躍進するBS放送。その魅力の一つに「ゆったり」、あるいは「じっくり」とした番組作りが挙げられる。とくに紀行番組や報道番組などでその印象が強い。地上波と差別化したそうした編成が視聴者の支持を集めている大きな理由の一つだ。その中で、もう一つのキーワードも浮かび上がってくる。それは「本音」ではないだろうか。
BS放送において、ひとりの当事者や専門家からじっくり話を聞く番組が増えている。とくに、BSフジ「プライムタイム」(平日20時)やBS11「INsideOUT」(平日21時)。いずれも旬なテーマを扱う報道生番組。主に大物政治家らをゲストに招き、徹底した討論で、本音を引き出している。出演するゲスト側も自身の考えを十分伝えることができると好評だ。BS放送の一つの報道スタイルとして定着させ、どちらも両局の看板番組に育っている。
BSフジ「プライムニュース」は平日2時間という大型番組ながら、高い接触率を獲得するようになり、固定ファンも多い。MCを務める、ちょっと強面な反町理氏の突っ込みも人気のようだ。一方、BS11は無料BS放送の中では後発ながら07年12月開局時から「INsideOUT」を送りだした先見性を持つ。今年4月から「プライムニュース」と重なる放送時間にあえてぶつけている。両番組とも12月の総選挙で、連日大特集を組んでおり、力が入っている。
報道番組ではないが、BS日テレは、この10月からお笑いタレント加藤浩次MCの新番組「コージ魂」(木22時)をスタートさせた。毎回あらゆるジャンルの著名人とタイマンでトークする1時間番組。とにかく話を聞いてみたい人を招いて、お笑いのツッコミならぬ、本気で突っ込む。加藤は「段取りはまったくない。オレが好きなように聞きたいことを聞くだけ。相手は誰でもいい」と豪語するように、本音トークが繰り広げられる。初回は小泉純一郎元首相首席秘書官の飯島勲氏を招き、最近では田原総一朗、見城徹、篠山紀信ら大物著名人が登場した。お笑いタレントゆえに引き出せる本音トークと、著名人とのミスマッチが見どころだ。
TwellVは、論客で知られる寺島実郎氏がMCを務める新番組「BS寺島 月9トーク」(月21時)を12月17日からスタートさせる。TVレギュラー初出演の寺島と各界大物ゲストの1時間対談番組。正式タイトルは「就職を機に世界と人生を考える!BS寺島 月9トーク」。そのタイトルにあるように、若い世代の就職応援団の番組としてゲストからそのヒントを引き出す。そして、そこから見える現代の社会問題に斬り込んでいくという。初回放送はグーグル日本法人社長も務めた村上憲郎氏。このほか、安藤忠雄、大里洋吉、澤田秀雄、鈴木修、孫正義の各氏が続々と登場する。
寺島氏は、現在、日本総合研究所理事長、多摩大学学長、三井物産戦略研究所会長を務める一方で、宮城県震災復興会議委員、経産省 今後のエネルギー政策に関する有識者会議委員、国立大学法人評価委員会委員、文科省 日中韓大学間交流・連携推進会議委員、同省 大学の世界展開強化事業準備会合委員ほかを兼任。著書も多数あり、時代を読み解く視点を莫大に持つ人物だ。
先頃、記者会見を行い、「いま若い人はまっとうな大人に出会っていない。尊敬する実物はTVのタレントだったりする。人間関係が希薄。だからその出会いを学生たちに与えたい」という思いで、TVレギュラー初となる番組出演を決めたという。そして、もう一つの理由として、ピンポイントにアクセスする人たちを引き寄せることが出来るのがBS放送で、かつ、そうでなければならないというBS放送に対する思いだと語った。
すでに孫正義氏との対談は収録済みで「高校からアメリカに渡るなどした孫さんの話は心震わせるよ」とアピール、その放送は大晦日「NHK紅白」の真ウラで真っ向勝負だ。
その人の本音や、今だから話せる話は興味深いもの。BS放送は、普及率7割を超え、接触率も上昇しているものの、地上波と比べればまだまだ媒体力は小さい。ゆえに、出演者も本音を話しやすい面もあろう。「コージ魂」の加藤浩次も「だって地上波なら言えないけど、BS放送だから」と冗談交じりに話す。BS放送が将来、地上波と肩を並べるほどになるとは言い難いが、十分に市場開拓の余地があり、媒体としての影響力は着実に増していくだろう。地上波ほどではないにせよ、番組での発言が一層注目されるようになる。「BS放送だから」と言っていられなくなるその時はそう遠くないのかもしれない。
(戎 正治)