「正月興行は、賑わわないといけない」。当社紙媒体の連載コラム「映画業界最前線」で、こう書いたことがある。同コラムをまとめた「映画業界最前線物語 君はこれでも映画をめざすのか」(愛育社・刊)に載せてあるが、それは「相棒」の劇場版の2作目のときだった。その年の年末、ほぼ満席の映画館で、私は冒頭の言葉を噛みしめたのである。
12月8日、池袋のHUMAXシネマズで「ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE」を見ながら、改めてそのときの思いが、わが身に迫ってきた。こりゃ、正月興行に全くふさわしい作品だな。その意味は、満席状態の興行のありようもさることながら、客層の広さと、映画終了後の満足そうな観客の反応、何にもまして華やかな劇場の雰囲気が、いかにも正月興行作品らしい雰囲気を彷彿とさせたからである。
「正月興行は、賑わわないといけない」。もちろん、普段が賑わわなくていいという意味では、全くない。当たり前だ。ただ、その年の年末から正月の期間は特別に、映画界恒例行事のような賑わいの興行を形作る必要がある。配給、興行サイドは、多くの観客を巻き込んで、賑わい、発奮材料としての正月興行を経て、新たな年を迎えることができるのである。
さて、その「ルパン三世~」は、12月7、8日の2日間で、全国動員53万9132人・興収6億4983万5000円を記録した。今年の「名探偵コナン 絶海の探偵(プライベート・アイ)」の2日間成績(56万5914人・6億7154万8700円)には及ばなかったが、それでも客層の広さ、正月期間の休みの興行を想起すれば、最終40億円が視野に入ったと言っても差し支えない。
「利休にたずねよ」は、7、8日の2日間で、7万8743人・8690万7700円。1億円に届かず、期待より低めのスタートであるが、本作は平日の興行が、比較的安定している。私が見に行った平日の丸の内TOEIは、朝の回ではあったが、かなりの年配者が鑑賞していた。
この感じなら、正月期間の期待が、幾分かはもてる気がした。数字的には物足りないかもしれないが、それは今後の反省材料としていただきたい。ただ、「利休にたずねよ」の興行は、捨てたものではない。ここは、とくに強調しておきたい。
12月6日公開の「47RONIN」は、興行成績が明らかにはならなかったが、予想をかなり下回ったのは間違いない。私が最近よく指摘している、日本舞台のハリウッド映画の難しい興行情勢を、そのままなぞってしまった。もはや、この国の人々は、日本題材のハリウッド映画を、かつてのように “ありがたく” 感じなくなったのである。
(大高宏雄)