ここ数日、スタジオジブリの「映画制作部門解体」というニュースが飛び交っています。
鈴木プロデューサーが6月末の株主総会で明言したということなので、実際にその方向性なのでしょう。「後身の育成がうまくいかなかった」「新作の興行成績が振るわなかった」などが主な理由として挙げられていますが、やはり宮崎駿監督の映画制作引退が大きなキッカケになったのだと推測します。
ところで、昨年秋に公開されたジブリのドキュメンタリー映画『夢と狂気の王国』(砂田麻美監督)を最近DVDで観たのですが、実はこの作品の中で、今回の報道につながる映像・コメントが散りばめられているような気がします。当初は『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』のメイキング映像なのかな?程度の印象でしたが、いやいや…。もっと早く観ておくべきでした。
例えば、「宮崎監督引退後のジブリはどうなるか?」という質問をぶつけた時、宮崎監督自身が、会社は立ち行かなくなるだろうね、という趣旨のコメントをしています。さらに、宮崎監督の若い時期の映像で、スタッフに「君たちの終身雇用は保証しない」と語りかけるシビアな場面もあります。(アニメーション制作に関わる人は、みんなその覚悟を持っているのでしょうが)
なかなか後身が育たないという点では、ある女性スタッフが「自分の何かを守ろうとする人は、ここではやっていけない」という話をしています。つまり、宮崎監督が理想とするものを受けて、それを忠実に表現したいという人には素晴らしい職場である一方、自分の表現・考えを貫きたい人は、独立を選択してしまうということかもしれません。庵野監督が宮崎監督について「スタッフを下駄だと思ってる」と冗談半分で語っていますが、それも、やはり「宮崎監督のスタジオ」であることを示していると思います。
300人のスタッフを抱えるということで、定期的に新作を作っていく必要性がありますが、宮崎監督が引退。高畑勲監督も『かぐや姫の物語』が最後となり、誰が今後ジブリの新作を担っていくのか。その重要なポジションにいる宮崎吾朗監督の映像も出てきます。それは、川上量生さんとやり合うシーン。「吾朗さんのために(新作を)やっている」という川上さんの考えと、「自分がやりたくてやってるんじゃなく、ジブリのためにやっている」という吾朗さんの考えの乖離が映され、企画がスムーズに進行していないのかな?という印象を持ちました。
ほかにも、高畑監督の作品がなかなか出来上がらない。という鈴木プロデューサーと西村プロデューサーのぼやきがいくつかあり、『かぐや姫の物語』の製作期間8年、製作費50億円という途方もない年月と時間が、ジブリの経営を圧迫したことは容易に想像できます。
『夢と狂気の王国』の作品自体は、決してジブリの経営に焦点を当てたものではなく、砂田監督の『エンディングノート』同様に人間・宮崎駿に寄り添ったもの。宮崎監督と高畑監督の微妙な関係性や、思いつきで『風立ちぬ』の声優に庵野監督を起用してしまう下りなどが非常に面白い作品です。ただ、先述のとおり、ところどころに今回の報道につながっていることを臭わせる場面があり、その観点からも興味深いドキュメンタリーです。
まだ観ていない方は、ぜひご覧ください。