【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.104】
「悪の教典」、邦画企画の広がりにつなげ
2012年11月14日
「悪の教典」が、好スタートを切った。11月10、11日の2日間で、全国動員21万5059人・興収2億9894万5000円を記録した(309スクリーン)。ヒットと言ってもいいのだが、都会の好成績に比べて、地方が少し物足りないのが、一つ気にかかるところだ。
ただ、タイトルに同じ「悪」がつき、「悪の教典」と同じく東宝が製作の幹事会社をつとめた「悪人」(最終興収19億8千万円)の2日間成績(2010年9月11、12日、231スクリーン)は、19万1296人・2億4624万2900円を記録。「悪の教典」は、これを上回っている。これだけを見るなら、最終で20億円が十分に視野に入る。
この2作品を比較すれば、話題性、作品の娯楽的なインパクトなどの点から、「悪の教典」のほうが、「悪人」より興行のポテンシャルは高かったと見ていい。だからスタートは、もっと“かぶっても”良かった気がする。ちなみに「悪人」は、カナダの映画祭の受賞(主演女優賞)が公開後、多少なりとも興行の追い風になっていた。
「悪の教典」が、“ヒットと言ってもいい”あたりに収まったのは、バイオレンス的要素を受け入れる層に、少し偏りがあったからではないか。その偏りが、都会と地方の多少の違いに現れたとも言える。
つまり、好奇心をあおる話題性、それを支える作品のインパクト。その双方が浸透していく過程で、観客は色分けされていったのだろう。関心のある無しが、はっきりした作品。それが、地方のちょっとした成績の低下にストレートに反映されたとみる。
本作のスタート成績には、このような興行のちょっとした裂け目が見える。だから、今後の展開が非常に気になる。口コミ効果を高める役目としては、当然クオリティの高さが重要となるが、その点に関し、「悪の教典」は今のところ曖昧と言うしかない。公開後の爆発力が凄かった「告白」とは、明らかに違うだろう。
ただ、私は本作の製作の意味の大きさを指摘したい。テレビ局主体の作品がなしえない映画の魅力を切り開き、宣伝面でそれを積極果敢に押し出したことは、今後の邦画企画の広がりに通じるからだ。よくやったし、だからこそ、今後の推移が注目されるのである。
(大高宏雄)