度の扱いの場合もあります。でも日本は声優さんがリスペクトされています。米国も、例えば相当なバジェットのアニメ映画になると有名な俳優さんを起用しますが、日本はプロの声優さんを起用することが喜ばれる傾向にありますしね。
神田 テレビで洋画劇場が少なくなった今、我々が吹替スタッフの足跡ときちっと形にして残していく必要があると思っています。ぜひ他のスタジオさんもやってほしいと思います。
――「吹替は日本の文化」なわけですね。
神田 テレビ吹替の起源をたどれば、海外ドラマまで話が及びます。53年にテレビ放送が始まりましたが、まだ当時は放映するもの(コンテンツ)がなかったのです。その時に重宝したのが米国のTVドラマらしいのです。当時はまだ「2次利用」という概念がないので、ドラマを安く購入できました。そこに吹替が必要になってきたと。当時は映画とテレビはライバルだったので、邦画のテレビへの供給はありません。ですからテレビ局は海外のドラマ、そして海外の映画を頻繁に放送していました。
菅原 この商品を扱うためには、そういった吹替の歴史から勉強しないと、半端な知識では臨めません。声優さん、演出家さん、プロデューサーさんにもインタビューしているので、どんどん知識が増えていきますね。日本が誇るものはまず「アニメ」というイメージですが、同時に「吹替」も世界に誇れるもので、編集・翻訳・声優の演技、どれをとっても素晴らしいものです。「吹替の方が面白い」なんてこともけっこうあります。これからもファンの期待に応えていきたいと思いますし、この企画を続けていくためにも、ぜひ皆さん買ってください(笑)。 了
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取材・文/構成: 平池 由典