夏興行の本命、「真夏の方程式」が、6月29日から公開され、数字上では大ヒットのスタートを見せた。29、30日の2日間では、全国動員36万3451人・興収4億6499万2250円を記録した。ただ、 “ガリレオ” の前作「容疑者Xの献身」(08年、興収49億2千万円)のスタート成績は、超えられなかった。
「容疑者Xの献身」は、少し特異な興行展開を見せた。2週目以降の落ちが少なく、その勢いのままに50億円近くまでもっていった。「踊る大捜査線」や「海猿」のようなフジテレビ得意のイベントムービーとは違って、最初から “かぶる” ことはなかった。ここが、重要である。じわりじわりと口コミを伴っていくパターンで、おそらく今回も、それに近い展開になるのではとの推測もできる。
映画を見て、私は非常に興味深い作品との印象をもった。例によって、この手の娯楽作品には容赦のない新聞批評では、ボロクソに近い酷評のところもあったが、それはそれとして、私には十分にチャレンジングな作品のように映った。
スペクタクルやアクション描写が主体となるイベントムービーからの脱却が、本作にはっきりと見てとれたからである。謎解き、サスペンスに、感動を振りまく物語の展開のなかに、今日的なテーマが、しっかりと配置されていた。
事件の発端に、地域開発と自然保護の対立の構図があり、ここで物理学博士の湯川(福山雅治)は、重要な発言をする。簡略すると、「(開発の中身、自然の実態ともを)調べて知って、それから選択することが必要だ」と。これは、開発(経済の特需)=悪、自然保護=善、という二分法的思考、行動形態ではない。
現状、現実を知ることが重要なのである。ただ、映画は湯川の発言を全面的に肯定しているわけではない。自然保護強硬派の女性(杏)は、「そうした論法は問題をはぐらかす」との意見の持ち主のように見えた。残念ながら、その “対立軸” は、本筋の事件の真相が明らかになるにつれ、微妙にぼかされていくが、映画の根っこに、そのようなテーマが厳然とあったことが実に興味深い。
もちろん、こうした側面が、映画の口コミに直接つながることは難しい。だが、その実体性は希薄であろうが、映画に得も言えぬ栄養分を加味するものだ。栄養分は、全体の体質を強固にする一要素とも言っていい。それが「真夏の方程式」にはあり、イベントムービーとの違いを、私はそのあたりから認識したのである。
そうした方向性は、今後の興行とどのようにリンクしていくのか。本作への関心の所在は、そのあたりにもあると言えよう。
(大高宏雄)