閲覧中のページ:トップ > コラム > 特別編集委員コラム >

【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.106】
「人生の特等席」、この過酷な現実を見過ごすな

特別編集委員コラム

最新記事

【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.106】
「人生の特等席」、この過酷な現実を見過ごすな

2012年11月28日

 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の勢いが、止まらない。すでに、興収30億円を超えた。ありえないスピードである。「~海猿」をしのぎ、今年最速で30億円を超えたというが、そんな比較自体、あまり意味はない。「ヱヴァンゲリヲン~」なのだから、何でもありなのである。

 新宿バルト9は、週計の新記録を樹立した。11月17日から23日までの1週間で、動員6万8797人・興収1億1256万5900円。このうち、「ヱヴァンゲリヲン~」は、4万5969人・7740万9000円。何と、バルト全体の68.8%を占めるというわけだ。

 ちなみに、この成績は、これまでの記録であった2010年の5月1日から7日までの5万2782人・8609万5900円を超える。このときの作品は、「アリス イン ワンダーランド」「のだめカンタービレ 後編」など。この比較も先のように、あまり意味はない。

 この “騒動” のさなか、ひっそりと公開されたのが、クリント・イーストウッドが約4年ぶりに出演した「人生の特等席」である。11月23~25日までの3日間で、8万9092人・1億0537万8450円を記録したのだが、何ともやりきれないようなスタートとなった。

 当初、本作の予告編の評判の良さを聞いていた。確かに、父と娘の物語を基軸にしたその予告編は、人生ドラマとして、実にまっとうでわかりやすいトーンがあり、年配者が関心をもちそうな内容であるように見えた。ちょうど、「のぼうの城」や「北のカナリア」などの上映が行われている最中であり、タイミング的にも、非常にいいのではないかとの感触をもった。

 それが、どうだ。スタート時点では、浸透の度合いが弱く、というより、浸透以前にこうした題材への関心が広がらない印象を受けた。年配者にして、そうなのか。高倉健や吉永小百合であるなら、ある程度の興味を示す人たちも、米映画のイーストウッドでは、とてもじゃないが、身銭を切るまでにはいかない。

 映画は面白い。父と娘のわだかまりが、いくつかの垣根を超えて縮まり、最後は拍手喝さいのどんでん返し。何と、気持ちのいい作品であることか。だから原因は、そもそも何なのだ。洋画そのものが、すでにしてネックになっているのか。スターなのか。題材なのか。

 こうした作品が、相応の興行にならないとなると、映画興行はますます “どつぼ” にはまっていく。「ヱヴァ」騒動の陰で、理不尽極まる事態が起こっているのだ。この過酷な現実を見過しては、断じていけない。

(大高宏雄)

関連記事

過去のタイトル一覧

2017年

10月

2016年

1月│ 7月

2015年

1月│ 3月│ 4月│ 6月│ 8月

2014年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月

2013年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2012年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2011年

1月│ 2月│ 3月│ 4月│ 5月│ 6月│ 7月│ 8月│ 9月│ 10月│ 11月│ 12月

2010年

10月│ 11月│ 12月