【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.152】
「ウルフ~」「小さいおうち」、大雪からベルリン
2014年02月26日
この2月、土曜日を中心に2週続いた山梨や関東地区での大雪が、興行に影響した。かつて、映画界にこういう興行の見方があった。「映画興行は、いくら見る環境が悪くても、見たい作品であれば、それほど影響を受けることはない」。一種の映画興行至上主義である。だが今や、この言葉は微妙な言い回しになった。
それほどに、自然の猛威はひどいものになった。これは、環境の劣悪さを跳ね返す力をもつとみられていた映画の価値云々の話ではない。「無用な外出は控えてください」と言われるほど、厳しい時代が到来してきたのである。これに、初日を迎えた作品をはじめ、ほとんどの映画が多大な影響を蒙った。
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を、健闘の出足と言った。10億円を超えてくる可能性が高いとも書いた。この見通しが、大雪の影響で微妙になった。本作の興行は、関東地区が比較的健闘していた。それが、トーンダウンした。もちろん、大雪だけが理由ではないが、不運だった面は否めないのである。
「小さいおうち」は、もっと影響を受けた。年配者が多い興行だから、大雪になれば、その影響は計り知れない。2月15、16日など、土曜日だけではなく、気候が回復した16日の日曜日も影響を蒙った。
ところが、ベルリン国際映画祭での受賞の報が伝わるや、翌日の17日あたりから、劇場に問い合わせが多くなった。結果、その週の興行はうなぎ上りになった。17日=興収2288万円(前週比120・2%)、19日=3266万円(145・9%)。22、23日の土日は、何と前週土日の166%まで、興収を伸ばしたのである。
「小さいおうち」は、これでファーストランでは、最終13億円あたりまで見込まれることになった。明らかなベルリン効果である。大雪で沈滞し、ベルリンで息を吹き返す。これが、映画興行の厳しさであり、面白さである。「ウルフ~」にしても、アカデミー賞の受賞により、どうなるかわからない。
「土竜の唄 潜入捜査官 REIJI」は、その大雪の影響が、比較的少なかった作品である。客層の主流が若い観客であること。評価も相応であることなどから、大雪ではなくなった2週目の22、23日の土日も、前週土日の83・5%(興収)をキープした。
これは、冒頭で指摘した映画興行至上主義の一端をうかがわせる。環境が劣悪であっても、「見たい作品であれば、見に行く」ことがあり得る作品だとも言えようか。映画興行は奥が深い。というより、どうなるか、全く予測不能なのである。以上の3本だけを見ても、それが十分に認識されることだろう。
(大高宏雄)