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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.127】
「クロユリ団地」、前田敦子を見る映画

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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.127】
「クロユリ団地」、前田敦子を見る映画

2013年05月23日
 「クロユリ団地」(製作幹事・日活、配給・松竹)が、好調なスタートを切った。5月18、19日の2日間で、全国動員11万8885人・興収1億5342万4100円を記録(162スクリーン)。20日の月曜日も、3000万円ほどの興収を上げた。

 2日間だけをみれば、今年の松竹の配給作品でいうと、最終で推定17億円を記録している「東京家族」の2日間(2億0961万6000円)に次ぐ。今のところの見通しは難しいが、最終では10億円近くまで興収が伸びる可能性もある。

 邦画ホラーというジャンルでは、昨年の「貞子3D」(最終13億5千万円)などとともに、最近では健闘の部類だろう。よくやったとさえ言っていい。宣伝面では、不気味な少年のビジュアル中心に、より具体的な怖さを前面に出していたが、これが功を奏したとともに、中身的にはW主演の一人、前田敦子への関心も、出だし好調の大きな要因と言えよう。

 5月17日付の日経新聞夕刊が、「クロユリ団地」のなかなか面白い評を掲載した(筆者は古賀重樹編集委員)。心的外傷後ストレス障害(PTSD)が、映画の「底流」にある。前田は、「生き残った者が無意識に抱える罪悪感」から、様々な幻影を見る。「ヒロインの潜在意識に迫るための綿密な構成が、恐怖をリアルにする」として、「描かれた潜在意識そのものが時代と共振している」と結ぶ。

 「潜在意識そのものが時代と共振」が、興味深い。その中核にあるのが、前田敦子の演技ということになるのだが、それに関連して私には一つ、非常に気になったことがある。それは、前田の顔、表情をとらえつくそうとするカメラが尋常でないほど、彼女の全存在に絶えず接近していたことなのである。

 前半あたりでは、さりげない顔や表情のアップがやたらと多いので、彼女のドキュメンタリーではないかと思ったほどで、それは全編を通じて一貫していた。子どもに話しかけるときの優しい風情から、意外な展開に驚き、不安、恐怖へと激変していく彼女の顔、表情を、丸ごととらえようとするかのようなカメラの異様な接近、すり寄り。これが、「潜在意識そのものが時代と共振」といった特質やホラーというジャンルそのものさえ超えて、前田敦子という女優の生々しくも新しい境地を引き出していったのである。

 興行面から、少し逸脱してしまった。要は、本作の魅力とは彼女の存在をおいてなく、彼女への関心の度合いが、興行を構成する全体像ではないが、これからもとても重要な意味をもってくるのだと思う。私としては珍しく、もう一回見たくなった。

(大高宏雄)

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