「007 スカイフォール」が、大ヒットのスタートを切った。12月1、2日の2日間で、全国動員39万8754人・興収4億5463万9650円を記録した(584スクリーン)。ダニエル・クレイグがボンドを演じて以降では、最高のスタートである。素晴らしい。洋画低迷の折、これほどうれしいことがあろうか。
比較をしてみよう。あくまでスタートの土日の興収比較であるが、「007 カジノ・ロワイヤル」(06年12月1日公開、最終興収22億1千万円)の169%、「007 慰めの報酬」(09年1月24日公開、最終20億円)の145%。これなら、現段階では最終30億円の突破が十分に期待されよう。
こんなこともあった。メイン館のTOHOシネマズ日劇では、初日の初回が満席になり、以降すべての回で満席に近い状態が続いたというのである。TOHOシネマズ運営になってからでは、日劇の初回満席は初めてだそうで、これには興行側も驚いたと聞く。
あー、そうか。逆に言えば、そこまで劇場が疲弊していたのかということにもなるのだが、そうした状況を「007」がいささかなりとも突破したということであれば、洋画興行の今後に、何らかのヒントをそこに見出すこともできる。
この好ダッシュは、ロンドン五輪での世界的なアピールなど、イベント的な要素が大きいであろう。ただ、そこには、まぎれもえなくシリーズへの期待感が垣間見られた。ファンは、「007」を待っていたのである。それに加えて、若い観客も相応に動員している。この好ダッシュは、ノスタルジーではなかった。
さて、見込みの興収に届くためには、今後の推移が重要である。いわゆる口コミがきくか。最近の洋画のアクションものに忠実に、どんどん興行が下火になっていくか。これは期待を込めて、後者にはならないと、ここでは言ってしまいたい。明らかに、前2作をしのぐ見事な出来栄えを見せているからである。
シリーズの定番と現代性。この両輪が、作品のなかで、うまく混ざり合っている。加えて、もちろんアクションの切れ味がいい。CG主体で見せるというより、それを駆使しつつも、生身の肉体性をしっかりと描く。ボンドの生い立ちなど、シビアな側面も織り込みつつ、敵の所在の曖昧さなどの点で、透徹した現代感覚が見られた。
こうなると、すぐに洋画の突破口となるのかどうかと問いがちだが、それは時期尚早だろう。「007」という底の知れない地層のなかに眠る映画的な快楽。それは今のところ、極めて限定的なものだからだ。ただ、そうは言いつつ、今後の展開に大いに注目しようではないか。
(大高宏雄)