大阪の建築資材メーカーの元社長・三上康雄氏が、私財を投じて完成させた時代劇映画『蠢動‐しゅんどう‐』。先日、そのブルーレイとDVDが発売されました。
何度か取材させてもらったご縁でブルーレイBOXを頂いたのですが、これが驚くような豪華仕様。映画本編と同様、手抜きなしの「全力」が伝わってくるので、ちょっと紹介させてください。価格は税込1万円超ですが、購入した人はたぶん納得されると思います。
BOXに封入されているのは、ブルーレイ2本、復刻版パンフレット、最終上映チケット。
復刻版パンフレットは、今回の『蠢動‐しゅんどう‐』のパンフではありません。本作の基となった、三上監督が30数年前に撮った自主映画『蠢動』のパンフなのです。自主映画と言っても、商業映画とそん色ない立派なパンフであり、こんなしっかりしたものを作っていたのかと感心します。
最終上映チケットは、10月に開催される最後のイベント劇場上映への招待券です。三上監督は、劇場での上映に非常にこだわりを持っています。そこで、BOXの購入者に改めて劇場で楽しんでもらおうという粋な計らいです。
ブルーレイの1本は、もちろん本編が収録されています。それに加えて、英語字幕付き本編(タイトルは『BUSHIDO』)も収録。予告編も、海外用を含めて5本入っています。ちなみに、パッケージには「テレビモニターの輝度を暗くして頂ければ、スクリーンの色に近づけることができます」というメモが入っています。こんな但し書きが入ったブルーレイは見たことがありません。初めてテレビの設定ボタンをいじって明るさを調節しましたよ。
しかし、このBOXの真打ちはブルーレイの2本目。ここに収録されている特典映像が凄まじい。
まず、30数年前に三上監督が撮ったオリジナル版『蠢動』が収められています。当時16mm 4:3サイズで撮影されたものですが、わざわざネガからテレシネし、16:9サイズにHDリマスターしたそうです。しかも、ちょっと全体のテンポが遅かったということで、監督が改めて編集し直したそうです。
そして、さっきから凄い凄いと言っているのが「3時間以上のメイキング映像」です。監督の製作意図の説明から始まり、どこをロケハンしたのか、オーディションで誰を選んだのか、殺陣の稽古の様子はどんな感じだったのか、衣装合わせの様子、リハーサルの様子、小道具をどこの会社に頼んだのかまで、細かく細かく監督の説明字幕入りで紹介されます。
撮影の様子も、初日から最終日まで1日1日を丁寧に追います。それも、現場の様子をただ眺めているだけではありません。
引き画と寄り画を撮り、それがどのように本編で生かされているのか。画面を4分割して解説するという心配りです。何度も何度も撮り直しする場面では、なぜ三上監督がNGを出したのか、なぜ今回はOKだったのが。その比較映像も映されます。面白いもので、確かにOKカットの方が良いのですね。NGを連発している映像だけ見ると「うるさいオッチャンだな~」という感じですが、比較映像で確かめると「なるほど…」と納得してしまいます。
撮影だけじゃありません。編集の経過も包み隠さず明かしています。編集に使ったソフトの紹介から始まり、この映像素材を使って、粗編集して、編集して、画角調整して、色調整して、整音・音響効果を加えて完成という一連の流れを紹介。
撮った映像はこうだったけど、演出とカット割でこれだけテンポがよくなりますよ、という例を挙げたり、カツラの線をこのように消しました、という説明だったり。一つ不満を挙げれば、音響をどのように作ったのかが映されていなかったこと。これは企業秘密なんでしょうね。見てみたかったです。
作品が完成してメイキング終わり!…ではありません。初号試写会の登壇者の映像や、どんなポスターを掲載し、どんな新聞広告を打ち、どこの劇場で公開したのかまで、とにかくありとあらゆる情報を盛り込んでいます。そして、最後には三上監督の挨拶で締めるという内容。
映画作るより時間かかったんじゃないの?というほど、凝りに凝りまくったメイキング映像。これだけで映画作りの大まかな流れがわかってしまうので、非常に勉強にもなります。
『蠢動‐しゅんどう‐』を見て、作品を気に入った方は、手元に置いておくべき1本だと断言できます。大量に作っているわけではないそうなので、購入を希望する方は早めが良いと思います。